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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
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第4話

 8メートル程の巨大なAWが、ライフル片手に森の木々を掻い潜り目標地点に向かって颯爽と駆けていた。 

 ここは、普段の演習場でも、基地内でもない。

 ここは、基地外の森の中だ……。

 だが、初めて出る外をゆっくりと観光している時間はない。

 カルミアの命の危機は、変わっていないのだから……。


「目標までの距離、残り3000……──2500……──1500」


 目標地点の距離を教えてくれるカルミアの声は未だに覇気がない。

 基地から任務続行を言い渡されてから仲間と合流もせず、俺は単独で、目標地点へ全力で機体を向かわせているのだ。


「1000……──600……──300……100」


 距離が100を切った所で、AWの足を止める。


「本機以外にAWの反応はありません」


 カルミアの言う通り、レーダーには何も表示されていない。


「それなら、ここで後続の奴らが来るまで休憩しよう」

「それが良いかと思われます。反応があり次第報告いたします」

「いや、通信以外全てスリープモードに移行してくれ」


 スリープモード。

 機体の機能を、一時的に落とすシステムだ。本来は、Sスナイパー型が敵に発見されなうようにするために使うのだが……今は別の理由で必要なのだ。


「それは、それは危険だと判断します」

「危険なのは分かっている。だけど、スリープモードにすれば、それだけお前への負担は軽減できるだろ」

「私への気遣いは無用です」

「だけど、この任務を遂行する為にも、お前の力は必要なんだろ?」

「それは、そうですが……」

「なら、少しでも休め。これは命令だ」

「命、令……Roger AWM-06スリープモードに移行します」


 各モニターの電源が落ち、コックピット内が暗くなる。

 カルミア自身、煮え切らない感じだったが、ちゃんと機体をスリープモードに移行してくれたようだ。

 ああでも言わないと、彼女は自分の言い分を聞いてはくれなかっただろう。

 間違っているし、上官に怒られるのも百も承知だ。

 だが今は、彼女に負荷を掛けないのが先決だ。

 もし戦闘になって、これ以上負荷をかけそうになるのなら……演習で負けてしまっても構わない。 

 暗いコックピットの中、頭上のレバーを手探り回す。

 噛み合っていた金属が同士が離れハッチが開く。

 トレースシステムから手を抜き、体を固定していた装置を外しハッチから出る。

 眩しい太陽の光に当てられ一瞬目が眩む。

 徐々に慣れていき、周囲を見渡す。前、後ろ、右に左。どこを見てもあるのは木と青々と茂る木の葉ばかりだ。

 ジャングルって、こいう所を言うんだろうな……。

 薄っすら見える空を見上げて口を開く。


「……なぁカルミア。聞こえているか?」

「はい、聞こえています」


 インカムから、カルミアの声がはっきりと聞こえる。

 だが、先程と変わらず覇気がない。消耗しているのが、声のトーンから感じ取れる。


「こんな危険なことさせて、すまないと思ってる」

 

 誠心誠意謝ってみるが「そうですか……」と冷たく返事を返される。

 その声のトーンから、怒っているようにも聞こえたが、俺は気にせず話を進める。


「だけどな、カルミア。俺は、お前を死なせたくはないんだ。だから……少しでも自分を、大切にしてくれ」

「死なせたくない? 大切に? 琴美祢様はおかしい事を言います」

「おかしい? 俺はまじめに──」

「私達は道具です。道具である私が死んでも、代わりはいます。琴美祢様は、消耗品の事を心配する必要などないのです」


 自分は消耗品だから心配する必要ないだと……


「ふざけるな!」


 俺は怒鳴り声を上げる。

 一瞬の間が置き、俺は話を続ける。


「カルミア、君は消耗品なんかじゃない。君には名前があり、命があり、心がある。君は俺と同じ人間だ。だから、自分自身を道具だから死んでいいなんて言うな!」

「……それは、命令でしょうか?」


 少し間が開いてしまうが、俺は意を決して口を開く。


「そうだ、命令だ。君は自分自身をもっと大切にしろ。君にも、命を大切にする権利はあるんだから……」

「……了解しました。命令に従います」


 意外とすんなりと受け入れてくれた。

 自分を大切にしてくれるなら、それに越したことは無いけど……。


「では、私が人になる為に、琴美祢様が色々と教えてくれますか?」 

「……。俺がかい?」

「はい。私は人としての生き方を知りません。

 ましてや、感情というものも理解しておりません。なので、琴実祢様が私に人としての生き方を教えていただけませんでしょうか?」

「あぁ、約束する。俺にできる事ならなんでもするよ」

「はい。琴美祢様よろしくお願いします」


 彼女の声のトーンは相変わらず変わらない。喜んでいるのか分からない。

 ただ、これだけは分かる。

 俺の行いは、間違ってなどいなかった。 


 




 その頃、基地内部にある地下室では。

 多くのモニターがひしめく部屋に白衣を着た人達が集まっていた。

 その部屋には、資料を持った白衣の人達がひしめくモニターを凝視している。

 道具こどもたちの精神状況や身体状況、機体とのリンク数値などが映るモニター。

 主任と言われる私は、そこで各員の報告を聞いて記録を取っていた。



「P21依然として不安点な状況です」


 白衣の女性がモニター状況を述べる。


「P26も不安定な状況です、機体とのリンクに乱れがあります」

「こちらP27もP26と同じ状況です」


 続けざまに聞こえて来る報告は、悪い報告ばかり。

「今回も失敗か……」半ば諦めていたその時、朗報が飛び込んだ。


「P28、身体の流血が止まりました。それに、機体とのリンク正常。精神状態も安定状態にまで落ち着きました」


 その報告に誰もが報告した女性に目を向ける。


「P28の機体状況はどうなっている?」


 私の問いに彼女は、慌てて答える。


「はい。機体状況は、スリープモードに入っています」


「スリープモード」その名に私は、P28の精神が安定した理由を理解した。

 だが問題は、何故パイロットはソレをしたのかだ。


「パイロットのデータをこちらのモニターに送ってくれ」

「了解しました」


 数秒後。席のモニターにパイロットのデータが送られて来た。

 

(──琴美祢 相馬、日本人……元は自衛隊でAW乗りであったが、ある事件をきっかけに本国へと帰還……その後自衛隊を辞め、その後この会社に傭兵として配属する……)


 とくに何か特徴がある訳でもない。

 だが、この男なら、あるいは……。


「この男なら、我々の計画に足りなかったものを見せてくれるかもしれないな……」


 ぼそっと呟かれたその言葉に、沈黙がこの空間を包み込んだ。

 モニターを見ていた主任は数秒の間を置いて、我に返る。

 気が付くと、全員が主任を見ていた。 

 主任が咳をすると皆も我に返り、急いで各自の作業に戻り始めた。 

 手元のモニターに映る資料を眺めてながら、主任は不思議に思う。

 何故あんなことを口にしたのだろうか?

 この男がなぜ計画に必要だと?

 分からない。だが、私はそう感じた。

 この男には計画を遂行する何かを持っている。

 そう感じたのだ──。







 

 

 AWの首元のハッチを開け、周りを警戒していること20分。

 ようやく2機のAWM-06が合流した。

 それから間もなくして、3機のAWが合流した。06が2機にAWM-05Bが1機だ。


 AWM-05B。

 大きさは7メートルくらいで、装甲が厚いB(ブラスト)重兵装の機体だ。

 05Bは、05シリーズの中で1番装甲が厚く、ガタイも大きい。各部の関節部分は狙われても大丈夫なように、追加装甲でカバーされている。

 だが、それ故に機体の運動性は05シリーズの中では最低なのだが、装甲と火力。武器の搭載重量に関しては、どのシリーズよりも勝っている。

 合流した05Bの装備は右手にジャイアントガトリング砲。背中にはガトリング砲に繋がる弾敷き詰まったドラムマガジンが備わっているだけである。

 Bブラストの割に、装備が少ないように見えるけど……パイロットが考えた結果の装備なのだから、あまり気にしないでおこう。




 6機のAWが揃ったの同時に、突如耳に着けていたインカムにノイズが走り、男の声が聞こえてきた。


「ようやく集まったな。時間が惜しいので、今回の任務を説明する」


 俺は急いでコックピット内に戻る。


「カルミア、機体のスリープモードを解除。同時に、ALTSを元の数値まで戻してくれ」

「Roger。スリープモード解除、ハッチ閉鎖。同時に、ALTSを3:4に調整」


 各モニターが息を吹き返していく。


「君達も知っての通り、今回実戦部隊と模擬戦を行って貰う。君達は、できるだけ長く生き残り戦闘データを集めて貰いたい。戦闘範囲は君達のパートナーを通し送らせる」


「戦闘地域のマップを確認しました」カルミアの報告と共に、正面のサブモニターに戦闘範囲が表示されたマップが写し出された。

「それでは諸君……幸運を祈る」男はそう言うと、通信が切れた。


「さて、任務開始だな……」


 自分の中で戦闘モードに切り替わった。

 次の瞬間!

 銃声が森の中に響く。

 隣に立っていた味方の機体が背後から無数の銃弾を浴びる。

 カンッ。カンッ。カンッ。と、まるで燃えるように赤い熱した鉄を重たい金槌で打ち付けるような音と共に、06の装甲を打ち付けた銃弾が火花を散らす。

 実弾! 俺はとっさに撃たれ続ける機体から飛ぶように離れる。

 撃たれ続けた機体は、脚部間接にダメージが貯まり煙を吐きながら膝を着く。

 直後大きな砲撃音。続いて風を切る緩んだ音と共に、何かが06の背中を貫いた。

 大穴の空いた06が眩しい程の光を発して、弾けるように爆発した。


「嘘だろ……」


 モニター越しに燃える機体を見て俺は唖然とする。

 模擬戦じゃ、ないのか!?

 燃える機体を前に立ち尽くしていると、警報が鳴り響く。


「ロック・オンされています」


 カルミアの警告で我に返る。

 正面メインモニター越しに、地面を叩きながら近づいてくる弾痕が見えた。

 俺はとっさに地面を蹴り機体を前転させ回避する。


「おい、どうなってるんだ! 実弾じゃねぇか!」


 後ろにいた06のパイロットがオープン回線で喚く。


「お、俺はまだ……死にたくない!」


 その言葉がその男の最後であった。

 逃亡を図る06。


「待て!」逃げようとする奴を止めようと手を伸ばした直後。大きな光の玉が、モニター横を掠めて機体が手を伸ばした方向へと飛んでいく。

 光の玉は逃亡を図る機体に直撃する。何とも言えない金属音と共に、光は機体の中に吸い込まれていく。

 瞬間、目の前が光に包まれたの同時に轟音が鳴り響く。逃亡を図った06の残骸が爆煙と共に空に飛び散った。


「ッ!」


 爆風で機体がしりもちを着く。

 このままじゃ。殺られる!

 俺は機体を立たせ、カルミアに命令した。


「カルミア、火器システムを起動しろ!」

「Roger」

 

 ライフルの火器安全装置が解除され、正面モニターに照準が映し出される。機体のシステムが戦闘モードに切り替わった。


「照準センサー起動確認、レーダーサーチ開始、マスターアームON」


 機体の各システムが戦闘状態へと切り替わって行く。

 その手際はAIと然程変わらない。


「……完了。敵前方に3機感知。後方敵影を認められません」


 マップに敵の位置が映し出される。

 距離600に2機。更に奥、1200に1機だ。

 俺は丁寧にライフルを構えて引き金を引く。

 ライフルから出るペイント弾が木に当り破裂する。弾が当たった場所は、紫色へと染まっていく。


「残弾60……40」


 カルミアが残弾のカウントを始める。

 トリガーを引きながら続けて命令を下す。


「残った味方機にM-8-6地点に向かうよう指示を送ってくれ」

「Roger」


「報告完了」の言葉と共に残弾が0になる。

 空になったマガジンが自動的に抜け落ち、右腰に付けていた予備のマガジンを、プログラム操作により装填を始める。


「味方の様子は?」

「指示された地点への移動を開始しました」


 味方の手際の良さに少しほっとする。

 問題は、自分達が逃げられるかなんだよな……。

 生き残っていた3機は目標地点まで撤退した。ここに居るのは、俺1人だけ……。


「とっさの判断でああしたけど。仲間と一緒に撤退した方がよかったんだよな……ミスった」


 武器のリロードが完了する。


「でも──まぁ、やるだけやってみるか……!」


 それにしても……何で反撃してこないんだ?

 リロードの最中、意外なことに敵は撃ってこなかったのだ。

 回り込んでいるのかと思ったけど、レーダーで捕らえている機影に動きはない。


「もしかして、敵全員がジャムったか?」

「ロック・オンされました」


 カルミアからの警告と共に再び銃弾が飛んでくる。


「やっぱり、そんな偶然起きないよね……」


 俺も反撃を開始する。


「カルミア、このまま弾幕を張りながら俺達も撤退するぞ……」

「Roger」


 再び相手からの発砲が止んだのを機に、俺は撤退を開始した。

用語説明

AWの後につくアルファベットの意味。

AWM=M:モデル(カスタムされていない標準機を指す)

AWC=C:カスタム(標準機とは仕様が異なる機体を指す)

AWP=P:プロトタイプ(試作モデルを指す)


次回予告、プロジェクト・アーミー第5話

カ「今回も次回予告よろしくお願いします。琴美祢様」

琴「おう、今日もビシッと予告するよ」

カ「では、次回プロジェクト・アーミー第5話」

琴「目標地点に近づく矢先に、レーダーが新たな機影を捉えた。

  この機影は、目標地点に向かった味方か? はたまた敵か? 

  どう決断し、どう動くべきか?」

カ「次回もお楽しみに」

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