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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
27/31

第23話

 走り続ける機体の中、耳を研ぎ澄まし周囲に目を配る。

 空は変わらず雲は厚く、視界も悪いまま。

 だけど、さっきとは違う──静かすぎる。

さっきまで鳴り響いていた砲撃音も、着弾音も聴こえない。


「カルミア敵の様子は?」

「BCはAの撃破地点へ到達。

 砲撃していた敵4機は砲撃を止め広場への集結を始めています」

「俺達の存在がバレたか」

「間違いないかと」

「04の残骸に、生き残った少年からの証言が合わされば、気づきもするか……」

「あの子供を殺していれば気付かれる可能性は減らせていました」

「……そんな事をしても残骸だけで気づかれていたよ」


 敵は間違いなくこちらがステルス仕様なのに感づいている。

 だから、まずは戦力を視界の広い場所へ集結させて防御を取る、と。

 なら、まだ集結できていない間に、砲撃していた連中を叩くまでだが……。

 問題はロバーツの生存だ。砲撃が止んだのは俺達に気付いたからだ。でも、ロバーツからの砲撃が止んだのは何故だ? 武器がダメになったか? いや、それならこっちに来て市街地戦に突入するだろう。だが、その通信すらない。


「琴美祢様、どうしますか?」


 カルミアの言葉に頭の回転を切り替える。

 迷っている余裕は無い、今は──


「このまま敵を各個撃破する。シールドを展開、カルミア対処は任せたぞ!」

「了解」


 歩みを止めず敵の位置を確認する。

 一番近い敵との位置は250。次に350、325。


「まずは一番近い敵からやる」


 歩みを早め敵へと向かう。

 まずは敵をやる。ロバーツの生存確認はその後だ……。

 次第に走り始め敵に向かってまっしぐらに突き進む。


「敵のとの距離、残り150」


 民家を飛び越え狭い道を颯爽する。

 道の先には少し大きな2階建ての民家。

 その裏、平坦な屋根から水平に突き出た1本の巨大な鉄の棒。

 間違いなく04の滑空砲だ。

 だがこちらが気づいたのと同時に、敵の歩みが止まり砲身が家の裏へと消えた。


「敵の足が止まりました」


 こっちに気づいたか……。


「カルミア、シールドを前に展開させろ」

「了解」


 機体のカメラより下をシールドが覆う。

 どうでる? 建物越しに撃つか、それとも姿が見えるまで待ってるつもりか?

 いや、後者は……無いッ!

 鋼鉄の左足が乾いた地面に足を付いた。

 ──その直後、轟音と共に2階が吹き飛ぶ。

 キタッ!

 瓦礫の破片よりも早く滑空砲から放たれた砲弾が鉄の盾にぶち当たる。

 

「クッ……ッ‼」


 左の盾に着弾した弾が金属同士が磨り潰す音を鳴らして、盾に弾かれるように空へと飛んで行く。

 その場に止まり、盾の横から銃口を突き出す。

 砂塵をまき散らしガラガラと崩れる家の裏側。砂塵に紛れて鉄の銃身が顔を覗かせる。


「そこだ!」


 砂塵に向けて射撃を始める。

 何発もの弾が砂塵に吸い込まれ、カンカンっと音を立てて火花が散る。

 が、砲身は顔を覗かせたままだ。

 クソ、硬いな。だが──続けて弾を撃ち続ける。

 何十回もの火花が飛び散ると、やがて火花が大きくり小さな爆発が砂塵を吹き飛ばした。

 砲身が次第に上を向き、穴だらけになった04が地面へと倒れこむ。


「やった、か……」

「琴美祢様、東、南から計4機がこちらに向かってきます」

「了解した」


 弾は……残り22発か。

 予備弾倉は無い。後1機を相手にするのが限界か。

 なら──


「カルミア、敵がここに集結する予想時間は?」

「到着予想時刻、1分です」


 敵はまだこっちを捕えていないのと、ロバーツが生きているかに賭けるか……。


「敵残骸のT字路。直進160m先の道角に身を潜める」

「その位置だと、敵に見つかる恐れがあります。

 それよりも各個撃破を提案しますが?」

「いや、これでいい……」


 カルミアの提案を破棄し、俺は破壊された家を飛び越え、通りの角まで急ぐ。

 直角の右角を素早く入り、内角に建つ2階建ての家を盾に膝を着く。


「索敵モードに移行。ロバーツに敵の位置情報を送って、砲撃支援を要請してくれ」

「了解」


 画面から照準が消え、正面画面の半分にマップがでかでかと表示される。

 マップにはレーダーが捕えた敵が表示される。

 敵がこっちに気づいていれば4体1になる。ロバーツの砲撃支援が無くても同じ。

 だが、成功すればここで戦闘が終わる──。


「B、Cに続き砲撃隊2機も目標地点に到達」

「カルミア、ロバーツから返事は?」

「ありません」


 やはりやられたのか? それとも砲撃で通信機械がイカれたか……。


「砲撃音も無し。琴美祢様、どうされますか?」

「賭けには負けたか」


 ぼそりと呟き、右手のブレードを強く握る。


「索敵モードから戦闘モードへ。

 敵をかく乱しつつ、投下の援軍を待つ」

「了解。索敵モード終了、戦闘モードへ移行しま──」

「? どうかしたか?」


 言い止まるカルミアを肩越しに尋ねる。


「砲撃音を2発確認。着弾まで3、2、1、0。来ます」


 黄色い閃光の直後、爆音が鳴り響く。

 爆風に飛ばされ砂塵が画面を覆う。

 全く、遅いんだよ……。


「敵反応3機消失」

「最後の一機を片付ける」


 路地へ飛び出し爆心地へと急ぐ。

 周りは砂塵が舞い視界は0に等しい。

 頼れるのはレーダーのみ……。


「敵との距離70、50、30」


 走り始めて25を切った直後、正面に特徴的な砲身が姿を現した直後、俺はその光景に唖然とした。


「な……ッ‼」


 敵の砲身がこちらを向いていたのだ。

 その距離5m。

 避けれない……ッ‼


「防御ッ!」

「間に合いません」


 宙に浮いた左足が地面を付く。

 ドォォォンッ‼

 身を裂く音に遅れ、1発の砲弾が周りの砂塵を吹き飛ばし頭部に命中する。

 ガタガタと振動するコクピット内で、俺は機体の左腕を伸ばす。


『頭部に被弾。左カメラに甚大な損傷』


 頭部を破壊され乱れるメインモニター越しに敵の胸の中心に照準を合わせる。


「よくもッ‼」


 引き金を引く。

 絶え間ない銃声が暗い闇に鳴り響く。

 が、銃声はそう長くは続かなかった。

 キンッ、と虚しく激鉄が鳴り響く金属音。


『ライフル、残弾0』


 AIが告げる。

 やれたか?

 荒い画像を凝視して敵の様子をうかがう。

 冷や汗が頬を伝ってツーと流れ落ちるのと同時、画面に薄い緑の一つ目が輝きを増すかのようにフラッシュする。

 胸には無数の穴が開いているが、敵は最後の気力を振り絞るかのように、砲身を胸部に向けて下げていく。

 やられる?

 いや──


「まだだあぁぁぁああッ‼」


 大型ブレードの剣先を敵に向け、ブレードを腰に構える。

 腰の勢いに乗せ穴だらけの胸元に剣先が深々と突き刺さる。


「ナイフを射出させろ」


 焦りに大声で命令すると、右腕内の格納庫が開き手持ちに。

 射出されたナイフを受け取り、振動するナイフを持ち替え手を振り上げる。


「これでッ‼」


 ナイフを振り下ろす。

 首筋に押し付けたナイフがガリガリと装甲を削って刃が埋まるまで突き進む。

 何度も点滅する一つ目はやがて力を亡くし、機体は両ひざを付き上半身は砲身の重さに負けこちらへともたれかかる。


「……終わった、のか?」

「動力の停止を確認。敵沈黙しました」

「そう、か……」


 乱れた呼吸を整え、サーベルを引き抜く。

 まだ、戦闘は終わっていない。

 着弾の跡が生々しく残った戦場を見渡し、改めて気合を入れ直す。


「カルミア、敵車両部隊はどうなっている?」


 俺達はまだ敵車両や歩兵の攻撃を受けていない、次に戦うとしたら奴らだろう。


「動く気配はありません」


 動かない?

 予想に反した言葉に俺は眉をひそめる。


「村からの逃走の気配は?」

「ありません。敵の車両部隊は最初の配置以降動きがありません。

 敵車両部隊の破壊を推奨します」

「……いや、必要ないよ」


 厚い雲を見上げて続ける。


「援軍の到着だ」


 上空約1000m。2つの三点式パラシュートが開くのが見えた。

 パラシュートにぶら下がっているのは06だ。

 長い、長い15分だったな。


『ひゃっほ~ッ!』


 電子音と共に横柄な声がインカムを通して轟く。


『さ~て、敵さんは何処だ?』

『ファング3、真面目にやんなッ‼』

『へいへい』

『ファング1より先行隊へ、各員口頭で各自の状況を報告せよ』

「こちらファング4。頭部に弾を喰らったが戦闘は可能。

 ファング2と連絡が取れない。そっちから確認できるか?」

『了解確認する少し待て──』


 カルナの命令を待つこと数秒後。


『こちらファング3。北東、村から約900にファング2を確認。

 至る所被弾してるようだが、無事なようだ』

『ファング1からファング4へ。

 ファング4は北東へ向かいファング2と合流。ヘリ部隊到達まで車両部隊の動向に注意しな。

 もし村から逃げるような奴がいた場合だが……ファング4、分かってるね?』

「……あぁ分かっている」

『その言葉、信用してるよ。

 ファング1から各隊へ。味方が来るまで残り30分だ。

 人一人見逃すんじゃないよッ‼』

『「了解ッ‼」』




        ※




 ──北東でロバーツと待機すること33分、3分遅れでヘリ部隊がようやく到着した。

 機内で待機していた兵隊が村へと降下し、次々と家の中から村人を連れ出していく。

 その様子を見ていた俺とロバーツは、ヘリに乗った上官の護衛の為、村の中央へと呼び出された。

 ロバーツと共に来てみれば、小さな井戸を中心に住民が集められていた。


「こちらファング4、目標地点へ到達した。

 次の指示を乞う」

『ファング1からファング4へ。そちらの状況を報告しな』

「今、装甲車から降りた褐色の男が民間人に何か言っている所だ」

『その男はヘリ部隊を指揮するお偉いさんだ。

ファング2、4はそいつの護衛に勤めよ。民間人に不審な動きがあれば発砲も許可する。しっかりと守るんだよ』

「ファング4了解。待機する、通信終了」


 ぶっつんと通信が切れる。


「発砲を許可する、か……」


 集められた住人はざっと40人。その殆どが女、子供だ。

 それを武装した兵隊50人程が目をギラつかせて取り囲んでいる。こんな状況で何かあるとは思えないんだがな……。

 褐色の護衛対象が民衆に向かって何か言っている。

 男の表現はにやけきってはいるが、別段楽しい話をしているわけではない。


「……奴は民間人に何を言ってるんだろうな」


 ふと、言葉後漏れる。


「聞けるようにしましょうか?」

「いや、いいよ。どうせ聴いてもつまらない内容だ」


 そう言って、俺は自分の両手を見つめる。

 震えも無ければ嫌悪感も無い。人を殺したというのに──


「実感が湧いていないってことか……」

「琴美祢様。何か言いましたか?」


 何でもない。

 そう答えようとした。その時──

 ドンッと激しい爆発音が大気を震わせ鳴り響いた。


「なんの爆発だ⁉」

「P-D25の地点からです」

「P-D25地点……確か敵の車両部隊が集まっていた場所だよな?」

「はい。何者かが車を爆破させたようです」

「味方か?」

「そのような指令は来ていません」


 指令は出ていない。いや、こっちに連絡を送ってない可能性もあるか……。


「カルミア、ファング1と通信を繋いでくれ」

「了解──ファング1から通信です」


 向こうから来てくれたか。


「繋いでくれ」


 電子音の後に聞きなれた声が聞こえてくる。


『ファング1からファング3、4へ。そっちの様子を報告しな』

「こちらファング4。こちらに被害は無い。

 P-D25地点で爆発を確認した。何かあったのか?」

『──歩兵部隊の報告だと、住民が車両を使って逃走を図ったらしい。

 それを見た兵士が、その車両に鉛玉のプレゼントをお見舞いしたみたいだよ』

「なるほど……」


 やっぱりこっちに報告が行き届いてなかっただけか……。


「俺達はこのままココに待機で良いのか?」

『あぁ、そうしておくれ』

「了解。交信終了」


 ぷつんと切れる通信を確認して、俺は機体の頭を隣に居るロバーツ機に向けた。

 ロバーツが乗る機体の損傷は外から見ても酷い物だ。

 両腕は煤だらけ。左肩に至っては、外装が吹き飛びフレームが丸出し。

 胸部には被弾でできたAWの拳位のデカいへこみができている。

 メイン武装であった折り畳み式110mmキャノン砲の姿は無く、今はハンドガンのみが唯一の射撃武器だ。

 こちらの視線に気づいたのか。頭をこちらに向け、頭を動かす。

 聞こえていた。と言いたいのだろう。

 まったく本当に酷い有様だが。生きて入れるだけマシってものだ……。  

 疲れと緊張が緩み吐息を漏らす。

 直後──それは鳴り響いた。

 パンッ‼

 花火が打ち出される様な音、1発の銃声が夜明けの空に鳴り響く。

 何事かと視線を下にいる護衛対象である軍隊長へ向ける。

 初めに視界に映ったのは、護衛対象が民衆に拳銃を向けている瞬間と、立っていた女性がその場に崩れ行く瞬間であった。

 民衆全員の顔が青ざめていく。

 女性が地面に伏すのと同時に、護衛対象が開いた手を挙げる。

 それを合図に、民衆を取り囲んでいた兵隊が一斉に銃を構える。

 こいつら、まさか……!


「辞めろ……辞めろ──……辞めろぉおぉッ‼‼」


 足を一歩踏み出した。その時──、無数の銃声が怒涛の勢いで鳴り続け、鉛の雨が無抵抗な民衆の命を刈りたてていく。


「見るな、カルミア──見るなぁぁああッ‼」


 機体の視界を腕で隠し目を瞑る。

 数秒後、銃声か鳴り止む。そっと目を目を開けると、白色のきゃしゃな腕だけがモニターに映っていた。

 俺は息を吞み、そっと手を退ける。

 銃弾の衝撃で低空を舞う土埃。そこには大量の人間が血を流し倒れていた。


「……ぅっ」


 突如、腹の中から湧き上がる吐き気に目と口を強く閉じ必死に抑える。

 やや収まる吐き気にゆっくりと目を開ける。

 再び目に映る景色は女、子供の死体だ。

 その中を兵隊が生き残りの掃討を始めていく。 


「止めろ……」


 ぼそりと力なく呟く。

 だが、兵隊が倒れた民間人の身体に向けて1発づつ発砲しながら輪を縮めていく。


「止めろ……!」


 湧き上がる衝動に声を乗せるが兵は止まらない。

 一発の銃声が聞こえた直後、俺は右手の剣を天を指す様に持ち上げる。

 そして振り下ろす。その直前──

 ダンッ‼

 歩兵が持っている銃とは比べ物にならない程の銃声が鳴り響き、剣は銃声とは真逆の方向へと飛んでいった。

 銃声をした方へ視線を向ける。

 一本道の大通り、銃口から立ち上がる硝煙とAW用対艦ライフルを構える06が映っていた。

 インカムに電子音が入ってくる。


『止めておけ相馬』


 その声は確かにサイガであった。だが、いつものチャラついた感じはない。

 俺に発現させる暇もなくサイガは続ける。


『ここで奴らを殺したら、お前は一生。カルミアとは一緒に居られなくなるぞ。

 お前、それでもいいのかよ?』

「……」


 怒りに燃え上がる感情を、呼吸を整え落ち着かせていく。

 周りの兵隊がこちらを見上げ手を止めている。


【一生、一緒に居られなくなる──】


 サイガの言葉が脳内に木霊する。

 分かっている。そんなこと、分かっているさ……。


「カルミア、機体をスリープモードに移行させてくれ」

「ここでは危険です」

「いいから、やれッ‼」


 声を荒らげ命令する。


「……了解しました」


 地面に片膝を着き、各システムが待機状態へと移行を始める。

 メインモニターは消え機内は闇へと閉ざさる。

 緩くなったALTSから手を抜く。

 真っ暗で何も見えないが、手が震えているのは分かった。

 今更、今更怖くなり始めたのかよ。内心で自分に腹が立ちながら。

 直後、目に溜まっていた涙がツーと頬を伝って流れた。

 それを手でこすり取り、顔を両手で覆う。


「なんで、なんで……こんな、ことが──」

「大丈夫ですか琴美祢様?」


 心配するカルミアに、今度は落ち着いた答えた。


「大丈夫、大丈夫だから。少しだけそっとしておいてくれ──……」


 涙声になりならも言い切る。

 そんな自分が情けないと思った。

 だが、カルミアはただ「分かりました」と答え沈黙した。

 俺は声を抑え涙を流し続けた──





        ※




 日が登り始めた頃、ドタドタと慌ただしい足音が廊下に鳴り響く。

 足音が扉の前で消えると、扉が勢いよく開き、褐色の男性が血相を変えて飛び込んできた。


「し、司令! ナルサの、ナルサの村が──」


 息を荒げて報告を告げようとする男性より先に、私は答える。


「そうか、攻撃を受けたか……」

「は、はい。先程村からの帰って来た少年の証言ですが……」

「それで、村の被害は」

「人形による強襲に部隊は全滅。住民の安否はまだ不明ですが、報告によると新型が出たと……」

「新型……興味深いな。その話し詳しく聞こう」

次回、プロジェクト・アーミー第23話

サ「作戦は成功した。だが当初の目標であったハサンは捕まらず、ファング隊は次の指令を待つ。

  しかし任務中に起こった惨劇で相馬の心に歪みが生じてしまう。

  それを正すべく、サイガは相馬と町へとくり出す──

  相馬、お前って奴は……」

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