109.「だったらこのお土産は何?」
夏休み? が終わった。
シャルさんの講座はコミケに行ったりマスコミに何か発表したりと色々騒がしかったみたいだけど僕はスルーしたので知らない。
埼玉県が凄いのか、あるいは日本中どこでも同じだったのか知らないけど日中は外出出来ないくらい暑かったから僕は閉じこもっていた。
具体的に言うと宝神総合大学の理事長室に入り浸っていたりして。
まだあまり暑くない早朝に自転車で登校して、後はエアコンをガンガン効かせた豪華な僕の城に引きこもる。
小型の冷蔵庫を買ったのでソフトドリンク飲み放題。
おやつも買い置きしてある。
ゲーム三昧とかじゃないよ?
まあ息抜きにちょっとはやるけど。
やることはいくらでもある。
というのは宝神の場合、夏休みという制度がないからね。
かといって講義などが休みではないというわけでもない。
座学は全部、通信大学頼りだ。
つまりいつでも開講している。
講座の演習をやるかどうかは講座ごとに自由に決めていいことになっていて、大抵の所は集まって発表とかするのは中止にしたみたいだけど。
でも意味がないんだよ。
宝神の場合、講座の演習とは即ち仕事だから。
つまり働いていれば出席していることになる。
これは特にフィジカル系というか清掃事業や警備事業分野で顕著だった。
でも大学生なのに夏休みがないって不満が出そうなんだけど。
比和さんに聞いてみたら笑い飛ばされた。
「私どもは学生である前に矢代興業の社員です。
まずは仕事。
休みはその後です」
何気にブラック宣言しているよね。
いいのかなあと思っていたら如月高校時代の同級生だった仁宮さんが教えてくれた。
メイドさんも警備兵の人たちもローテーションで結構休んでいるそうだ。
旅行などにも行っているらしい。
その場合でもグループ単位で行動するため、緊急招集がかかれば駆けつけることになっているとか。
「学生じゃないでしょそれ」
「学生ですよ?
矢代社長こそラノベの常識に囚われてませんか?
今時の学生ってそんなに自由に暮らしてませんから」
言われてしまった。
でも考えてみたらそうか。
そんなに遊んでばかりの学生って少なそうだ。
大学生ならバイトは当然。
夏休みなら長期バイト三昧になってもおかしくない。
つまり宝神と一緒ということで。
何か誤魔化されている気がするけど僕に関係ないからいいか。
もちろん宝神の学生がみんなメイドさんや警備兵というわけじゃない。
例えば僕の心理歴史学講座の所属学生たちはユニークだ。
高巣さんや晶さんはこれといった仕事、というよりはやることがないらしくて、あっちこっちに旅行したり帰省して家族と一緒に過ごしたりしたそうだ。
でもあまり面白くなかったみたいで後半はずっと沖縄かどっかのリゾート地にいたと言っていた。
お土産も貰った。
高巣さん付きの近衛兵である鏡と琴根なんかも一緒に行ったそうで、おかげで観光地でも一度たりともナンパされなかったとか。
「良かったじゃない」
「それはそうだが釈然としない気がしてな」
晶さんが何ももやもやしたものを抱えた顔で言った。
「仕方がありません。
というよりはナンパなどされるわけにはいきませんでしょう」
高巣さんがおっとりと言ったけどそれは当然だ。
王国と帝国の精神的支柱がナンパされてどうする。
「それは判っているんだが」
うーん。
言っちゃ悪いけど晶さん、今でも女子中学生にしか見えないんだよね。
レディスーツ着ていてもそうなんだよ。
ナンパされたら別の意味で拙いのでは。
高巣さんの方は女子大生には見えるけど箱入り娘というかんじで深窓の令嬢的な高貴さより天然的な要素が勝ってしまっている。
ナンパされにくいのは晶さんとどっこいどっこいじゃない?
怖いから言わないけど。
「まあ無事で良かった」
「いや危険なところには行ってないから」
矢代興業の精神的な大黒柱だからね。
どちらかでもいなくなったら矢代興業が崩壊しかねない。
それは本人たちも判っているんだよ。
こう見えて責任感はある人たちだから大丈夫だろう。
「みんなが揃ったら上半期の演習総括やるから」
別れ際に言ったら慌て出した。
サボッたね?
「そんなことはありません。
ただちょっと不意を打たれただけです」
「そうだ。
ダイチは気にするな」
僕の顔を見ないようにしながら去って行く貴顕の二人。
ほっといていいよね。
(そもそも矢代大地の講座は実体がないだろう。
学生の目標管理テーマもバラバラだし)
無聊椰東湖の言うとおり、心理歴史学講座の演習ってあってないようなものだ。
一応シートは提出して貰っているけど多分、それに添った研究なり活動なりしている人はいないんじゃないかな。
(そんなことはないだろう。
巨乳美人さんや魔王なんかはちゃんと仕事してるぞ)
そうだった。
特に炎さんと魔王軍は使い勝手が良すぎてほとんど僕の配下にしちゃっているもんね。
外国の提携企業から来た人たちの接待に駆り出したり下働きさせたり。
パティちゃんなんか「姫」として炎さん配下の妖怪たちを使い回していたりして。
よし、魔王じゃなくて炎さんの評価はAだ。
静村さんはこの辺の天気に何かして日中雨が降らないからそれだけでBはあげよう。
ロンズデール姉妹はほっといていいか。
後は問題児が二人。
「ヤシロッチ。
はいお土産」
わざわざ理事長室まで訪ねてきて手提げ袋を差し出す未来人たち。
覗いてみたらマカデミアナッツチョコレートだった。
まあ旅行の定番だけど。
「ハワイ行ったんだ」
納得して言ったら否定された。
「いんにゃ。
あそこは日本人ばかりで」
「もう飽きたしね」
贅沢な。
「だったらこのお土産は何?」
「羽田の免税店で買った。
いいでしょ。
あそこは日本じゃないし」
「海外のお土産であることは確かだし」
いやそれはいいんだけど。
もう呆れて文句も言えない。
「本当はどこに行ってたの?」
聞いたらさらっと言われた。
「モナコとラスベガスね」
「香港マカオも考えたけど最近物騒だから止めた」
ギャンブル旅行かよ!




