133.「その手があったか!」
信楽さんの宣言に皆さん満足したのか、それからは和気藹々とした雰囲気になった。
さっきまで荒れてたからなあ。
特に渡辺さんと迫水くんの勝負は物理的な衝撃が来そうな迫力だったし。
渡辺さん以外の人たちもそれぞれ自分の番号のプレゼントを受け取って開いていた。
僕が引き当てたのは一番大きな箱だった。
高価なものだったら嫌だなあ。
ドキドキしながら包み紙を破いて箱を開ける。
ここにいる人たちって何気に高額所得者が混じっているんだよね。
比和さんと信楽さんは矢代興業の役員だ。
年収は既にそこら辺のサラリーマンどころか一流企業の経営者クラスより多いと思う。
そんなことを言い出したら僕もそうなんだけど、実を言えば僕、年収自体は大したことがないんだよね。
未成年のうちからあまり現金を持ってしまうのはよろしくないと親に言われて、給与というか報酬の大部分を株式にして貰っているんだよ。
もちろん矢代興業の株だ。
僕は役員だから月給じゃなくて年収なんだけど、分割して毎月貰っている。
その毎月分で株を購入していたりして。
上場してないから時価はついてないんだけど、値打ちとしては凄まじい金額になると信楽さんに言われている。
今すぐ引退しても一生食っていけるどころか酒池肉林が可能なくらい。
許して貰えないだろうけど(泣)。
比和さんたちの収入がどうなっているのか知らないし、知りたくもないけど少なくともクリスマスパーティのプレゼント代をケチるような財政状況じゃないと思う。
僕が貰ったのは熊のぬいぐるみだった。
でかい。
抱えたら前が見えなくなるくらい。
これをどうしろと?
「お部屋に飾るといいですぅ」
信楽さんが無責任に言ってくるけど、何となく嫌だ。
「あ、矢代社長!
それ私が作ったんですよ!」
炎さんがはしゃいだ声を上げた。
そうなの?
魔王の特技はぬいぐるみ作りか。
ラノベでも白けるレベルだ。
「良いですね。
男にも女にも合うプレゼントです」
静村さんが爽やかに言った。
「いや男が貰っても」
「ミスマッチで笑いが取れます」
取りたくないよ!
炎さんは矢代興業の正社員だけど職階はそんなに高くないはずだから、収入も大したことないはずだ。
だから手作りのぬいぐるみか。
(魔王様は末長家の娘だろう。
本人の収入なんか関係ないぞ)
それもそうか。
だとしたらTPOに合わせたってところかな。
他の人のプレゼントも本来の値打ちはともかく換金したら大した金額にはなりそうにもないものばかりで、大学生のクリスマスパーティのプレゼントとしては合格点だった。
信楽さんはカチューシャが当たって喜んでいた。
カチューシャと言っても第二次大戦中にソ連軍が使った兵器じゃないよ。
お洒落な髪留めだけど千円くらいで買えそうなものだ。
でも信楽さんは今までそういう方面のお洒落はしたことがないらしくて、その場で装着してご満悦だった。
「嬉しいですぅ。
こういうのはぁプレゼントとしてぇ最高ですぅ」
いや男がそんなの貰ってもしょうがないと思うけど。
(男でもしている奴はいるぞ)
いたとしたって僕には関係ないよ!
その信楽さんが贈ったプレゼントはリボンのセットだそうで、パティちゃんが当たった。
信楽さんも露骨に女性向けだよね?
「女性にはぁまず間違いない選択ですぅ」
「男は?」
「嫌がらせというかぁ、冗談になりますぅ」
さいですか。
比和さんがちょっと憂鬱そうだったので見てみたら見事な刺繍のハンカチが当たったみたい。
お店で買ったら下手すると1万円くらいしそうだ。
「凄いじゃない!
手作り?」
「そうですね。
圧倒されます。
これほどの技量を見せつけられて心が折れそうです」
大袈裟なと思ったけど万能メイドとしては何か矜持に触れるものがあるんだろうな。
「それは私が作りました」
渡辺さんが寄ってきた。
そうなのか。
まあ、渡辺さんは神様とは言っても依代はまだ高校生だし、あまり自由になるお金はないんだろうね。
神様なんだから関係ない気もするけど。
「いえ。
この際、私の特技を喧伝しておくのも良いかと思いまして」
純真そうな笑顔でのたまう渡辺さん。
静村さんと違って本人なのか神様なのか判りづらいんだよね。
というよりは依代自身が本体という気もする。
「渡辺さんは刺繍が得意なの?」
「刺繍というよりは手芸全般ですね。
宝神でもそちらを専攻するつもりです」
手芸学科でも作るんだろうか。
高巣さんと話が合いそうだな。
静村さんが当たったのは何とバットだった。
途方もなく場違いで、そんなものをプレゼントにする人ってこの中では一人しか思いつかない。
「迫水くんだよね?」
「そうだ。
俺は男だからな」
言い訳にもなってないけどそういうことらしい。
迫水くんって天然なんだろうか。
男が自分以外は僕しかいないパーティでバットを贈られた人が喜ぶとでも?
「斬新ではあります」
静村さん自身は冷静というかまんざらでもなさそうだった。
「前からこういうものが欲しいとは思っていたんです。
欲を言えば木刀の方が良かったのですが」
「その手があったか!」
叫ぶ迫水くん。
何かこの二人、お似合いというか。
「違いますね。
お二人とも天然なだけでしょう」
冷たく切って捨てる比和さん。
神様相手に冷たいと思ったら、本人も妖精だったっけ。
近親憎悪なのかもしれない。
それにしては静村さんとは仲がいいけど。
「シズシズはお友達ですから。
矢代興業のために役に立ってくれそうですし」
「このお二方(柱)もぉ、いずれお役に立って貰いますぅ」
呟くように言う信楽さん。
影の支配者だからな。
怖いから知らないようにしよう。
そして迫水くんが貰ったのは。
「レターセットかよ!
これでどうしろと?」
手紙でも書けば?




