152.「ご迷惑、でした?」
結局朝バイキングの終了時刻まで粘ってしまった。
追い出された後はおのおの好きなように過ごすように信楽さんからお言葉がかけられた。
昼食の予約時刻にこのレストランに集合だ。
「信楽さんはどうするの?」
「私ぃはちょっと仕事ですぅ。
というわけでぇ、静姫様の泳ぎ見学はぁ後日お願いしますぅ」
ここまで来て仕事かよ!
大変ですね。
「僕、付き合わなくていい?」
「大丈夫ですぅ。
矢代社長はぁのんびりして下さいぃ」
そう言って去る信楽さん。
やっぱ仕事中毒だよね。
渡辺さんは炎さんと一緒にどっかに行ってしまった。
去り際に「デート券は後で使います」と言い捨てていったけど、本気だったのか。
パティちゃんについてはロンズデール・グループの代理人に連絡したところ、昼食後に車で迎えに来てくれることになった。
そのままどこかの空港に直行するそうだ。
プライベートジェット機がそこで待機しているらしい。
セレヴだね。
それまでは矢代興業が責任を持って保護する必要があるので僕について貰うことにする。
つまり昼食が終わるまでの保護になるからそれでいいかと聞いたら頷かれた。
「ご迷惑かけて、すみません」
「それはいいから」
迫水くんは気がついたらいなかった。
自由奔放だな。
さすが神様。
いや違ったっけ。
でもこの人たちの言動ってどこまで信じて良いのか判らないんだよなあ。
何か独自の法則で動いているみたいで、人間社会の常識には必ずしも従わない。
別に奇矯な行動をとるというわけでもないんだけどね。
まあいいか。
というわけで僕たちは時間までスパで過ごすことにする。
温泉も捨てがたいけど、考えてみたらこんな真冬にスパで遊ぶという機会は滅多に無いことに気がついたんだよ。
ただの温泉なら宝神の近くにも結構あるらしいし。
それに僕は昨日入ったから。
フロントで聞いてみたら宿泊客なら自由に使えるということで、そのままスパに直行する。
必要なものは水着くらいだし、全員カードキー持参だから手ぶらでもいいのだ。
昨日と同じく受付の所で水着を借りる。
僕以外は女の子だから別れて脱衣場へ。
着替えてスパに入ると結構混んでいた。
どうも宿泊客だけじゃなくてこのスパ目当てに遠征してくるお客さんもいるらしい。
昨日は夜だったからそういう外部客はいなかったんだろうな。
とりあえずジャグジーに入ってまったりしていたら二人が追いついてきた。
美貌と巨乳が眩しい比和さんは大人しめな水着だったけど何せ巨乳が目立ってどうしようもない。
しかも巨乳だけじゃなくてスタイルの良さも抜群だからラノベによく出てくる海辺のヒロインみたいに輝いていた。
一方パティちゃんはビキニでこっちもエロゲーのヒロイン並にはエロい。
胸の谷間もはっきり見えてるし、何より白い肌が輝くようだ。
白人種って凄いね。
というわけでこっちもどうみてもヒロイン。
しかも女子高生タイプの。
小学生なのに。
アニメじゃなくてもそういう人っているんだよね。
どっちにしても美少女と美女で、ラノベだったら登場して2ページくらいでナンパされそう。
「失礼致します」
「入ります」
あっさりと湯船に入ってくる二人。
エロゲ?
水着とはいえこれだけ接近されるとアレだよね。
「ご迷惑、でした?」
パティちゃんが心配そうに聞いてくるけどそんなことはありません。
周囲の視線が気になるけど。
「何も恥ずべきことはありません。
旦那様にお仕えする腰元が主のご好意でご一緒させて頂いているだけです」
落ち着き払って言う比和さん。
ちょっと無理があるんじゃないの?
(別に構わんだろう。
それより矢代大地はやっぱり変だぞ。
水着の美少女や美女にこれだけ接近されて何もなしか)
いいでしょ別に。
それは僕だって男だし、まだ未成年だし、○貞だから色々と想うことはあるよ。
でもそういうんじゃないんだよなあ。
そもそもこの二人は多分両方とも精神年齢的には僕より上だよ?
(もういい)
なぜか怒りを僕に向けてくる無聊椰東湖。
身体を乗っ取ったりしないでよね。
アラフォーがいくら美女と美少女とはいえ未成年の大学生や小学生に手を出したら犯罪だから。
(するか!)
気配が消えてしまった。
どっかに隠れているんだろうな。
不思議なんだけど無聊椰東湖って完全に僕の心の中から消える、じゃなくて気配すら掴めなくなる時があるんだよね。
やっぱ謎があるなあ。
もう2年半以上一緒に暮らしている(違)のに無聊椰東湖についてはほとんど判ってない。
記憶も共有しているはずなんだけど、どうも曖昧だし。
まあいいか。
それから僕たちはスパの設備をいちいち試しながら遊んだ。
プールは競泳用の25メートルに加えて子供用や潜り専用の深いのもあったし、サウナやウォータースライダーもあった。
ちなみに姿が見えないと思っていた静村さんは25メートルプールで黙々と泳いでいた。
周囲の人たちに気味悪がられていたけど。
泳ぐ速度じゃなくてその泳ぎ方が。
クロールみたいなんだけど、どうも腕の振りと泳ぐスピードが合ってない。
しかもメチャクチャに早いんだよ。
おかげで静村さんが泳ぐコースだけがぽっかりと空いていて、迷い込みそうになる子供を親が慌てて引っ張り出したりして。
僕たちは関係者だと思われないように素早く退避した。
他にも面白そうな設備はいくらでもあるからね。
それにしてもホテル付きの室内施設にしては大規模過ぎる思ったら、このスパはそれ自体が独立した施設だそうだ。
経営は矢代リゾートとかで、資本は同じにしても別会社だという。
「元々系列企業ではあったのですが、経営難で手放したそうです。
矢代興業が一括で株を買い取ったと」
比和さんもそこら辺はよく知らないそうだ。
ただホテルにメイドや警備員を配置する計画に関わっているため、この何とかいうホテルにも比和さんの部下がいるらしい。
だから僕たち、護衛もなしに自由に動けていたのか。
「でも王国の人ってまだ未成年でしょ。
大学生がこんな場所で働いていいの?」
「宝神の実習という形ですので。
言わば学外研修ですね」
なるほど。
そういえば聞いたことがある。
外国の学校では在学中に一定期間、企業に派遣される形でインターン? として働くこともあるらしい。
実務経験を積むという名目で。
それも演習の単位になるそうだ。
宝神は専門職大学だから、そういう話は通りやすいんだろうな。
「それにしてもそんなに人数いたっけ」
宝神の正規の学生ってまだ百人くらいだったはずなのでは。
すると比和さんが何でもないことのように言った。
「宝神の正規学生として登録されている者は矢代興業の正規職員だけです。
その他にも聴講生や研修生、予備学生などの身分で働いて貰っている人もいますよ。
矢代興業で勤務して実績を上げれば宝神に正規学生として入学出来るため、皆さん頑張って頂いています」
何それ?




