第5話
機体のレーダーが周囲警戒を続ける。
私は今、部下と共に、3機のAWでお互いの背中をカバーしあうように身を潜めていた。
「全く。どうなってるんだ! 奴ら実弾を撃ってきやがった。これは模擬戦じゃなかったのかよ!」
06の男性パイロット、ロバーツが回線をONにしたまま怒鳴りだす。
「男がうだうだ言うんじゃないよ! 今は次に自分達が何をするかを考えな!」
06に乗る私は、ロバーツに向かってイライラをぶつける。
騙され、追い詰められ、いつ弾が飛んで来るかも分からない状況。
怒りがふつふつと沸き上がって来る。
狩られる側の気分はイライラして堪ったもんじゃない……。
この場に居る全員が、黙り込む中。05のパイロット、サイガが口を開いた。
「いや~。勝ち目なんて無いですね姉さん」
あっけらかんとしたサイガの態度に、私は眉をひそめる。
私は機体を回頭させて、サイガの機体後方から左肩を右手で掴む。
「サイガ……私が勝てない、と。そう言ったのかい?」
「だって~俺らの武器って、おもちゃじゃないですか。勝てる訳ないですよ」
怒りが頂点に達した。私は、05の肩を力いっぱい引っ張る。
05は地響きを立てしりもちを着くように倒れる。
倒れた05に、06でのしかかり、腰のナイフを抜き05首元に突き立てる。
「この! よりにもよって、私が勝てないだと! いい度胸してるじゃないかサイガ! ここでアンタをミンチにしてやろうか!」
ナイフは金属製の練習用で刃は潰されている。
だが機体の関節部分くらい、容易に押しつぶす事は出来る。
返答によっては部下でも容赦はしない……。
「すみません、姉さん。俺が間違ってました」
手の平を返したように、サイガは許しを請う。
「じゃあ、私が誰だか言ってみな!」
鉄同士が擦れ合う音を立て、ナイフの先端が首筋を擦る。
「姉さんは、俺達を勝利に連れてってくれる。勝利の女神です」
「本当にそう思ってるのかい?」
「思ってます! 思ってますとも‼」
「ふん、次からは言葉に気を付けな!」
サイガの返事に煮え切らない思いを抱きながら。05から離れる。
「さて、これからどうしようかね……」
「ん? 姉さんあいつを待つんじゃないんですか?」
未だに倒れたままの05から、サイガが尋ねる。
「あいつ? あぁ、私達を逃がしてくれた。奴の事かい」
二人の喧嘩を見て冷静になったダンが2人の会話に混ざる。
「それ以外居ないでしょ。それで、隊長どうしますか? 奴を待ちますか?」
「そうだねぇ……」
ここで、アイツが来るのを待たずに、逃げるってのもありだろうけど……。
できる事なら、盾が欲しいねぇ。
「今は戦力が、1機でも欲しい所だ。ここは奴が来るまで待機するよ」
「「了解‼」」
2人の活きの良い返事を返す。
その直後、接近警報音と共にレーダー画面に機影が映った。
「姉さん!」
サイガが声を荒げる。
「分かってるよ。AI機種を識別しな」
「機種識別開始、30秒お待ちを……」
「そのなの10秒あれば十分だろ! 早くしな」
「できますが、完璧な識別になりませんがよろしいの……」
まったく道具のくせに、面倒な。
「機械が口答えしてんじゃないよ! 早くしな‼」
威嚇するかのような命令に、AIは「Roger」と短く返事をする。
命令された通り、10秒で機体の機種が正面の多機能表示モニターに表示された。
「AWM-06……。あいつで間違いないね」
「そのようで……」
同じく機体の識別を終わらせたロバーツが答える。
「機影との距離2000………1600……」
AIが距離を測る。
「野郎ども、一応警戒は怠るんじゃないよ! もし敵なら……」
「「敵なら?」」
「全力で逃げるよ‼」
意気揚々と放つ私の命令に、ロバーツとサイガは活き良く答える。
「「了解!!」」
目標地点との距離が1500を切った時、警報が鳴る。
続いてカルミアが報告した。
「目標地点に3機のAWを感知」
俺は機体の足を止め、ライフルを構えて辺りの警戒を始める。
「機種は何だ?」
「機体周波数から機種を検索中…………」
右に装備されているモニターに周波数が映る。
その周波数が一致するだろう機体の画像が、凄いスピードで変わっていく。
30秒後。
「検索完了。機種、AWM-06が2機、AWM-05Bが1機です」
「そうか……」
機種を見ながら口を閉じる。
逃げ切った仲間だとは思うが……この機影の正体、もしかしたら敵かもしれないんだよな。
最初に奇襲してきた敵が撃っていた弾は20mm……主武装で撃っていたのだとすれば、AWM-01で間違いないだろうけど……。
20mmなら、05や06の頭部にも装備されているしな。
だからこそ、この反応が敵である可能性を捨てきれない。
これで、敵なら間違いなく殺される。だからと言って、逃げるのも不可能だろう。
こっちは、カルミアの負担を軽くするためにレーダー範囲を縮めていたからな。
向こうは既にこっちを捕らえている。
このまま居れば、最初の敵と挟み撃ち。
かと言って、逃げても無駄。
となると、方法は1つだな……。
「このまま目標地点に突貫する。カルミア、レーダーの範囲を通常に戻してくれ」
「Roger」
レーダーの範囲が1500から元の2500まで広がる。
「3機以外に機影無し」
「了解した。もし目標地点にいるのが味方だった場合。レーダーを先程の範囲まで戻してくれ」
「Roger」
「さて、それじゃあ……行くか!」
ライフルを構えたAWは地面を蹴り、森の中を機影めがけて猛突進を始める。
「目標との距離1000……800……600」
機影との距離がガンガン縮まっていく。
そろそろ目視で発見されるはず。そうなれば、向こうはこっちを構えて待ち伏せてるだろう。
なら、やることは一つ……敵の攻撃をかわしながら、1機を人質に取る。
よし、これならいける!
機影との距離が500を切った時。
こちらに武器を構える、2機の06がメインモニターに映った。
俺はすかさずトリガーを引く。直後ライフルが火を噴き、ペイント弾が射出されていく。
ペイント弾は、2機を守るように周りの木に当たり破裂していく。
走ってるせいで照準が安定しないのだ。だが、当たらなくても問題はない。
発砲したことで少しでも敵が脅えて、隙ができればそれでいい。
その間に、こっちは間合いを詰めることができる。
「距離150」
「いまだ!」
150を切った直後、助走が付いた機体を跳躍させる。
更に目の前に居た06の左肩を踏み台にして、更に高く機体を跳躍させる。
メインモニターから樹が消え、一瞬、木々の頂上が並ぶ緑の荒野が見えた。
直後機体は落ち、地面へと着地する。
「後ろに敵機です」
「そこだ!」
持っていたライフル破棄し、腰に装備した対AW小型ナイフを取り出し後ろを振り向く!
モニターに映るのは、05のドラムマガジン。
完璧05Bの背後をとっていた。
俺はすかさず、まだ気づいていない敵の首斜め横めがけて、刃の無いナイフを押し当てる。
「……上手くいったな」
安堵しているのもつかの間。
背後を取られた事に気が付いた2機の06が、こちらにライフルを向ける。
こちらは06を盾にしているが、撃ってくる可能性もある。
だが、直ぐに撃って来ない所を見ると、向こうは仲間を殺す気は無いようだ。
なら、少しは交渉ができるだろう……。
「カルミア、相手と話がしたい。周波数をサーチしてくれ」
「Roger……サーチ完了」
1機の06と回線が繋がる。
「聞こえているか? 聞こえているなら武器を捨てろ! さもないと、こいつを殺すぞ!」
まるで悪役が言いそうな決まり文句。
これに従ってくれなかったらどうしよう……。
等と心配していたがどうやら無用のようだった。
2機の06は、お互いの顔を見合わせると、すんなりと武器を手放した。
その光景を見て、仲間であると確信を持ち始めていたが、一応警戒してこの状態をキープする。
すると突然、1機の06が機体をかがめて地面に這いつくばり、コックピットからパイロットが出てきた。
パイロットは、束ねて肩にかけていた長髪を後ろへとなびかせる。
パイロットは女性だった。
パイロットは、口を大きく開けて何か叫んでいるようだ。
「カルミア、聴覚センサーをONにしてくれ」
「聴覚センサー起動します……起動完了」
直後、機体に備わっているスピーカーから声が聞こえて来た。
「聞こえているかい06のパイロット! 私の名前はカルナ・クラフィス! お前は、私達を逃がしてくれた奴だろ?」
どうやら敵ではないようだな。
「カルミア。外部スピーカーをONにしてくれ」
「Roger……外部スピーカーON」
弾数の上に表示されていた外部スピーカーOFFの文字がONに変る。
それと同時に人質を解放し、数歩後ろに下がり両手を上げる。
「俺は琴美祢 相馬。手荒な真似をしてすまない。敵だと思ったものでな……」
「なに、私達も同じさねぇ。もし、あんたが敵ならやっていたところさ……」
カルナが不敵に笑う中。
2機のAWが武器を拾うが、反撃はしてこない。
どうやらこの女性がメンバーの隊長格みたいだな。
「さて、これからの事を話し合う前に、自己紹介をしないとねぇ……」
カルナはそう言うと、06を指さす。
「私の隣に居る06のパイロットが、ロバーツ・グリィッセ。そして、あんたに捕まってた05の無能パイロットが、サイガ・フリップだよ」
「ちょっと待ってくださいよ」
自己紹介が終わるのと同時に、05が外部スピーカーを使ってカルナを引き留める。
「姉さん。俺だけ無能な奴扱いってのはないんじゃないんですか?」
「相手に簡単に捕まっちまうような奴は、無能だよ」
「それりゃ、簡単に捕まりましたけど……けどよ、足蹴にされたロバーツも迂闊だと思うぜ」
「はぁ? 俺に文句でもあるかよサイガ」
「大有りだっつうの。ったく、機動性の良い機体乗ってんだからよ。しっかりと止めてくれよな」
「無茶言うなよ! あんなの止められる分けねぇだろうが!」
「そこを止めろよ! 根性とか気合で! お前の得意分野だろうが!」
「そりゃおめぇ……。俺を筋肉馬鹿とでも言いってんのか?」
「はぁ? だったら何なんだよ?」
「ぶっ殺す!」
「上等!」
突然2人が武器を向け合う。
武器はペイント弾なんだけど……。それを言うのは野暮と言うもの。
見守ろうと、何もせずに立っていると。
大声でカルナが激怒した。
「いい加減にしな! すぐ喧嘩おっぱじめやがって、そんな事やってる場合かい。少しは時と場所を考えな!」
カルナの言葉に、二人は黙って武器を下ろす。
「まったく……」と言った顔で、カルナは再びこちらに目線を戻す。
「すまないねぇ、話がそれちまった。さて、あんなたの知ってる事を全部話してもらおうか……06のパイロット君」
次回、プロジェクト・アーミー第6話
ベ「どうも、皆。私のこと覚えてるかな? 皆の人気者ベルガンちゃんだよ~。
なに? 覚えていないだと⁉ 貴様の脳内はあれか?
紙がなくなったトイレットペーパーの芯くらい価値がないのか?
ふん。なら私の活躍を見ろ! 1話に──」
カ「ベルガン様。次回予告をしてください」
ベ「ちっ。相変わらずKYな奴だな。
敵の銃弾が05を襲う。
木々をなぎ倒すガトリング砲。
割れた画面の向こうに相馬は何を見る?
次回も見ないと、殺しちゃうよ~♪」