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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
6/31

第6話

 用語解説

     滑空砲=ライフリング無い砲。

         キャノン砲に比べ威力がある。

110mmキャノン砲=ライフリングがある砲。

         滑空砲に比べ命中率がある。

 カルナ達と合流した俺は、持っている情報を彼等に提供した。

 敵がこちらの装甲を撃ち抜く武器を持っていること、20mm弾をバラ撒いていたこと……。全ての情報を渡したのだった。


「分かったことは、奴らはこちらの装甲を貫く武器を持っていることと。20mm弾を使っていたって事だけかい……」

「こちらの装甲を撃ち抜く武器なら、滑空砲か110mmキャノン砲ですが……これだけの情報じゃ、機体が何なのかがまでは分かりませんね」


 カルナに続いてロバーツがぼやく中、サイガが話に割って入る。


「20mmと言えば、あねさん。我々の本来の相手は01ですよね?」

「それが……まさかサイガ。実弾を撃ってるのが演習相手だって言いたいのかい?」

「その通りです。20mm弾と言ったら04~05の頭部に搭載されていますが、01の主兵装の口径とも一致してるんです。だから、もしかしたらって思ったんですが……」

「じゃあ、サイガ。何で奴らは実弾で俺達を殺しに来てるんだ? 演習だったら、敵を殺すための弾なんて使わないだろ?」

「それは……そうなんだけどよ……」 

「それは、私がお答えします」


 サイガが言葉を詰まらせた直後、インカムに走る電子音と共にカルミアが話に割って入る。


「相手が実弾を使っている理由。それは、私達の性能を収集しているからだと思われます」

「性能の収集だって?」

「はい、カルナ様。

 私達は、実戦で敵を効率よく殺すサポートをする為に作られた兵器。その試作品プロトタイプです。

 完全体を作るには多くの実戦データが必要なのです。だから──」

「だから、相手は殺気を持って襲ってきたのか」

「肯定です。琴美祢様」


 なるほど。相手が実弾を撃っている理由は分かった。

 だけど、まだ1つだけ疑問がある。

 それは──


「なぁカルミア。なんで相手は俺が撃っている間、反撃してこなかったんだ?」

「そりゃお前、長く戦ってないとデータが取れないからわざと逃がしたんだよ」

「ロバーツ様、それは少し違います。琴美祢様が反撃されなかったのは、これが演習だからです」

「演習だからどうして撃ってこないって言えるんだ?」


 カルミアの発言に、ロバーツは機体の首を傾げさせる。


「なるほどねぇ」

「隊長、何か分かったんですかい?」

「分からないのかいロバーツ? 

 これが本当に演習なら、敵さんはペイント弾を食らえば被弾部が勝手にロックして、戦闘不能扱いになっちまう。

 敵はソレを避ける為に、あえて反撃してこなかったんだよ」 


 カルナの説明に「「なるほど」」とロバーツにサイガが、機体を使って納得したような素振りをみせる。


「これ以上の説明は、不要だねぇ。なら次は、勝つための作戦を練ろうか……」


 こうして、俺達は奴等を倒す為の作戦会議を始めようとした。

 その直後、コックピット内に警告音が鳴り響いた!


「レーダーに新たな機影確認」


 カルミアの報告に、慌ててレーダー画面を見る。

 画面には、捕捉した4つの機影が映っていた。

 俺がここに来るまでに来た道から3機。その反対側から1機がこちらを挟むように近づいてくる。


「チィッ、もう来やがったか。

 ロバーツと相馬と私は3機の相手をする。サイガは後方から来る敵に注意しな!」

「「了解!!」」


 カルナの指示に、各自が素早く相手する方向に向かって、木を盾に配置につく。

 レーダーに映っていた敵の動きが止まり、数行後に3機の内の2機が、射程範囲まで突っ込んでくる。

 

「まだだよ。まだ撃つんじゃないよ……」


 皆がカルナの合図を、まだか、まだかと待つ。

 敵との距離が1300を切った。

 直後、銃声と共に銃弾がこちらに向かって飛んできた。

 弾が木々に穴を作り、薙ぎ払っていく。


「撃ち返しな!」


 カルナの合図で、カルナに俺、ロバーツとカルナは応戦を始めた。


 こちらが撃ち続ける間、やはり敵は撃ってこない。

 やはり、カルナさんの考えは当たっているのだろうか?

 なら、このまま突撃する方が良いのでは?

 そんなことを思った時だった。

 ヒューっと風を切る鋭い音が耳に入ってきた。

 この音は……ヤバイ!

 直感で機体をしゃがませる。直後、盾にしていた木に大穴が空く。

 巨大な木の上半身はミシミシと音をたて、へし折れた。

 どうやらキャノン砲での曲射狙撃だったようだ。

 思わず機体をしゃがませて良かった。

 あのまま立っていたら、今頃ミンチより酷いことに……。


「まったく、ラッキーだった、なぁっ‼」


 幸運を喜ぶ間もなく、銃弾の雨が降り注ぐ。

 まったくもって容赦がない。容赦ないのは当たり前だけど……。

 喜ぶくらいの間位、くれても良いだろうに。

 それより先程から疑問なのだが……。

 さっきから、あまり移動せずに撃ち返しているけど……。

 これって、作戦とかあるのだろうか?


「カルナさん、一つお聞きしたいことがあるんですが……」

「なんだい、こんな忙しいときに? 用件なら手短に言いなよ」


 切羽詰まってる感じが、伝わってくる。


「あの、作戦とかってどうどなって」

「そんなの考えてないよ!」

「返答はや! てか、ないのかよ‼」

「姉さん、それじゃこれからどうするんですか?」

「サイガ。私は今、忙しいんだ! 作戦なら相馬が考えてくれるさ……」


 あれ、聞き違いか? 今さっき俺に全部丸投げされたような……


「では、琴美祢様。ご采配を」


 はぁ、確定でしたか。

 仕方ない、やるしかないか……。


「カルミア、敵の機体を識別してくれ」

「駆動音を確認中。1分お待ちを……」


 報告を待っている間に、代わりの盾に向かう。

 移動中、何度も軽い金属音を鳴らしながら、機体の手足を銃弾が掠めた。

 ほんの数秒移動しただけなのに、1秒が10秒のように感じる。

 まったく、移動だけでも一苦労だ。

 皮が削られていく木を盾に、待っていると。カルミアから報告が入る。


「識別完了。敵機種Aw-01と判明、12時距離2300をアルファ、1時距離1500をベータ、2時距離1200をチャーリィー、6時距離1300をデルタと命名します」


 パイロットが言っていた数と機種が一致した。

 これで、これが演習であると決定したも同然だが……問題がまだ1つ残っている。

 今持っている兵装が奴らに効くのか?

 正直、不安だけど……今更ここまで来て、それを信じる以外に方法は無いんだよな。 

 俺はため息を吐き、武器の残りを確認する。

 ライフルの残弾が36発に、40発のマガジンが1本。それにナイフが2本。

 小回りが効く01相手に接近戦は避けたい。無駄弾は撃てないな……。


「カルミア。情報を味方とリンクしてくれ」

「Roger」

「カルナさん。そっちの準備は出来ていますか?」

「カルナで良いよ。こっちは、いつでもやれるよ」


 カルナに呼応するように、他の2機は反撃を止めてこちらを見て頷く。


「それでは作戦を説明します。俺とカルナ、ロバーツは、サイガの10秒間の援護射撃の後、ABCに向かって突撃。援護射撃が終わり次第サイガはDへの攻撃を開始。

 敵は会敵次第、1対1で相手をするように」

「1対1で戦うのは、敵に集団戦をさせないためだね。

 ただこの作戦、誰かが倒し損ねたらそこで全ておじゃんさね……だからお前ら、絶対に失敗へまするんじゃないよ!」

「「了解!」」


 カルナの命令に、サイガとロバーツが活気のある声で返事する。

 こんな良いチームを失わせる訳にはいかないな。

 だが、もしも。もしも作戦が失敗してここで死んだら──。

 俺は……仲間のところに行けるだろうか?

 少しばかり考えるが答えは出ない。やはり死んでみないとわからないな。

 

 銃弾が飛びかうモニターを眺めて、タイミングを見計らう。

 チャンスは直ぐに訪れた。鳴り響いていた銃弾が一瞬止んだのだ。  

 

「作戦開始!」


 合図と共に、敵の銃弾の軌道上に05Bが飛び出る。

 その直後、前後から銃弾の猛攻が05Bを襲う。

 20mm弾の直撃を受けるが、05Bは平然と立ち尽くし、持っていたガトリング砲を12時の方角へと構える。


「いくぜぇぇぇええ!」


 インカムにサイガの怒鳴り声が響き、同時にガトリング砲が轟音を唸らせ火を噴いた。

 12時から3時の方向へ、なぶるようにガトリング砲で牽制が行われていく。最中ペイント弾の直撃に耐えきれず何本かの木が軋みを立てて折れていく。倒れた木は土煙を作ってくれる。これで煙幕もできた。


「よし、行くぞ!」


 俺は合図を出して土煙の中へと突っ込んで行った。 

 



     〇




 土煙の中。私はロバーツと相馬を追った。

 直後、相馬の指示が聞こえて来た

 

「一番手前のCにカルナ。Aにロバーツ。一番奥に居るBは俺が相手する」


 1対1での敵との戦い。失敗すれば、誰かが死ぬ。

 それが私かどうか、賭けてみるさ……。


「「了解」」


 返事を返して数秒後、煙幕を抜けた。

 直後、01を目視する。

 こいつがCかい……。

 敵は慌てることなく、銃口を先頭を走る相馬に向ける。

 だが相馬は止まらない。ただただ、敵を無視して走り続けている。

 敵が相馬に照準を合わせた。


「やらせはしないよ!」


 走りながら射撃を始める。

 移動しながら攻撃は、01に命中しないが、敵の注意が一瞬相馬から外れる。

 

「私はまだ、死ねないんでねぇ。狙うならあいつらじゃなく、こっちにしてもらうよ……」


 牽制しようと足を止めて撃ち続けるが、突如カチンと音を立てて撃鉄が空を叩く。


「チッ、弾切れかい」


 弾を装填しようと手をマガジンに伸ばした直後、敵は先頭の相馬を狙おうとする。

 どうしても、先に行かせない気か‼


「この……ッ! よそ見してんじゃないよ!」


 怒りがこもった大声と共に、ライフルを敵に投げつける。

 それは見事に相手の腕に当たり、金属同士がぶつかる音を鳴り響かせ、01をよろめかせた。

 その間に、ロバーツと相馬は敵を突破。

 態勢を立て直した01が、相馬達を逃がすまいと持っていた銃を構える。

 まだ、諦めてないだと? この期に及んで悪あがきを!

 敵が引き金を引く間際、取り出した1本のナイフを敵に投げつける。

 ナイフは装甲に弾かれて地面に落ちるが、敵は引き金を引かずに、こちらを無機質に光る2つの目で睨んでくる。

 私は最後の一本である対AW小型ナイフを構える。

 敵は追うのを諦めてカルナに銃口を向ける。

 ターゲットが私に変わったのだ。


「さぁ、私とやりあって貰おうかい。上官さんよぉ……」




     〇




 カルナに敵を任せ、更に奥にいるAWを目指し走り続ける俺とロバーツは、間もなくBと会敵しようとしていた。

 

「敵との距離、500……300」


 カルミナがBとの距離を教えてくれるが、敵が一向に目視できない。

「200……」目視できる距離まで近づいた。

 敵機との距離が100を切った所で俺は機体を止めた。

 それに気づいたロバーツも、機体の足を止め俺の方に振り返る。

 

「どうしたんだ?」

「これだけ距離が近いのに敵の姿が見えない……」

「罠か?」


 周囲を警戒しながらロバーツが尋ねる。


「そうだろうな……カルミア、トラップが無いか探ってくれ」

「Roger」


 カルミアに罠が無いか探らせて数秒後。


「サーチ終了。地雷、等の反応はありません」


 トラップは反応はないか。

 レーダーには、正面50メートル先に反応がある。だが、メインモニターには敵の姿は無い。

 明らかに罠なんだけど……このままスルーして後々攻撃を受けるのも厄介だな。


「おい、どうするんだ?」


 ロバーツは訪ねて来る。

 それに時間も迫っている。こんな所でうだうだしている時間はない。


「このまま直進して敵を炙り出す。俺が前衛を、ロバーツは後方で援護を。もし、敵が現れたら迷わず撃ってくれ」

「了解した」


 俺とロバーツはポジションを変えた。先頭に俺、その数メートル後ろにロバーツが着く。

 俺は右手のレーダーに映る敵の位置を再確認する。

 50先にBの機影。更に奥、3000の位置にAの機影がくっきりと映し出されていた。

 Aに動きがないのが気になるが……今はBに集中するべきだな。

 俺はライフルを構え、ゆっくり機影に近づいて歩き始める。

 35……25。ゆっくりと距離が縮まり、最終的にその距離が1になる。


「仕掛けてこないな」

「そうだな……」


 ロバーツの言葉に、緊張が更に高まる。

 まさか、時間稼ぎとかじゃないよな……。

 内心焦りながらも、俺はゆっくりと進んで行く。

 Aとの距離が離れ始めた直後、接近警報が鳴り響いた。


「後方に新たな機影をキャッチ」


 後ろだと‼ 俺は機体を素早く旋回させる。

 メインモニターに映ったロバーツ機の首筋からキラキラと光る1本の線が見えた。

 なんだあれは? 

 俺は眼を細めてソレを凝視する。

 それは、ワイヤーだった。太く、螺旋状に編まれたワイヤー。

でも、なんであんなものが?


「なんだよ、これ!」

 

 ワイヤーを引きちぎろうとロバーツはそれを掴む。

 直後、ワイヤーが張りつめるように平行になり、1機の01がロバーツに引っ張られるように飛び出た。


「うわぁぁああああああ‼‼‼」


 直後01の飛び蹴りが06に決まり、轟音と共に05が地面へと倒れる。

 ロバーツは機体を起き上がらせようとするが、01が上に乗っている為に動けない。

 この距離ならやれる! 機体の照準が敵を捕らえる。

 沈め‼

  

「何をしてるんだ! 早く撃ってくれ!」


 ロバーツの怒鳴り声が聞こえる。

 だが俺は未だに引き金を引いていなかった。引けなかった……。

 機械が壊れている訳じゃない。

 俺の手が、指先が、震えて力が入らないのだ。

 何度もトリガーを引こうとするが、指先に力が入らない。


「なんで! なんで……こんな時に……」


 必死に指先に力を込めようとするが、痺れたかの用に手は言うことを聞かない。

 どうなってるんだ⁉

 迫っているロバーツの危機に、焦りを感じる最中。ふと見たモニターに映る光景が、昔の()()()()()と重なった。

 真夜中、突如現れた黒いAWに、仲間が目の前で殺された()()悲劇に……。

 今も脳裏にこびりつく、味方が敵に押し倒されてコックピットをブレードで貫かれトドメを刺される瞬間。

 歪む視界の中。目の前に映るのは、ナイフを高く上げ、今にもロバーツ機のコックピットに一撃を叩きこもうとしている01の姿だ。

 昔と全く同じその状況に、俺は恐怖で体が強ばる。

 また、俺の不甲斐なさで仲間を殺させるのか? また俺は、見ているだけなのか……。

 そんなのはもう嫌だ! もう俺は、仲間をみすみす殺させやしない‼

 撃てよ! 撃ってくれよ! ここでやらなきゃいつやるんだよ! さぁ撃てよ! 撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て──。


「撃てよ、この意気地なしがあぁああああ!」


 恐怖を振り払う叫びと共に、引き金が引かれ、ライフルから熱を帯びた1発のペイント弾を打ち出された。

 敵の肩に弾が当たり、派手な紫色に染まる。


「う、撃てた……のか……」

「琴美祢様、まだです!」

 

 カルミアの声に安心しきった気持ちが引き締まる。

 モニター先では、敵は再起不能になっておらず、残った左腕でナイフを抜こうとしていた。


「させるか!」


 痺れはない。引き金を引いて射撃を始めた。

 至近弾を前に、敵は06から翔ぶように離れ、森の奥へ逃亡を始める。

 逃げる敵を追うように射撃を続けるが、直ぐ弾が切れた。

 ライフルから空になったマガジンが抜け落ち、残りのマガジンの装填を開始する。だが、その頃には敵の姿はもうなく。

 足音だけが森の中に木霊していた。


「逃がしたか……」


 いや、引いてくれたのが正しいか……。

 機体が最後のマガジンを装填し終わる。

 俺は荒い息を整えながら、トレースシステムに入れた手の感覚を確認するように動かす。

 数秒前まで痺れて力が入らなかった指は、今ではちゃんと力が入る。

 先ほど思いだしていた記憶にも、今ではため息が出るくらいだ。

 嫌な事は覚えているものだな。

 さて、Bの後を追わないとな。

 と、その前に……。

 周囲警戒しながら、未だに倒れたままの06に近づく。


「すまないが、起こしてくれないか? どうも手に力が入らなくてな」


 インカム越しにロバーツの震えた声が聞こえる。

 無理もないよな、自分の死を目の当たりにしたんだからな。


「遅くなってすまない」


 俺は起き上がらせようとロバーツに手を伸ばす。


「あぁ、まったくだ……」


 ロバーツが乗る06が手を取った直後、突然の轟音と共に多くの小さな金属部品が上へと飛び散った。


「何事だっ!」


 俺は急いで機体のダメージを見るが何処にもダメージ表示がされていない。

 ということは……撃たれたのは俺ではなくロバーツの方か!


「後方2時の方角に新たな機影を探知。識別反応Aです」


 Aアルファー、まだ距離がある筈の機体が何でこんな近くに!

 カルミアの発言に耳を疑いながら敵の方に向く。

 2時の方角。木々が開けている一本道に奴は居た。

 しゃがみ姿勢でキャノン砲を構えている01Bをモニターで捕らえた。

 その距離500──。


「次射まで、5秒!」

「やらせるか!」


 俺は急いでライフルを構えて照準を合わせようとする。

 だが自分が撃つよりも早く、再びの轟音と共に、06の左肩上を重たい一撃が掠めた。


「うっ」


 かすめただけだが、衝撃は凄くコックピット内まで衝撃が伝わって来た。

 続いて損害報告が飛びかう。


「左腕破損、左腕の稼働率が大幅に低下」


 左腕を動かすが、カルミアが言った通り左腕の動きがかなり鈍い。

 もはや左腕は使い物にならない事を悟った。

 再びモニターを見ると、敵は弾が切れたようで、次弾装填を始めていた。

 守ってたらやられる……なら、

 

「攻めろ!」


 自分に言い聞かす様に叫び。俺は敵に向かって飛び出す。

 装填を終えた01が、キャノン砲を構えて誤差修正を始める。

 敵の銃口がこまめに動く。そして、こちらを捕らえたのだろう。ピクリとも動かなくなった。

 来るか?

 敵が撃つ刹那、俺は直感で走る機体を右斜め前へ素早く移動させた。

 直後、轟音と共にキャノン砲が火を噴いた。

 こちらに飛んで来る巨大な光の弾が、機体の左腕をもぎ取り後ろへと飛んでいく。


「左腕はやるよ!」


 俺は機体の足を止め、敵に狙いを付ける。

 敵との距離240、これなら……。


「当たれ!」


 ライフルのトリガーを引こうとした瞬間。

 左メインモニターから目に染みるほどの強烈な光がコクピット内を照らす。その後の爆音を聞いたのを最後に俺は気を失った。




「なに……が?」


 耳に響く警報に、目が覚める。

 薄れる行く意識の中、不意に左に目をやる。

 ヒビ割れた左モニターの向こう。

 そこには倒れた木を台にして置かれた滑空砲が映っていた。

 敵側のトラップ……見事にハマってしまったな……。

 突然身体中に激痛が走る。

 腕を見ると、無数の金属の破片が肉に食い込み、血が滴っていた。  

 ここで終り……なのかな?

 全身の力が抜けて、感覚が薄れていく。先程までまでの勢いは消え、目元も覚束ない。

 頭から何かが鼻の先まで流れ、ポタッ、ポタッ、と音を立てて落ちていくのに気が付き目線を落とす。

 その正体は血だった。足下に落ちて行く。

 

(頭も切ったか? まぁ、いいか……もう、疲れたしな……)


 頭の中に靄がかかり、意識が遠のいていく。

 そして、最後に重たい瞼を閉じた。

 薄れいく意識の中。ふと、声が聞こえた。


「琴美……様! 琴美祢様!」


 誰かが、呼んでいる?この声は……。


「かる、み、ぁ……。カルミア……?」


 俺は重い瞼を再び開く。

 同時に、一定の間を空け少しばかり振動が伝わって来た。

 振動の正体がメインモニターに映る。それは、とどめを刺す為にゆっくりとこちらへ近づいてくる01だった。


「……」


 メインモニターの端に目をやる。残りの弾が40と表示されている。

 まだ武器は持っている。

 なら、まだ死ねない。せめて最後に奴を倒すまでは……俺は、死ねない!

 俺は右腕に力を込める。

 刺さった破片を、肉が締め付け激痛が走る。

 だが、止めるわけにはいかない。

 ここでやらなきゃ、誰がこいつを止めるんだよ!

 激痛に耐えながら最後の力を、全て右腕に注ぎ込む。


「ぅぅ……ウォォォォォォォォォォオオオオ!」


 叫びと共に機体はライフルを持ち上がり、銃口が敵のコックピットを指した。

 メインモニターに表示される壊れた照準の先に映る慌てた敵の姿に、俺は笑みを浮かばせる。


「ここまで、近づいてくれれば。はずさねぇ、な……」


 01がキャノン砲の銃口を向けた直後、一発の銃声が木々に反射されて響き渡る。


 銃声の木霊が鳴りやんだ数秒後。

 コックピット内に弱々しい笑い声が響く。

 少しばかりノイズを起こすモニターに映る光景に、俺は笑っていた。

 モニターの向こうでは、コックピットを派手に紫色で染められた01が、銃口を向けたまま、停止していた。


「あは、はは……ざまぁ、ねぇ、な……」


 俺は喜び、笑みを浮かべ……勝利に酔った。

 後ろから走ってくる死神に気付きもせずに──。

次回、プロジェクト・アーミー第7話

 琴「生きる為に放った最後の1発でどうにか助かったけど……。

   後ろから近寄る死神にどう対抗しろって言うんだよ!」

 カ「琴美祢様。安らかに……眠ってください」

 琴「え、俺次で死ぬの?」 

 カ「はい。次回で琴美祢様は──」

 琴「お、俺は……」

 カ「行数が足りないので、次回で確認してください」

 琴「え? 俺大丈夫だよね? 大丈夫だよね⁉」

 カ「次回をよろしくです」

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