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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
29/31

第25話

 行きかう観光客に紛れながら、俺は麦わら帽子を被った少女を連れて街中を歩き回っていた。

 乾いた砂の大地に、日本では見ることのできないレンガ式の家屋。

 遺跡や旧マーケット、戦闘の後が残る旧市街を一回り。何故そんな所を回ったのか? それはカルミアが行きたいと指定した場所だったからだ。

 市街地の露店で買ったサンドイッチを、隣に座るカルミアは小さな口で一生懸命食べる。

 そんな光景を見ながら「おいしいか?」と尋ねる。

 カルミアは口に含んだものを急いで飲み込み「おいしいです」と短く答える。


「そうか、それは良かった」


 俺は最後の一口を食べ終え。ポケットに入れた観光案内の地図を開く。

 殆どの場所は行ったかな、あと残すは──


「琴美祢様、次は何処に行くのですか?」

「そうだな……次は海岸沿いかな」

「分かりました。少々お待ちを……」


 そういうと、カルミアはガツガツと勢いよく食べ始める。


「そんなに急がなくていいよ」

「……はい、すみません」

「いや、怒ってる訳じゃないんだけど……まぁ分かってくれればいいか」


 苦笑して俺は地図を閉じた。

 言われた通り、自分でペースで食事を続けるカルミアはいつもより、楽しそうに見えた。

 だからこそ不思議に思った。何で君は俺の思い出の場所を指定したのか、と……。




        ※




 車を走らせ20分。俺達は目的の場所までやってきた。

 波が押しては引きを繰り返す広い海岸沿い、その反対に聳え立つ高さ6~7mの砂岩壁。俺とカルミアは無言で海岸沿いを歩いていた。

 普通の子供なら、海に来ただけで喜びそうなものだが……。

 チラリと海とは真逆を歩くカルミアを見る。

 麦わら帽子のつばが邪魔で顔は見えないが、はしゃいでもいなければ、景色に見惚れている訳でもない。

 少しは興味を持ってくれると思ったんだけどな……。

 それにしても、ここは変わらないな。あの時と何も変わっていない。

 仲間と歩き、そして仲間を失った道。


「──また、ここに来ることになるとはな」


 ……ん?

 物思いに耽っていると、カルミアがこちらをチラチラと見ているのに気が付いた。


「どうかしたのか?」


 足を止め尋ねる。


「い、いえ。なんでもありません……」


 そう言ってカルミアはそっぽを向く。

 初めてだな、カルミアが言葉を渋るなんて。

 それほど言い辛い事でもあるのか?


「なんでも聞くし。何でも答える。だから、言いたい事があるなら遠慮なく言ってくれ」

「……失礼な発言をするかもしれません」

「構わない。言ってくれ」

「……琴美祢様は、何を怒っているのですか?」

「ん? 怒ってるように見えるか?」

「はい」


 そうか、そんな顔をしていたのか……。


「別に怒ってるわけじゃないんだ。

 ただ、昔の事を思いだしていたんだ」

「昔のこと……それは、ここで起きた事件のことでしょうか?」

「……何処でそれを聴いたんだ?」

「トーレス様に頼んで資料を拝見させてもらいました」

「……そうか。全部知っているのか」


 カルミアの顔から眼を逸らす。

 一面に広がる海をしばらく見つめ話を続ける。


「……なら知っているだろ、俺は部下を見殺しにした無能だ。そんな奴をどうして君は選んだんだ?」


 俺の質問にしばらく考え、カルミアは顔を上げ俺を見ながら答えた。


「演習の時、琴美祢様はカルナ様達を助け、私の命も助けてくれました」

「それは、偶然の結果に過ぎない」

「それでも私はこうして生きています。

 他の実験体の中で、私だけは琴美祢様の気遣いで生き長らえることができました。

 先の戦闘でも、ロバーツ様が死なずに済んだのも、カルナ様達やヘリ部隊が無事合流できたのも、全て琴美祢様のおかげです。過去の失態がどうであれ、今の琴美祢様は無能ではないと断言します」

「……確かに救った命もあったかもしれない。でも奪ってしまった命も多い! その命は救えた命かもしれない!」

「あの群衆を守ることは任務に入っていません」

「……だから、あれでいいっていうのか⁉」

「肯定です」

「っ……そんな、そんな訳があるかッ‼」


 カルミアの答えに怒鳴り声を上げる。

 震える程に拳を強く握り、必死に怒りを堪えながら続ける。


「……あの人達は民間人だ! 戦闘に巻き込まれただけのただの一般人だ! それを一方的に殺して、自分が守る対象じゃないなんて理由で傍観者を気取れと、見て見ぬ振りをしろとキミは言う! 本当に、本当にキミはそれで良いというのか⁉」

「先ほども言った通り、琴美祢様の任務は村の制圧、ヘリ部隊と歩兵部隊の援護です。村人の保護は任務に入っていません」

「任務に入っていようがいまいが、あんなことを許して良いはずはない!」

「ですが任務は絶対です。

 それに先日も言いましたが、あの状況下では仕方のないことでした」

「だからと言って、虐殺を許して良い理由にはならない!」

「ではお聞きします。琴美祢様はあの人達を助けて、その後どうする気だったのですか?」

「それは……生き残っている者の手当てをして、他の村に移動させる」

「あの村から他の村まで30kmはあります。それをどう移動させると言うのですか?」

「そんなの、ヘリ部隊から輸送機を借りて移動すればいい!」

「琴美祢様にその権限はありません」

「なら、トラックを──」

「味方の攻撃で全て炎上しました」

「……なら歩いて移動すればいい!」

「集められていたのは女性や子供、お年寄りです。他の村までの移動中に大半が力尽きると予想します」

「なら、あの村に留まって敵から守ればいい!」

「権限も無ければ。軍備を在中させる意味もありません」

「なら、なら……」


 歯を食いしばって思考を巡らすが──答えはでない。

 数秒の静寂が流れ、カルミアが口を開いた。


「──琴美祢様。どう思考を巡らしても彼等の生存率は絶望的です。

 ……死んだ者の身元を調べましが、琴美祢様の血縁者は発見できませんでした。琴美祢様はどうして彼等の事で悩んでいるのですか?」

「そういうことじゃない……、あの中には君と同い年ぐらいの子供もいた。あの子達にも、それ以外の人達にも未来はあった。

 その未来を奪っていいはずがない! そんな権利、誰も持っていない!!」

「未来を奪う権利、ですか?」


 理解出来ないといった顔をするカルミア。

 そりゃそうだ。カルミアはその行動にどんな利があるかで判断し行動している。そこに私怨はない。

 俺にだって彼等を助けられないことも、助けてもメリットが無いことも分かっている。だが、だからと言ってそれを許すことが俺にはできないんだ……。


「──なぁ教えてくれカルミア。俺はどうすれば良かった?どうすれば、あんなことが起きずに済む」

「戦争が終わらない限り、ああいった小規模な犠牲はでます」

「俺に彼等を救うことはできないのか?」

「全員を救うことはできません」

「……」

「ですが、琴美祢様が敵に打撃を与えるごとに戦争の終結は早まっていきます」

「……その間に人は死ぬ」

「肯定です。琴美祢様だけでは全員は守れません。ですが、琴美祢様の願いを現実にするのならそれしか方法がありません。

 琴美祢様が的確に敵に打撃を与えることで、戦争の終結は早まります。そうすれば多くの命を救うことに繋がります」

「殺す対象が例え子供であったとしても。戦争の早期終結の為に人を殺せと……、キミはそれが正しいというのか?」

「肯定です。火種を残せばそれはいずれ大きく燃え上がります。

 火種を消すことは、戦争終結の必須事項です」

「……」

 

 カルミアから目を離し海岸沿いの道を見る。

 見る限り続く海岸沿いを波が固めていく、そんな変哲もない光景から目を背け、俺はカルミアに尋ねる。


「……カルミア、そいつは一番早い道なのか?」


 カルミアは首を横に振る。


「いえ、険しく長い道のりです。ですが、一番確実な道です」

「俺にはその道しか無いのか?」

「琴美祢様の望みを叶える方法としては、それしか無いと断言します」

「……」


 また俺が村を制圧すれば、またあんな事が起こるかもしれない。

 かといって、俺はこの任務から外れる訳にも、この稼業を辞めることもできない。

 自分自身ができること──それは作戦を成功させ、より多くの敵を叩くこと。そうすれば戦争の早期終結に繋がる。

 それで、この胸の曇りが晴れることはないだろう──だけど、それが今の俺にできる最善だ。

『嬢ちゃんだけ見ていろよ』か……サイガの言う通りかもな。


「琴美祢様、何故笑っているのですか?」


 カルミアの言葉に手で自分の唇を触る。

 確かに笑っていた。さっきまでイライラしてたのに……馬鹿の正論を思い出しただけで、こうもあっさり気分が変わってしまうものなんだな。


「そうだな……少し、少しだけ自分が行く道を見つけられたから、かな?」

「それは確かに喜ばしいことです」

「そうだな。

 ──カルミア、ありがとう、な」

「……」

「ん? どうかしたのか?」

「こういう時、私はどう返事を返せばいいのでしょうか?」


 真剣に悩むカルミアにぷっと笑いが漏れる。


「どういたしまして、でいいんだよ」

「では、どういたしまして、です。琴美祢様」


 素直に実行するカルミア。

 その様子を見ていると、カルミアが普通の子供となんら変わらないことに少し安堵する。同時に少し不安もしてきた……。

 まぁ、今はいいか──




        ※




 あれから、俺とカルミアは色んな所を歩き回った。

 古びた駅に潰れた銀行。人が賑わう港に商店街。

 女の子が喜びそうなところも一通り回った。

 今は止まっているホテルの隣に建っている食事処で夕飯の真っ最中だ。

 ガヤガヤと騒がしい食堂。そこに配置された白いテーブルの一角でモグモグと食べ続けるカルミア。

 その様子を心配そうに見守っていたが、やがてそれにも限界がやってきた。


「カルミア。美味しいか?」


 カルミアが食べている物を見ながら尋ねる。


「はい、とても美味しいです。琴美祢様もどうですか?」

「い、いや、俺は良いよ……」

「そうですか?」


 短く答えるとカルミアは食事を続ける。

 カルミアって意外に偏食なのか?

 カルミアから視線を離し自分も食事に手を伸ばすした。その直後、突然背後から肩を掴まれ手が止まった。


「俺を誘わずに嬢ちゃんと一緒に食事とは、いただけないな~。()()()


 ため息を付き、食材を皿に戻し後ろを振り返る。


「普通に声を掛けろよ。普通に……」

「それじゃつまらないだろ……って、嬢ちゃん。何喰ってんの?」

「日本のふりかけおにぎりをヒントに、3種のカレースパイスをお米に混ぜて握った、シェフ自慢の三角おにぎり。『カレーおにぎり!』だ、そうです」


 サイガが『何言ってんの?』と、言いたそうな顔でこちらに説明を求めてくる。


「あ~、説明するとだな……カルミアがメニュー表に乗っていない物を頼んで、それをシェフが作って自ら持ってきたんだ。しかもタダらしいぞ、お前もどうだ?」

「なんで満面な笑みで押してくるんだよ! ぜってぇ食わねぇよ!」

「サイガ様、食べたことも無いのに拒絶はよろしくないと思います」

「いや~、メニューの名前とか、味とか、そもそもなんでルーにしていないんだよとか。色々と問題がある気がすんのは俺だけじゃないと思うんだけどよ──」

「サイガ、俺を見るな。何も拾う気はないぞ……」


 サイガから目を背け手に持ったケバブを食べる。


「ともかく俺は別の物を頼むよ──」


 店を見渡してサイガは近くに居た店員を呼ぶ。


「この男と同じ物で」


 ジェスチャーを交えて注文すると、店員は頷き下がっていった。

 サイガが席に着く。


「それにしても、嬢ちゃんはもっと肉が付くものを食った方が良いぞ」

「きちんと栄養は摂取していますが?」

「その年で栄養なんて気にするなよ。そんなんじゃ大きくなれないぞ?」

「身長が小さいままでも戦闘に支障はありませんが?」

「いや、そんな話じゃないんだが……まぁでも、たしかにその方が主様は喜ぶ、か」

「……んっ、ん? おい、ちょっと待てサイガ。お前今なんて言ったんだ?」

「なにって、お前の性癖の話だが?」

「俺はグラマーなボディのお姉さんの方が好みだッ!」

「なるほど。グランドなボディの持ち主か、なかなか変わった趣味をしているんだな……」

「グラマーだッ! なんで大きくするんだよ!」

「いや~、お前もたまには視野を広げた方が良いと思ってな」

「いらない気遣いだな……!」


 俺はイライラしながら最後の一口を食べきり、水を飲もうとコップを口につけた。その直後サイガは小さい声で尋ねてきた。

「相馬。もう平気そうだな」と。

 サイガの言葉に一瞬傾けかけたコップがピタリと止まるが、とりあえず水を飲み干し一息つき答える。


「どうかな。とりあえず今の発言でイッキにご機嫌斜めだ」

「なら、機嫌とりのために良いニュースを聞かせてやろう」


 ニヤニヤとするサイガに、ため息をつく。


「機嫌が直るか分からないが、聞いておこう」


 サイガが辺りを見渡し、ここにいる俺達にしか聴こえないような小声で話を始める。


「──お前さんの相棒、修理が完了したぜ。後は明日届く品の到着を待つばかりだ」

「そうか」

「そうか、ってお前な~。受け取ったとき整備班の連中に五月蠅く言われたのは俺なんだぜ?」

「なんだ、憐れめばいいか?」

「ちっげーよッ‼ 少しは誠意を見せろって言ってんだよ!」

「そうか、なら今度は壊さないように努力しよう」

「はぁ~もういい。そうしてくれ……」

「それで、報告はそれだけか?」

「ん? あぁ、新しい指示を貰ってる。そっちの方は、部屋帰ってからするよ」

「そうか……」


 直後、報告が終わったタイミングと同時に、サイガが注文した料理が届いた。

 サイガは待ってましたと、いった感じで料理を口に運んでいく。


「さて、俺は先に部屋に戻るぞ」

「ちょっと待て相馬!」


 席を立ち上がろうとするのを、サイガがひき止める。


「なんだよ。もう用は済んだんだろ?」

「いや、部屋帰るならプロジェクターを用意しといてくれよ。

 後で映画の鑑賞会するからよ。あ、プロジェクターは昨日買った買い物袋の何処かに入ってるから」


 そう言って、サイガはズボンのポケットからUSBメモリーを取り出した。

 こいつ、そんな物まで買ってたのかよ。てか、面倒事全部丸投げしてきたよコイツ……!

 それを渋々サイガからUSBメモリーを受け取る。


「では、私も手伝います」


 カルミアは急いで水を飲み干し席から降りる。

 サイガと無駄話をしている間に、カルミアも食べ終えていた。

 それにしても──


「カルミア、辛かったのか?」

「はい。舌が麻痺するほどの辛さでした」


 真っ赤に腫れた唇が辛さの程をものがっていた。


「……今度からは考えて頼もうな。カルミア」

「そうします」




         ※




「──さて、そんじゃ作戦の説明をするぜ」


 真っ暗な部屋の中、サイガは壁に投影された映像をレーザーポインターで指しながら説明を始めた。

 地形は激しい波が形作る砂漠。その中央には大型のタンクを2つ保有する施設が映っていた。

 今回はここが戦場になるのか……


「今回の任務は、敵全線補給基地への奇襲攻撃だ。

 まず俺達ファング小隊は、フェンリル基地に戻り、持って帰った新装備に換装。

 準備ができ次第、空輸にて目的地から3km離れた地点へと投下。そっからは新装備を使って目的地まで移動。敵拠点を攻撃する。これが今回の作戦だ。何か質問あるか?」

「新装備ってのはどんな物なんだ?」

「そうだな。お前には今回の作戦について何も言ってなかったな……嬢ちゃん例の映像を出してくれ」


 カルミアがプロジェクターを操作し映像を変える。

 映し出されたのは新しい装甲に身を隠し黒い鎌を持った07の試作設計図であった。

 それをレーザーポインターで指しながらサイガは説明を続けた。


「明朝、0800に受け取るのは07の武器の予備と、機体の予備パーツと新装備だ。

 新装備の方は05~07まで共有可能な装備で、最初に言った作戦を行う上で必要な装備となる。

 脚部には悪路での走行、重装備携帯での移動向上を目的として作られた新型歩行ユニット。脚部クローラーユニットと、接近戦用に造られた鎌形状の試作断熱型サイズ。通称デスサイズ。この二点の装備と、チョバム装備に換装された新型を受け取るのが俺達の仕事だ。

 全て受け取ったら、俺達は新型と装備が入ったコンテナを2機の輸送機に積み込み、少しの間休暇を貰う予定だったんだが……。

 今日、姉さんから休暇を取り上げられてな──」


 ガックリと項垂れるサイガを見ながらカルミアが俺の服を引っ張る。


「……琴美祢様、サイガ様のメンタルが低下しています」

「まぁ整備班には怒られ、休暇の取り止めを言い渡されてダブルパンチだからな。元気が無くなるのも無理はないよ」

「冷静な分析ありがとよ相馬。だがよ、その原因の一つはお前のせいなんだぞ……!」

「そのことは謝っただろ。いいから続きを話せよ」

「このっ! ……はぁ、もういいや」


 今日の疲れが堪えたのか、あっさりと諦めて説明へと戻った。


「とりあえずだ、俺達の休暇は今日をもって終了となった。明日の早朝0700に新型機体を受領。お前達はコックピット内で待機。

 新装備が詰まったコンテナが届いたら、07を使って搬入を開始。新型が輸送機に搬入終了次第、速やかに離陸。基地に帰投する。

 基地に戻ったらファング隊は急いで新装備に換装して、1700に敵補給基地の奪取作戦を開始する。

 ファング隊は目的地まで空輸で向かう。その際目標地点までフェンリル基地のデザートフォックス隊、クフィル4機が俺達をエスコートしてくれる。

 俺等が無事に降りられるかどうかは連中の腕と、敵のおもてなしのレベルによるな……。

 作戦は以上だ。何か質問はあるか?」


 俺はそっと手を挙げて簡潔な質問をする。


「その施設には、どの規模の敵がいるんだ?」

「基地の周囲2キロには巡回の車両パトロール隊と対空砲が配置してある。

 この前の戦闘でこちらにAWがあるのを知ってか。向こうも基地にAWを配備しているらしい。最新の情報で04が5機、01が9機だ」

「また旧式だな」

「だが、今回は数が違う。それに01といってもAWであることに変わりはない。相手が旧式だろうと油断はするなよ」

「お前もな……特に12時」

「盾持ってんのに、正面からの被弾が多いお前にだけは言われたくねぇよっ!

 ……さて、嬢ちゃんは何か質問はあるか?」

「……先程から思っていたのですが。

 サイガ様は何故そのような服装なのですか? 今回の作戦に何か意味があるのですか?」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたな嬢ちゃん。

 内心、聞かれないかと少し焦ってたところだ」


 不敵な笑みを浮かべて、サイガはどや顔で答える。


「何故、俺がこんな服を着ているか? それは──」

「それは、なんですか?」

「……」

「琴美祢様。やはりサイガ様の服装には何の意味も無いようです」

「あぁやっぱりか?」

「いや、間を取ってるだけだから! 勝手に結論出すなよ!」

「でも、どうせ意味はないんだろ?」

「いや、そりゃ無ぇけどよ……。落ちまで言わせろよ!」


 まったくこのお調子者は……

 部屋の明かりを点けて、プロジェクターからUSBメモリーを抜き取る。


「これ以上無駄話をしてる暇もない。俺は明日に備えて任務の段取りと、機体のデータを見直しておくよ」

「では、私も付き合います」

「いや、これは俺がやっておくよ。君はしっかりと体を休めておいてくれ」

「ですが……」

「いいから。休んでくれ」

「……分かりました。では、お風呂に入ってきます」

「あぁ、長風呂はしないようにな……」


 カルミアはこくりと頷き、着替えをカバンから取り出し風呂場へと向かう。

 それを見送り、俺は窓際の机に置かれたノートPCを起動させUSBメモリーを差し込む。

 USBに入ったデータを画面に展開させて、順序を追って目を通していく。

 まずは作戦からだ。場所は砂漠地帯、敵の戦力は防衛施設を中心に設置された対空陣地9ヶ所に移動式の対空ミサイルが約36両。戦車が約15両。ネメシス・インダストリーズの機体、01が9機、04が5機、合計14基のAWがいる。対空陣地は然程脅威でないとしても、戦車と敵AW部隊はかなり脅威だな。こっちはAWが4機しかいない分、数の優位で負けている。

 敵がこちらの情報を知らない間に取る戦術は限られている。防衛施設に近づけない様に戦車部隊と04による遠距離攻撃で敵の情報を得るまでの時間を稼いでくる方法、01で敵の退路を断ちつつ火力部隊による砲撃で包囲殲滅する方法の2つ。

 どの方法で来るかは戦場に出ないと分からない……。

 なら、全ての戦術に対応できる策を考えるまでだな。

 顎を擦りながら考えを巡らしていると、


「──なに考えてんだよ」


 軽い感じで尋ねるサイガに画面から目を離さずに答える。


「敵の戦術予測をしてるんだよ」

「そりゃ真面目なこって……」


 ほんの少し嘲笑う言い方をするサイガを無視して俺は画面に映る資料を元に思考を巡らしていると、カッシュッ! と炭酸が抜ける音が部屋に響き渡る。

 続いてほんのりと鼻を突くようなアルコール臭が漂ってきた。


「……明日の任務に影響をきたす程飲むなよ」

「ばーか、俺は酒を飲んでたって命中精度は変わらねぇんだよ!」

「……嘘くさいな」

「嘘じゃねぇぜ。なんなら明日の作戦、飲んでから参加してやろうか?」

「作戦中にアルコールを摂取することが論外だって言ってるんだよ。もう少しカルナやロバーツ見たいに作戦に集中したらどうなんだ?」

「なんだ、知らないのか相馬?」

「……何をだよ?」

「姉さん作戦前にお気に入りの酒で一杯やってるんだぜ?」


 サイガからの驚きのカミングアウトに、俺はサイガに顔を向け尋ねる。


「……え? 今なんて言った?」

「なんだよ、その信じられないって顔は?

 マジだよ。なんなら基地に帰ったら姉さんが使ってる06のコックピット見てみろよ。きっと酒が入った小瓶が入ってるはずだぜ」


 まさかあの任務は忠実にこなすカルナがなぁ。いや、確かにやりそうといえばやってそうだが……ちょっと、意外だ。


「どうしたんだよ。急に黙り込んで?」

「いや、うん。聴かなかったことにするよ……」


 聞こえてないのか、というより聞いてない。サイガは至福といった表情で酒をぐびぐびと飲んでいく。

 こんな呑気な奴が傍に居ると肩の力が抜けそうになるから怖い。

 俺はこいつらみたいに何か勝っている技術も無ければ、物事を簡単に割り切れる人間でもない。

 なにも無い俺ができることは人一倍努力する事と、油断せず気を緩めないことだ。前の作戦も俺が気を抜いたから被弾した。あと数十センチ弾が下だったら俺はカルミアを失っていたんだ。だから、俺は気を抜く訳にはいかないんだ。例えどんな惨劇が起ころうとも……。

 気を取り直して、俺は再びPCの画面と睨めっこを続ける。

 今回受け取るのは、サイガが言っていた新装備とAW用の武器弾薬が入ったコンテナが5つ。中身はアサルトライフル4丁・付属のグルネードランチャーが4つ。110mmキャノン砲4門。対AW対物ライフルが3丁。大型ブレード、ブレード、小型ナイフが4本ずつ。07の盾が6枚が4つのコンテナの中身。最後のコンテナには弾薬が満載か。

 できるなら機体の予備パーツも欲しかったけど……修復できた07に4機分の新装備を積み込む以上、それは欲張りすぎだな……。

 新装備の脚部クローラーは足の甲を左右から挟み込んで装着するタイプか。どちらかのクローラーが壊れた時に直ぐに破棄しないといけないのは難点だが、砂漠なんかの二足歩行に向かない地形ではありがたい装備だな。

 だけどある意味一番凄いのは、この鎌形状の断熱型接近装備『デスサイズ』だな。

 刀身に熱伝導するまでに掛かる時間は約3秒。熱伝導できる限界時間はデータ上約7秒、再度加熱させるのに10秒程冷やさないといけない欠点があるのか。

 だけど約5秒間、何でも斬れる最強の武器になる。今までの実体剣では斬るという攻撃が絶対的致命打には至らなかった。それ故に接近戦は余り有効な攻撃ではなかったが、この鎌があれば話は別だ。

 接近戦用に作られた07に、増加装甲のチョバムアーマーに110mmの直撃を受け止める大型の盾。移動向上の為の脚部クローラー。そこにこの武器を持たせれば、現段階での接近戦最強機の誕生。それと共に今後の接近戦闘への変化点、か。


「サイガ、お前はこの武器についてどう思う……って、あれ?」


 部屋を見渡してもサイガの姿がない。

 特別大した用件でもないが、一応狙撃手としての意見も聞いておきたかったんだが……。

 

「どこ行ったんだアイツ?」


 椅子から立ち上がった直後、浴室の扉がゆっくりと開いた。

 白い湯気が部屋へと流れていくのと一緒に煌く金髪の男が浴室から出てきた。


「おい、サイガ。お前なにやってるんだ? ことと返答によっては……って、どうしたんだ?」


 てっきり覗きに侵入したのかと思ったが、サイガの様子がおかしい。

 顔が真っ青だ。


「お~い、サイガ。何かあったのか?」

「……ダメだ」

「ん? なにか言ったか?」


 ブツブツと無いか言ってるが聞き取れない。

 なんだかこの世の終わりって顔をしてるし……。

 ゆらゆらとこちらに近づいて来るサイガに、心配しながら尋ねる。


「おい、サイガ。大丈夫か? なにかあったのか?」

「おい相馬ッ!」

「お、おう。なんだよ?」


 ガッといきなり肩を掴んで、大声で怒鳴りだされ少し動揺してしまう。


「絶対にだ……」

「お、おう?」

「絶対に嬢ちゃんに手を出すなよ? 冗談じゃすまないことが世の中にはあるんだからなッ!」

「出さねぇよ。というか、いきなりどうしたんだ?」

「いや、聞かない方が良い。とにかく、絶対手を出すなよ……」


 そう言い捨てて、サイガはそのまま部屋を出て行った。

 いったいなんだったんだ? てか、アイツどこ行く気なんだ?

 サイガの動揺が理解できないまま夜は過ぎ、俺達は航空基地へと向かった──

次回、プロジェクト・アーミー第26話。

サ「新たな任務を受け新型の受領を行う中、敵は動き始める。

 満身創痍の機体を駆る相馬達の前に現れたのは黒いAWであった。

 宿命の敵を前に相馬はどう立ち回るか?

 勇気と無謀は違う。見誤るなよ、相馬……」

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