第21話
決して豪華とは言えない小さな部屋の中央。
来客用のソファに座り、似つかわない家具が数多く飾られる部屋で待つこと5分。
カルナが手に持った扇子を掌に何度も叩きつける。
「姉さん、まだ10分も経ってないですぜ」
サイガの言葉にカルナの手が止まる。
「何だいサイガ。私がイラついてるように見えるってのかいッ!」
キッと睨みをつけるカルナに「いえ……」と短く答えサイガは顔を背ける。
「琴美祢様、あれが怒りでしょうか?」
「いや、あれは怒りというより苛立ちだね」
「琴美祢、何か言ったかいッ⁉」
「いえ、なにも……」
慌てて顔を扉の方へ背ける。
直後、ギィィィッと木が軋む音を立てて、ゆっくりと扉が開いた。
全員の視線が一斉にそちらを向く。
「すまないな。待たせてしまったようで」
陽気な声で現れたのは、身長180cm位の褐色の男性だった。
トーレスが立ち上がる。それに連れて全員が立ち上がる。
「俺はロント・カーク中将。このフェンリル03の司令官だ」
「ロント?」
カルナは呟き足を前に踏み出す。
直後、
「ロントじゃないか!」
驚きの声に、ロントと呼ばれる男も驚き露わにしてカルナに近寄る。
「中佐? カルナ中佐じゃないですか!」
前に出たカルナに、ロントは驚きの表情と共に握手を交わす。
その様子を見ていた俺は、隣で呆然と眺めるサイガに近づき小声で尋ねる。
「サイガ、あの男の事知ってるか?」
「いや、俺は姉さんといる時間が短いから知らねぇが……ロバーツ、お前なら知ってるんじゃねぇか?」
サイガが左に立っていたロバーツに尋ねる。
ロバーツはちらりと俺等をみて口を開く。
「奴とは仕事柄、何度か一緒に仕事をした。最後に会ったときは確か──」
「武器商人の護衛隊長をしていた時だよ……」
ロバーツの言葉を遮りロントは答える。
「元気そうだな、ロバーツ」
ロントはロバーツに手を差し出し、握手を交わす。
「お前も元気そうでなによりだ。それよかお前さん、なんで基地の司令官なんてやってるんだ?」
「まぁ色々とあってな。司令官と言われているが、司令官代理ってところだ。それより……」
手を離し、ロントはカルミアに目を向ける。
「その子は何ですかい? 少年兵のようには見えないですが……」
ジロっとカルミアを睨むロントに、カルミアは表情ひとつ変えず顔を上げて口を開く。
「私の名前はカルミアですロント司令。新型のサブパイロットです」
「ほう、こんなに小さいのがアレのパイロットってか……」
頬の髭をなぞるロントに、今まで黙っていた男が口を開いた。
「──見た目は幼いが、我々より遥かに優秀な兵士だよ」
手を下ろし、ロントは後ろを振り返る。
「アンタは?」
「申し遅れました。私の名前はフェルディナント・トーレス。この部隊の監督者、と思ってください」
「ほう、ならアンタが依頼者か。話は聞いている、実戦データを取りに来たんだろ? なら、明日の作戦でしっかり取ってくれよ」
「作戦? なんの話だ、俺は聞いてないんだが?」
「安心しろよ相馬。俺や姉さんにも知らされちゃいない……。
トーレスの奴は知ってたかもしれねぇがな」
サイガの言葉にカルナは頷く。
「それじゃあロント、任務の内容を説明しておくれ」
「……了解です」
短く返事を返すと、ロントは窓側に置かれた机に向かい、引き出しの中を漁り始めた。
数秒後、書類を持ったロントが客用の机に書類と写真を放り投げた。
俺達は書類を手に取り回し読みをした。
それは誰かの経歴書のようだ。
エルニル・デ・ハサン。
反政府軍内部での呼び名は隻腕のハサン。
国歴:不明。年齢:30代前半。特徴、頬目元から頬にかけての傷、左腕がなく、赤髪。
2年前消息を失った■■■■■■■■■・■■■■■の元に突如現れ、その後反政府軍の指揮官として活動を始める。
常に拠点を変え、その場に長居することはない。首に賞金を懸けども、未だ発見には至らず──。
読んでいる途中で、隣にいたサイガから4枚の写真を手渡される。
一枚目に映っていたのは、上から見る黒煙を上げる村の様子。
二枚は地上から、村に入り込んだカーキ色の03が見える限り2機。
最後の1枚には誰かと握手を交わすターバンを頭に巻いた男性が映っていた。
「諜報部の話では写真の村にハサンが表れるらしい。
本国はこの村にヘリ攻撃隊を出すことを決定したんだが、敵は人型を所持している。
そこでだ──」
「我々の手助けが必要って訳かい?」
「流石カルナ中佐、話が早くて助かりやす。
村への接近は──」
「ちょっと待ちな」
不敵な笑みを浮かべてカルナはロントの言葉を遮る。
「その作戦。参加するかどうかは私が決めることじゃないんでねぇ。
作戦の云々は向こうと決めておくれ」
カルナはチラッとトーレスに目を向ける。
「それもそうですねぇ。それじゃあ、依頼者のアンタから了承を得るとしやしょうかね」
トーレスはロントの視線に気づくと首を横に振る。
「我々も手伝いたい所ですが、如何せん新型の装備が届いてないもので」
「新型の装備ならもうありますぜ」
「なに?」
驚くトーレスを余所にロントは新しい書類を取り出す。
それを受け取りトーレスは目を通すなり、ふむと手で口元を隠し納得するように頷く。
「……そうか、これが届いていたか」
「俺には装備の内容を知らされてねぇんだが……どうだ、やれるか?」
「この装備なら、夜間戦闘はやれそうだ。問題は、新型のパイロットが砂漠の戦闘で役立つかだ」
「俺なら中東に居たことがある。砂漠の戦いでも問題はない」
「まぁ戦闘経験は0だがな」
「黙れよサイガ」
「おいおい、そんなおっかない顔するなよロバーツ。ちょっとからかっただけさ」
咳ばらいをしてロントはトーレスと話を続ける。
「本国は早朝の攻撃を予定している。夜まで待つと敵を取り逃がすことにも繋がりかねない。できれば本国の攻撃隊に合わせて貰いたいんだが……」
「だが、この装備では日が出ている間の戦闘はリスクが高すぎる。それに期待してるデータも取れない。
どうにかして夜まで待てないだろうか?」
「そう言われてもな……俺の言葉じゃ本国は作戦の変更はしないと思いやすぜ」
2人が頭を悩ませる中、ならと俺は口を開く。
「なら、今日の夜明け前に攻撃を開始すればいいんじゃないか?」
「だが、お前達はまだ砂漠での連携訓練すらしてない。そんな状態でやれるのか?」
「なぁに、トーレスの旦那。俺達の隊長は一流のパイロットでもあり一流の指揮官なんだぜ。
それに女としても一流だ。例えヒヨッコ一人追加したされても、俺達の連携に問題はないさ。
そうだろ? ロバーツ」
「まぁ隊長が居れば問題はないでしょうな」
「たいした評価を受けてるようだねぇ私は……。
トーレス、新型の換装は今からやっても間に合うのかい?」
「──ここの人員の腕次第、かな」
「それなら問題ない。ここの整備兵は粒揃いだ。いくらでもこき使ってくれ」
「そういうことだトーレス。我々は明日の夜明け前に作戦を慣行する。文句はないね?」
「……了解した。私はこれから機体換装の指揮に入る。
パイロットの指示はカルナ、君に任せる」
「ただ、できれば本国の連中が来るまでに制圧していてくれると助かりやす」
「任せておきな。
──それとロント、私の名前はカルナで良い。もう中佐じゃないんでねぇ」
「なら、そうさせていただきやす」
互いに笑みを浮かべ、カルナはドアに向かって歩き始める。
「さぁお前ら、機体の整備にかかるよ。琴美祢もその子を連れて機体の整備にかかりなッ!
自分の機体は自分でチェックする……それが一流のパイロットだよ」
「姉さん、さっきの言葉よっぽど気に入ったんですねぇ」
「ぶたれたいのかい、サイガ?」
「いえ、すみません……」
カルナとサイガの茶番劇にふっと口元が緩む。
「あぁ、分かっているさ」
俺は頷き、カルミアのに手を差し出す。
「行こうか、カルミア」
「はい琴美祢様」
俺はカルミアと手を繋ぎカルナ達の後を歩いて部屋を出た。
※
【22:33時
C-5格納庫 AWP-07F コックピット内】
「固定作業急げ! 攻撃隊も帰ってくるんだからな!」
ガヤガヤと騒がしい機内、メカニックマン達が汗水垂らしながら機体の固定作業を始める。
そんな中、俺とカルミアはメイン画面に映る新装備についてトーレスから説明を受けていた。
『今回、君には2つの装備の実験データを取ってもらう。
肩や膝に装着されたバーニアと前面、背面に備え付けられたブースター。それとECMマントだ』
「スラスターのデータは分かるんだが……。
あの肩まで隠れた黒いマントはどんなデータを取ればいいんだ?」
『あのマントは元は機体から発する熱を遮断するものだ。そこに電波や赤外線を吸収する電子吸収塗料を塗っている。
問題は戦闘で使えるかだ……。塗料もマントも熱や被弾に弱い。
君には試作外部装備の性能、及び接近戦に置いてどれ程有効かを調べてもらいたい』
「……というと?」
「君にはできる限り接近戦で敵を倒して貰いたい』
「簡単に言ってくれる」
『新型を任せたんだ。それくらいやってもらわねば困るよ』
確かに、それぐらいの事でないと彼女の相方には選ばれていないか……。
「だがなぁトーレス。敵から姿を隠せるのは魅力的だが、マントにする必要はあったのか?
被弾に弱そうに思えるんだが……」
『……一言で言うなら、ロマンだ』
一番言ってはいけない答えを出してんじゃねぇか、こいつ?
話を聞いていたカルミアも口を開く気配すらないんだけど……。
『兵器とはロマンと現実的観点から作りだされたものだ』
「いや、違うと思う……」
『まぁこの兵器に関しては依頼者から届いただけで私の関与するところではないのだけどね』
「……」
猛烈な不安に頭を掻いて、苛立ちを抑える。
この際、起動さえしてくれればいいか。
メイン画面に映っていた新装備のデータが消えた直後、外が騒がしくなる。
「点検終了。全員外に出ろ!」
『終わったようだな。なら、全員に通信を繋ぐ。
作戦の概要の再確認だ』
「了解……カルミア、作戦の画面を出してくれ」
「了解」
淡々とした返事が返った来た直後、メインモニターに作戦を表示させる。
それと同時に電子音と共にトーレスの声が入ってくる。
『それでは作戦の概要を説明する。
本日2209時。航空隊による防空施設への破壊作戦が完遂された。
これにより目的地へのルートが開けた。
これより作戦を開始する。05と07を乗せたC-5が目的地に向けて飛び立つ。
村から2.5Km離れた地点に05を投下。
07は村の真上から降下し上空から敵の位置を捕捉。敵の位置データを先に降りた05に送り07の着陸まで砲撃支援を開始。地上に降りた07は敵を発見次第各個撃破を開始。
15分後に2機の06が合流のため降下。合流の後、敵の掃討戦へ移行してもらう。
以上が作戦の概要だが──カルナ隊長、それでいいか?』
『問題ない。私が着くまで作戦の指揮はロバーツに任せる。いいねぇ相馬』
「ファング4、了解」
『ロバーツも、それでいいね?』
『ファング3了解。新米の御守りは任せてください』
『それでは作戦を開始する。以後通信チャンネルを2488に移行する』
『『『『了解ッ‼』』』』
直後、飛行機のタービン音がコクピット内に鳴り響く。
『それでは諸君。武運を祈る』
トーレスの言葉を最後に、推進音が唸りをあげた。
※
「武装はアサルトライフルを手持ちに、両肩両腰には着地用の展開式試作型スラスターを装備。背の中央に大型ブレードを装備。
両肩、脹脛に外部増加スラスターを装備し、背面にはブースター2基の中央に大型ブレードを装備。
前面にも2基のブースターを装備しております。
急拵えですがサブアームには鉄板を組み合わせたシールドを持たせています」
そういえば、機体を固定するのに持ってきた台座を一生懸命溶接していたけど、盾を作ってたのか……。
まぁ無いよりはマシだな。
武装の画面を消した直後、通信が入る。
『どうだ、琴美祢。準備はできているか?』
「問題ない。こっちには優秀なサポーターが居るからな」
『そりゃ、そうだ。
さて、それじゃぁお互いに任務の打ち合わせと行こうか』
「了解……カルミア、モニターに村の周辺の地図と貰ったデータを表示してくれ」
「了解」
カルミアの返答の後、メインモニターに地図と上空から撮られた映像が映し出される。
『まず、俺は村から2.5km離れた位置に降下する。地面に着地後、砲撃形態に移行。
琴美祢からデータを受け取り次第、15秒間の砲撃支援を開始する』
「俺は砲撃支援の中、地上に降りて敵の一掃を開始する、か」
『支援砲撃をかました後は、敵さんは俺の方へ砲撃を始めるだろうから。
お前さんはその間に、スニーキングで敵を1機づつ潰していく。どうだ簡単な作戦だろ?』
「作戦道理行くならな」
『それはお前次第だな……』
「俺次第、か……」
「琴美祢様、責任重大ですね」
「うわ~。緊張してくるなぁ……」
苦笑と共に陽気な返事を返して、俺はメインモニターに映る上空から撮られたであろう、映像をスライドさせていく。
敵は04が約6機、か。
AWM-04B、機体名:ヘルマン。
前高8m、頭部に固定された115mm架空砲が特徴。砲撃支援の為に作られた機体で、火力以外は期待できない機体だ。
いたるところで黒煙を舞い上がる中、村のあっちこっちに映る6つものカーキ色の物体が映っている。
「それにしても第一世代の機体を、ここまで揃えているとはな……」
『と言っても、第一世代の中で一番鈍足な機体だ。倒すのに苦労はしないさ』
「油断は禁物だけどな」
『05のパイロットに報告。目標地点に到達、ハッチを解放、これより投下する。用意いいか?』
『おう、いつでもいいぞ』
『了解、カウントを始める。
5……4──』
『相馬ッ!』
カウントが始まるや否やロバーツに名を呼ばれ、それに耳を傾ける。
『もし迷うようなら仲間を思い出せ。そうすれば引き金はあっさりと引けるものだ』
「……ロバーツ」
『……0──投下ッ‼』
ガタンッ‼
何が外れた音と共に05だけが地球の時点から取り残されたかのように、機内から追い出される。
ほんの3秒で05の姿は暗い空へと消えた直後、パイロットから無線が入る。
『12秒後に新型を投下する。パイロットは準備されたし』
「こちらファング4、了解」
作戦の概要などのデータをファイルに仕舞い、ALTSに手を入れる。
ゆったりと手を締め付けられながら、ふと言葉を零す。
「……投下されれば戦場へと一直線、か」
「? 琴美祢様、何か言いましたか?」
「いや、なに……ちょっと怖くなってな」
「怖い? 琴美祢様は何に恐怖しているのですか?」
「そりゃ、死ぬことに対してかな」
「死ぬことは怖いことなのですか?」
今日は珍しくガツガツと聴いてくるな。
まぁいいか……。
「怖いさ。死んだら、君を守れなくなる」
「守るのは私の役目です」
淡白な答えがまたカルミアらしいと思い、ふっと口元が緩む。
「そうだな。なら俺は、俺達に仇なす敵を破壊しよう……!」
『投下シークエンスを開始する。
5……4──』
「それじゃぁ、行くか。カルミア!」
「はい、琴美祢様」
格納庫の天井に付けられたランプが、赤から青に切り変わる。
「琴美祢 相馬、カルミア。07出るッ!」
『0──投下ッ‼』
次回、プロジェクト・アーミー第22話
ベ「やあやあ、諸君。待たせたな! 皆の大好きベルガンちゃんだよ~ん」
カ「今日はベルガン様が予告をするのですね」
べ「そうだとも! じゃないと、私の役目が無いからね~。
おいク〇作家! 何故俺様をもっと出演させないッ‼
このままでは読者に忘れ去られるではないか⁉」
カ「ベルガン様、愚痴も結構ですが時間が押しています。
早く次回予告を読み上げてください」
ベ「チッ……わ、分かってるっつ~のッ‼
静まる村に轟く砲音──
ロバーツが放火に晒される中、琴美祢は大地へと降り立つ。
プロジェクト・アーミー第22話。こうご期待!
──琴美祢ちゃん、我々の利益の為しっかりと働くんだぞ~ッ‼」




