プロローグ
疲れた。
心底疲れた。
目覚めた僕が最初に思った事はそれだった。
次に二度寝したいと痛切に思った。
「ダイチ様?
起きていらっしゃいますか?」
トントン、とドアをノックする音の後、聞き慣れた優しい声が聞こえてくる。
巨乳美人が起こしに来てくれているという今時のアニメやラノベではギャグにしかならないような状況だ。
でも今の僕にはセイレーンの歌のように聞こえる。
眠い。
だが駄目だ。
起きなければ。
「起きてます」
「良かった。
朝ご飯が出来ていますので」
ほっとしたような声と共に軽い足音が遠ざかって行く。
しょうがない。
メリメリと音がしそうな身体を何とか動かしてベッドから降りる。
というよりは落ちた。
床に長々と伸びると気持ちがいい。
身体に力が入らない。
窓の方を見ると、もちろん閉まっているカーテンの隙間から明るい日差しが射し込んでいた。
今日も快晴らしい。
そういえば究極の晴れ女とかがいるんだった。
しょうがない。
僕は何とか立ち上がると寝間着代わりのトレーナーを下着ごと脱ぎ捨てる。
用意されていたのは背広だった。
これかよ!
何で僕がこんな目に。
僕は矢代大地。
この3月に県立如月高校を卒業して私立宝神総合大学に入学したピッカピカの1年生、18歳だ。
宝神総合大学は今年度に設立された専門職大学である。
今までの大学と違って専門職を育成する学校ということでカリキュラムもかなり違っているらしい。
いや、僕は普通の大学を知らないからどう変わっているのか判らないんだけど。
まあ、大学1年生である事には違いはないんだから希望に満ちあふれた性春、じゃなくて青春が今始まろうとしていると思うでしょう。
だけど違う。
僕は宝神の学生であると同時に理事長であり、更に教授でもあるのだった。
訳が判らないと思うでしょう?
簡単に説明すると、まず宝神総合大学は去年までは宝神国際大学というFランク大学だった。
経営が傾いたために今年から国が制定した専門職大学への移行を計画していたんだけど、出資者が手を引いて破綻しかけていた。
そこに矢代興業という会社が参入して、大学を経営権ごと買ってしまったという。
その矢代興業の社長が僕。
僕が社長をやらされている理由については色々面倒くさい話があるんだけど今はパス。
ちなみに僕の社長職は案山子だ。
経営なんか判らないからね。
でも契約でそうなっていると言われて、僕が宝神総合大学の理事長を押しつけられてしまったんだよ。
大学の理事長がよその大学の学生をやるわけイカンでしょう、という謎の理屈で僕も宝神総合大学に入学するはめになった。
せっかく如月高校という進学校で生徒会長までやって都内の一流大学に推薦入学出来る所だったのに!
それはまあいい。
大学生にはなれたんだし、就職も既に矢代興業の社長なんだから心配ない。
理事長だって社長と同じで案山子やってりゃいいと思っていたんだけど。
教授って何なの?