第22話
暗い霧を切り分けるように07は滑空を続ける。
高度は……4850m。
「……霧が晴れるか」
呟いた直後、サーマルに切り替わっていた画面に地面が姿を現す。
雲を抜けたのだ。
村は……真下か、良い所に落としてくれる……。
しかも今日は雲は厚く広域に広がっていて、月の明かりも差し込まない。
奇襲する側にとってこんなにも優位な条件はない。
「レンジブースターON。カルミアは敵を全部発見次第、マップに表示、データをロバーツに送ってくれ」
「了解」
さあ敵はどれだけいる?
高度が3000を切った直後、マップが表示されたサブモニターに敵の位置情報が表示される。
人型が6、7機は居るな……他は装甲車か。
「敵の位置情報の転送完了しました。
各部バーニアで姿勢を制御の後、ブースターによる減速を行います」
「了解。カルミア、着地は任せたぞ」
「はい」
カルミアが返事を返したその数秒後、黄色い2つの光が村に向かって飛んでいく。
ロバーツが砲撃を始めたのか、早いな……。
光の玉が村の中央で爆発を起こす。
直後、攻撃に気付いた敵が弾が飛んできた位置に向かって、砲撃を始めた。
身体が恐怖で縮みそうな轟音を轟かせ、無数の火の玉はロバーツが居るであろう方向へ向かって飛んでいく。
高度が2000mを切った直後、パスパスと音を立てて姿勢が制御が行われる。前面、背面に備えられたブースターに火が付く。
「ウゥッ……‼」
急な減速、Gが下から上に押し上げてくる体感に、歯を食いしばって耐える。
「速度減少中。地面到達まで、あと……5、4、3、2、1」
0のカウントと同時にブースターの勢いが消え機体が地面に着地する。
画面に映る風景を右から左へジロリと確認する。
敵は……居ないな。続いて現在地を確認する。
現在地は村の端。ロバーツとは真逆の方向に落ちてたのか……。
「カルミア、敵の動きはどうだ?」
「砲撃は未だに続いています。しかし、3機がこちらに向かってきます」
流石にブースターの明かりと音でバレたか。
「敵の様子を詳しく教えてくれ」
「はい。敵3機は網を敷くようにこちらに向かって来ています」
「網を敷くように? 真っ直ぐではなく?」
「はい。周囲を見回るように、ゆっくりとこちらを目指して向かって来てます」
「……それは好都合」
敵はたぶん、こっちを捕捉できていない。
だが、やれるのか? 俺に人殺しが……。
──いや、やるしかないんだよな。
決意を両手に込め、命令を下す。
「各部バーニア、前面、背面のブースターはここに捨てて行く。
システムを索敵モードから戦闘モードへ。各個撃破に移行する」
「了解、パージします」
外に備え付けられたパーツが音を立てて、地面へと落ち土埃が舞う。
「続いてシステムを索敵モードから戦闘モードへ移行」
メイン画面に照準が表示され、火器の安全装置がOFFへと切り替わる。
「カルミア、敵に地対空兵器は設置されてあったか?」
「いえ、ありません。敵戦力は、04が7機、走行車両が10両のみです」
「そうか……先にこちらに向かってくる04から排除する。
目標名は北から南にかけてABCとする。
一応言っておくが、カルミアは──」
「防御に専念、ですね?」
冷静に「そうだ」と答える。
「敵は俺が殺る。カルミアは守ることだけに集中してくれ」
「了解」
カルミアに人殺しはさせない。
罪を背負うのは俺一人で十分だ……。
手に持っていたライフルを背面の大型ブレードと取り換える。
「──それじゃ、行くぞ!」
※
時間は遡り4分前──。
地面に到着したロバーツは、砲撃準備に取り掛かっていた。
『脚部の固定アンカー設置完了、次の指示を乞います』
「システムを攻撃モードで待機だ」
『Roger』
「後は、相馬からデータが来るのを待つばかりだな……」
作業が終わると同時に、ロバーツはため息と共に肩から力を抜く。
「まったく。隊長に言われて05に乗ったはいいが、まさか一番ヤバい役目がこうも早くもくるとは……。
こんなことなら、やっぱりサイガに乗らせれば良かったぜ……」
再びため息を付くと、画面に「Message」と書かれた文字が表れた。
相馬からの位置データだ。
『データが送信されました。確認しますか?』
「早く開け」
『Roger』
右側のメイン画面にデカデカと敵の位置データが入ったマップが表示される。
敵は……7機、それに装甲車が多数、か。
「さて、やるとするか──」
水平の110mmキャノンを目標に向けて傾ける。
まずは、村の入り口に居る装甲車からだ。
標準を合わせ、鉄の引き金を引く。
ドンッ‼ と激しい爆音と共に、榴弾が薄い功を描き飛んでいく。
それから数秒後、チカッと見えた光の後につられ着弾音が届く。
『目標に着弾。敵からの発砲音を感知。
着弾まで3秒──』
0と同時に、爆音を奏でるように至近距離で砲弾の洗礼を受ける。
だが、ロバーツは冷静さを欠かず次弾を発射する。
飛んで行く弾と入れ替わりに、敵の弾が飛んでくる。
3発目を撃った直後、至近弾を受け姿勢を崩す。
──が、再び姿勢を戻し、引き金を引き続けた。
5発目の弾が射出した直後、上向きに付いた弾倉が射出される。
『110mmキャノン残弾0』
ロバーツは腰に備えられた弾倉を外し装填を始める。
チラリと時間を見ると25秒経過していた。
「よし、移動する。
AI、砲身を折り畳み、アンカーを上げろ」
『注意、移動時に命中の恐れがあります』
「うるさい。さっさとしろ……ッ!」
『Roger』
砲身が右に向かって素早く折りたたまれ、続け様に地面との固定感が消えた。
『固定アンカー収納完了』
「よし、移動する」
キャノンを両手で抱え、ロバーツは降りしきる砲弾の中、素早く移動を始めた。
※
しだいに近づく足音。建物に身を潜めて、俺は攻撃の時を待つ。
「敵との距離、80……70…65」
敵との距離が近づいていく。
ここまで近づいても、敵に反応はない。
地響きがコクピットまで伝わってくる。
「50……45……40……35」
まだ、まだだ……ッ。
「25……20……10」
頭部の砲身が顔を覗かす。
まだ、あと少し……。
「5……」
敵の前身が姿を見せる。
0と同時に敵のツインアイが、こちらを捕える。
今だ‼
敵が身体を向けたのと同時、腹下から首裏に向けて巨大な刃が貫く。
オイルを飛ばしながら手を此方に向けようとするが、失っていく目の光と共にゆっくりと崩れさる。
「まずは、一つ──」
のしかかる04を片手で抑え、サーベルを引き抜く。
骸となった機体はズンッと重たい地響きを立てて地に伏す。
「B、Cが此方に向かってきます」
「……了解」
目の端に映る04から声が聞こえた気がした。
「人殺し」と……。
「……すまない」
小声で呟き、背のライフルを左手で受け取る。
「BCが合流、警戒するようにこちらへ向かってきます」
「了解。移動する──」
重たいブレードを肩にそっと乗せ移動を始める。
「琴美祢様、BCを急襲するにはその道では遠回りになりますが?」
カルミアの静止を気にせず歩み続ける。
「敵はこっちの動きに気づいていない。しかも、こっちを警戒して陣形まで組んでゆっくりと移動中だ。
なら今の間に、ロバーツを砲撃している敵を急襲する」
「了解……ッ‼ 後方から足音をキャッチ」
「見られたか‼」
振り返りざま、暗闇に紛れた1つの人影に銃口を向け引き金を引こうとした。その直後、ピタリと指先の神経が固まる。
「こ、子供……」
そこに居たのは、対戦車兵器をこちらに向ける1人の少年であった。
躊躇う余裕などない。それは分かっていたが、その少年の怒りと悲しみが入り混じった泣き顔に、俺は躊躇ってしまった。
「頼むから、そいつを捨ててくれ……」
トリガーに指を掛けたまま懇願するように呟く。
だが、そんな声は少年には届いてはいない。
少年はガタガタ震える手でこちらに獲物を向けている。
「琴美祢様、敵が急速に近づいてきます」
「クソッ……早く、早く、捨ててろってんだッ‼」
ドンッ!
1発の銃声が闇夜に鳴り響く。
はぁはぁと息を切らしながら、小さな砂塵が風に流れて消えるのを見守る。
少年はその場で倒れていた。獲物は着弾の拍子に離したのか、衝撃で手元から数メートル離れていた。
血は出ていない。俺が撃ったのは少年の2m先だが、それでも40mm弾の衝撃は凄まじい。
少年はその場で固まっていたが、すぐさまゆっくりと腹を抱えながら身悶えを始めた。
……生きてはいるな。
「間もなくBCがこちらを視界に捕らえます」
「……直ぐに移動する」
地面で悶える少年を目の端で捕えながら、俺はその場を後にした。
願わくば仲間に救助されることを祈って──
次回、プロジェクト・アーミー【クリスマス番外編】
ベ「ほほう。次回は番外編か」
ト「そのようで」
ベ「ということは今回の話は──
人型ロボットによる1対1のガチンコバトル。最後は相打ち、切ないラストに誰もが叫ぶあの有名な」
ト「それも違います」
ベ「なら犬を連れた少年が」
ト「それ以上はダメです」
ベ「なら、どんな話なんだ?」
ト「クリスマスのサンタ達のストーリーです」
ベ「っふ、そんなに私を出したいのか。いいぞ、では出すがいい存分にな!」
ト「いや我々の出番は──」
ベ「メリークリスマス!」
ト「ありませんからね」




