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僕の学校は厨二病 ~厨二病でも平穏に学生生活を送りたい。が無理のようです~  作者: 笛伊豆
第一章 大学生?

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134.「それじゃ始めようか」

 プレゼントをネタにした掛け合いが一通り済むと、やることはひとつしかなかった。

 カラオケだ。

「新しい仲間がぁ矢代興業に入る時はぁ、矢代社長とぉカラオケするのが伝統ですぅ」

 そんな伝統はないと思うけど。

 ていうかその仲間って厨二病患者(アレ)の事だよね。

 それも重度というかもう引き返せないレベルの。

 宇宙人とか未来人とか、最近では魔王(炎さん)龍神(静村さん)もそうだったっけ。

 パティちゃんは厨二病(病気)がバレる前に条件をクリアしていたな。

 まあいいか。

 比和さんたちがカラオケの準備をしている間に聞いてみた。

「渡辺さんと迫水くんはカラオケやるの?」

「当然です。

 これでも現代の若者(ナウなヤング)ですから」

 渡辺さんの「若者」って20世紀、いやむしろ昭和の人だよね?

 神様ってやっぱ何かズレてるような。

「俺は普段はやらない。

 だが静村から聞いていたからな。

 練習してきた」

 迫水くんがなぜか威張って言った。

 この人、髪型はカッコいいし本人はイケメンなんだけど残念感が凄い。

 少年漫画とかで読んだ「カッコいい男」を演じているような。

「そんなことはないぞ。

 まぁ付け焼き刃ではあるけどな。

 何せ本来の俺は」

 そこまで言って言葉を切る迫水くん。

 額に手を当てて言う。

「すまん。

 今のは忘れてくれ」

 やっぱ残念みたいだ。

 何か見覚えというか既視感があると思ったら、迫水くんってひょっとしたら中2病なんじゃないのか。

 いや厨二病の方じゃなくて真性の。

 しかも現役というよりは引退後という気がする。

(中2病に現役とか引退とかあるのか)

 無聊椰東湖(オッサン)が聞いてきた。

 僕の記憶を読めるんだから判りそうなもんだけど駄目らしい。

 あれは知識というよりは感性みたいなもんだからなあ。

 いや僕は中2病に罹患し(かかっ)たことはないんだけど、そういうアニメを見たから何となく判る。

 ある日ふと目覚めるというか。

 そしてそれまでの黒歴史に悶え苦しむ。

 さぞかし辛かろう。

(……何となく理解した。

 アレだな。

 サラリーマンが仕事上の失敗を後で思い出すようなものだろう)

 違うと思います。

 いや僕はサラリーマンやったことがないから本当に違うかどうかは判らないけど、多分それよりもっと辛いと思う。

 魂を削られるようなものだし。

「ダイチ様。

 準備が出来ました」

 比和さんに言われて我に返った。

 まあどうでもいい話だ。

「それじゃ始めようか」

 僕が仕切ることになっているらしいので指示する。

 誰かが部屋の電灯を消すとプロジェクターから放たれた光がスクリーンを彩った。

 ミラーボールまで回っていたりして。

 そんな設備もあるのか。

「携帯用のぉミラーボールですぅ。

 カラオケにはぁ不可欠ですぅ」

 信楽さんが言うけどそんなもんかね。

「矢代社長ぅ。

 ご挨拶をお願いしますぅ」

 信楽さんが少し改まった口調で命じてきたので僕は立ち上がった。

「今日はクリスマスパーティという話だけど、渡辺さんと迫水くんの歓迎会でもあります。

 よく判らないけどおめでとう」

 適当に話すと即されて立ち上がった二人に拍手が送られた。

 この辺のノリはいいなあ。

 渡辺さんはかしこまって頭を下げただけだったけど、迫水くんは片手を上げて振っていた。

 やっぱ残念だ(泣)。

「それでは」

 比和さんが言ってカラオケの装置か何かのスイッチを入れるとすぐにイントロが流れた。

 スクリーンも明るくなる。

 あれ?

 動画は?

 それにも構わずトップバッターの人が舞台? に進み出た。

 静村さんじゃないか。

 あの普段は大人しい人がなぜ?

「あのお二人(柱)をぉ呼びこんだのは自分だからぁ責任を取るとおっしゃってぇ」

 言い訳するような信楽さんの声を尻目に静村さんが歌い出した。

 スポットライトを浴びて。

 ど派手な演出の割にはごく普通の歌謡曲だった。

 でもそれどころじゃない。

 スクリーンには歌なんか飛んでしまうくらいインパクトがある映像が!

 歌う静村さんの上半身のアップがリアルタイムで映し出されているんだよ!

 アニソンのコンサートなんかで歌って踊るアイドルや声優の後ろの大スクリーンにアニメや本人映像が出ることがあるけど、あれみたいだ。

 そうか。

 責任取るってそういうことか(泣)。

 でも何でわざわざこんな羞恥設定を?

「最初はぁ動画を流すつもりだったのですがぁ、そういう装置の用意がないとぉホテル側に言われましてぇ。

 そもそもぉこのカラオケ設備はぁ目立ちたい人が仲間を集めてぇ使うものだそうですぅ」

 信楽さんが溜息をつきながら言った。

「静止画では白けますしぃ。

 もうこうなったらぁみんなで恥をかこうかとぉ」

 思わず比和さんを見たら目を伏せられた。

 信楽さんも疲れているのかもしれない。

 いいよ判ったよ。

 こうなったらとことんやってやろうじゃないの。

 僕は敢えて率先してリモコンを手に取った。

 何か型が古いな。

 液晶が小さいしボタンが並んでいる。

 最近のカラオケリモコンってペンタッチ方式だよね?

 ふと見るとぶ厚い本が置いてあった。

 いや本じゃない。

 カラオケ曲のリストか!

「設備がまだ更新されてないようです。

 建物の修理や人事更新に手を取られて。

 このような小道具(ギミック)については矢代グループが買収する前のままだというお話でした」

 比和さんが教えてくれた。

「順次更新していく予定だということですが」

「いいよ。

 ある曲で何とかするから」

 とはいえリスト本をめくってみてもろくな曲が載ってないなあ。

 いや僕が歌える曲という意味で。

 そもそもアニメが少ない。

 しかも古い。

 キューティーハニーとか、これって20世紀版の奴じゃないの?

「ダイチ様?」

「いや大丈夫。

 すぐ選ぶから」

 僕だってアニソンしか知らないわけじゃない。

 古くても有名な曲は知っているし何とか歌えるはずだ。

 僕は覚悟を決めて番号を打ち込んだ。

 そう、このリモコンはリスト本に載っている曲の番号を入力するタイプなんだよ。

 こんなのまだ生き残っていたのか!

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