第7話
薄れ行く意識の中、機体のダメージ警報が鳴り響く。
ライフルを撃ったままの状態で機体は停止して、同様に俺自身の体も動かせないでいた。
もう、1ミリも動けない──。視界は霞んできてほとんど見えない。
意識も朦朧として、呼吸も少しずつ小さくなっていく。
そうか。これが、死ぬ間際ってやつか……。
死が迫っているのに、恐怖は感じない。むしろ、落ち着いてその瞬間を待つ。
そんな時、ふとある疑問がよぎった。
死んだら、先に死んだ人に会えるかな? といった疑問だ。
自分でも恐ろしい程に落ち着いた疑問だなと思うが。これから死ぬんだから気にもなる。
落ちる意識に、やがてゆっくりと瞼は閉じていき何も見えなくなる。
まぁ、行ってみれば分かるよな……。
死んだ後、何処に行くのだろうか? 天国? それとも地獄?
生きている頃の唯一答えの出ない悩みの1つだった。
俺は今その答えの中にいる。
冷たい暗い闇の中、泥水に浸かる重たい足を前に、前に進めているこの現状が答えだ。
ここは天国……じゃないよな。なら、地獄か?
ちらりと目だけで辺りを見渡す。真っ暗で何も見えない、鬼は居ないけど地獄決定だな……。
だが、死んだにしては意識もあれば、手足もちゃんとある。
本当に死んだのだろうか?
それに何でこんな所にいるんだ?
えっと、何でだっけ。そもそも、ここは何処なんだ?
今まであった記憶が、徐々に消えて行く。
今まで何をしていたのかも、分からなくなってきた直後、目の前に一筋の光が差し込んできた。
光が差し込める先には、複数の人が手を振っているのが見る。
あれが、誰かなのは分からない。だけど、なんだか懐かしい感じがする。
光に手を伸ばし近寄ろうとするが、泥水のような地面に足を捕られ上手く前に進めない。
必死に前に進むが、光は大きくなるどころか小さくなっていく。
「俺を、俺を置いて行かないでくれ!」
星のように小さな光に向かって必死に手を伸ばし叫ぶが、光は待ってはくれない。
「あなたは……まだ来てはいけない。まだ貴方には、やり残したことがあるのでしょ──」
光が米粒よりも小さくなり、消えかけた瞬間、声が聞こえた。
その声は優しく、微かに聞き覚えのある女性の声だった。
「やり残したこと? それは、いったい……?」
俺の問いに答えることは無く、光は暗闇に覆われるように消えていった。
俺は足を止めて、その場に膝をつく。
俺のやり残したこと……いったい何のことなんだ?
頭を悩ましていると、突然全身の力が抜けた。
体が暗い泥水に倒れ込み、そこから一気に睡魔が襲い掛かってきた。
それに抗うことができず暗闇の中で俺は目を閉じた。
再び目を開けると、機体のダメージ警報が目覚まし時計のように鳴り響いていた。
まだ頭の中にすっきりとしない。周りを見渡すと辺りの機器が壊れて火花を散らしている。
「琴美祢様! 琴美祢様‼」
誰かが、呼んでいる?
聞こえて来る少女の声と共に、小さな振動が伝わって来た。
正面のモニターに目を向けると、後部カメラの映像が映っていた。
カメラには超振動ナイフを抜いた01が、すぐそこまで迫っていた。
早く、逃げないと……!
機体を動かそうと力を振り絞ると、腕や横腹に激痛が走った。
「っ‼ 一体、なにが……⁉」
痛みに耐えながら腕を見ると、金属破片が刺さった傷口から血が滴っていた。
この体じゃ……。
次にモニターを見た時、敵は傍まで近づきナイフを高く振り上げていた。
殺られる!
死を覚悟し目を強く瞑る。
直後銃声が鳴り響いた。コックピット内に反動が伝わり続けること数秒。
銃声は鳴り止み、静寂が訪れた。
恐る恐る目を開けると、そこはお花畑……ではなく。壊れかけたモニターだった。
「まだ……生きて、る?」
不意に右メインモニターに目を向ける。
ライフルを後ろに向けた状態で右腕は停止しており、モニター端に映る残り弾数は0になっていた。
「俺が、やったのか……?」
疑問を抱き体を動かそうとするが、相変わらず手足は思うように動かない。
俺じゃない。なら誰が……?
まだ薄っすらと靄のかかる頭をフルに動かす。すると、一人の少女が脳裏に過った。
彼女なら。機体のAIの代わりを行っている彼女なら、機体の遠隔操作が可能なはず……。
「カルミア。これは、君がやったのか?」
「肯定で、す」
どうやら予感は的中していたようだ。だが、状況は最悪だ……。
彼女自身、機体を起動させるだけでも相当な負荷が掛かっていた。
それに加え、機体を遠隔操作したとなれば。
その負担は相当なものになるはずだ……。
「君は、大丈夫なのか?」
痛みを堪えながら、返事を待つが一向に返事がない。
「カルミア?」
名前を呼ぶが返事がない。
直後、機体の全てのシステムが落ちコックピット内に闇に覆われた。
これが彼女の返答のようだ……。
「早く、助けに行かないと……」
コックピットから出ようとするが、体は言うことを聞かない。
それどころか、また意識が薄れていく。
あぁ、畜生。体は動かないし。あっちこっちに激痛が走るし……。
とんだ、1日だな……。
ポタポタと血が破片の先端から流れ落ちていく。
どれくらい血を流したのだろうか? この暗闇の中じゃ、それすらも分からない。
ぼやける視界の中で、カルミアのある言葉が脳裏によぎった。
『私が人になる為に、琴美祢様が色々とお教えしてくれますでしょうか?』
あの後、俺は彼女に人としての生き方を教えると約束したんだったな。
今日は帰ったらカルミアとの約束を果たさないとな……。
段々音が遠くなっていく。
まず何を教えるべきだろうか?
落ちていく意識の中で呆然と考える。
そうだな……まずは言葉使いだな。いい加減、様は止めて欲しいしな。
瞼が次第に重くなっていく……。
その次は、何か好きなことを見つけさせて、学校にも通わせて。
あぁ、カルミアは、戦争の道具にさせたくないな……。
一人の女の子として、過ごさせられたら。どんなに良い、こと……か───。
意識を失いかけた直後、頭の上から暗闇に光が差し込んで来た。
力はもう出ないハズなのに、光を体が求めるかのように顔が上がる。
そこには、ぼやけてよく見えないが、誰かがこちらを覗いていた。
「おい! 生きてるか⁉」
聞いたことがある男の怒鳴り声に、安心して全身の力が一気に抜け落ちる。
落ちていく意識の中、俺は男性の問いに笑みを浮かべ囁くように答えた。
「あぁ、生きてるよ……」
次回プロジェクト・アーミー第8話
サ「いや~熱い戦闘が繰り広げられていますね姉さん」
カ「そうだねぇ。このまま私達も派手に暴れるとするか‼」
ロ「そのことなんだがな。次回、俺達の出番はないらしいぞ」
サ・カ「それは、本当か(い)‼」
ロ「本当ですよ。それより次回予告をしますよ」
サ「次回プロジェクト・アーミー第8話」
ロ「大切なものは、肝心な時に傍にない。彼は彼女を失って何を思い行動する?」
カ「次回も楽しもうさねぇ」