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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
23/31

第20話

【中東 傭兵設立特別空軍基地フェンリル03 作戦室

 時間1300時】


 ガヤガヤと騒がしい薄暗い部屋に乱雑に置かれたパイプ椅子に座る。

 ここは作戦室。電灯を消された闇の中を照らすのは、壁紙に地図を映し出す投影機のみ。

 天井を見上げれば、天井に張り付く一基の扇風機にあおがれ、煙草の煙が積乱雲のように渦を巻く。

 まるでアウトローに出てくるギャング共の酒場(たまりば)だな……。

 項垂れるように下を見て呟くいていると。


「ようサイモン」


 横柄な声に呼ばれその方へ振り向くと、同僚のニール・コルッセが歩いてくる。

 ニールは少しやせ細った長身の男性だ。誰にでも愛想は良いが、お調子者なのが玉に瑕だ……だが戦闘では頼りになる奴の1人だ。


「なんだよサイモン。俺の顔をじっと見て……」

「いや、別に何でもない」


 淡々と答え俺はスクリーンに視線を戻す。

 するとニールは素っ気なく「あっそう」と返事を返し隣の席に座る。


「それで、お前はまた出撃するのか?」

「別に俺がいくら出撃しようが俺の勝手だろ」

「そりゃそうだ。それで、今日はいくら稼いだんだよ?」


 この基地では、戦車に車両、対空砲、戦闘機を破壊、撃破した数で報酬が決まる。無論、司令からのミッションも例外ではない。


「今日も燃料を消費しただけだよ……」

「そりゃ、残念なことで」


 二ッシシシッとニールが馬鹿にするように笑うと、突如スクリーン横の扉が開いた。

 扉からゆっくりと出てきたのは男だ。

 年齢は30代くらいだろうか。服の上からでもわかる鍛え上げられた筋肉。

 この男の名はカーク、ロント・カーク。この基地の司令官だ。

 奴が入ってきた瞬間、周囲が静まり返る。


「総員傾注ッ‼」

 

 全員の視線がカーク一人に集まるのを待ってカークは口を開く。


「今日の2200時、P-S13地区の地対空基地への攻撃をおこなう」

「そこは近寄っただけでミサイルが雨のように飛んでくる所じゃないか!」

「また厄介な仕事が入って来たもんだ……」


 次々と文句が飛び交う中、ロントは気にもせず話を続ける。


「明日、本国と共にこちらに在中する人型が、反政府軍が在中する街へ攻撃隊の展開を始める。

 その際、被害を最小限にとどめる為にこの基地を破壊する必要があるんだ!」

「俺達は道路整備員かよ……」

「ヤバい仕事だけが入ってくるな……」

「俺達はその為に雇われた傭兵部隊だ。無論拒否権はあるがな……。

 時間は4時間後だ、希望者は名乗り出てくれ。報酬は2万ドルだ」


 数人が即座に立ち上がり部屋を出ていく。

 ここでは、自分が乗る機体に応じて作戦に参加するかを考えないといけない。

 俺の乗る機体はF-4E。地上攻撃にはもってこいの機体だが、ミサイルが飛び交う中、飛んでいられる可能性は五分五分。

 だが、今日の赤字を取り戻さないといけないしな……しかたない、参加するか。

 それから数秒後、ロント周りを見渡し口を開く。

 

「残ったのは18名か……。

 出発は2000時、諸君等の活躍に期待する──」




         ※



【高度15000m C-5 2番機 格納庫内

 時間0613時】


 硬い背もたれに寝苦しい中目を瞑っていると、パシューッと音を立ててハッチが開く音が聞こえた。

 直後、薄い明かりが差し込みゆっくりと目を開く。 


「──何で、開いたんだ?」


 半場寝起きの頭を手で押さえて暫く目を瞑っていると、


「おはようございます。琴美祢様」


 後部座席からカルミアの声が聞こえた。

 どうやらハッチを開けたのは彼女のようだ。


「おはようカルミア。今どこまで来たんだ?」

「分かりません。命令故、機体のレーダーは機内では使えないので」

「──そうか」

「あの、琴美祢様」

「ん?」

「良ければ朝食をどうぞ……」


 そう言って彼女は後部席に置かれたバックを俺に手渡す。

 ずっしりと重たいカバンを受け取る。

 あれ? これこんなに重たかったっけ?


「お、朝食か。俺にもくれよ」


 聞き覚えのある横柄な声に顔を上げる。


「……サイガ。いつから居たんだよ」

「ん? 良ければ朝食をどうぞ……の辺りから?」

「今さっきじゃないか……」

「いいから、さっさと寄こせよ」


 急かすサイガに、俺はカバンを開ける。


「……なぁ、カルミア。その、カロリーメイトしかないんだけど」


 黄色い箱が詰められたカバンを見せるように、後部座席のカルミアを肩越しで見ながら訪ね。


「戦闘中でも食べられるますよ」

「もうちょっと、重たいものを期待したんだけどな……」

「まぁ、これも悪くないぜ」


 そう言ってサイガは手を伸ばし箱を一つ攫っていく。


「……カルミアは何がいいんだ?」

「ではチョコで」

「はいよ」


 箱を取り後ろへ送ると「ありがとうございます」と返事が返ってくる。

 俺は笑みで答えて手元のカバンを探り始めた。その直後、電子音と共にインカムに通信が入る。


「5分後に目的地点に付きます。

 パイロットは準備を──」


「ファング4了解」短く答える。


「カルミア聞いた通りだ。07を起動させる」


 カバンを閉めて後ろに送り、ALTSに手足を突っ込む。

 直後AIが起動し、メインモニターにいくつもの文字が並んでいく。

 先程までハッチの前に居たサイガの姿は既にいない。自分の機体に戻ったのだろう。


「カルミア、ハッチ閉鎖だ。

 続いて火器管制をONにしてくれ」

「了解。ハッチ閉鎖、同時に起動シークエンスを開始、火器管制に移行します」


 ハッチが閉まり、モニターに映る文字が暗い空間に明かりを灯す。


「──各部チェック開始……各部センサー異常なし……──動力システム異常なし……──各部チェック完了異常なし。

 ALTS起動、4.0から3.4へ変更。

 メインジェネレーター点火、メインコンデンサー電荷上昇中、モード3で起動開始」


 手際よくシステムが立ち上がっていく。

 スクリーンを埋め尽くしていた文字が消え、鋼鉄の天井が映し出される。


「機体の各部異常なし。システムオールグリーンです」

「各ブロックはそのまま。

 着陸までこのまま待機だ」

「了解」


 再び訪れた静寂に、言いようのない緊張感が走る。


「──カルミア、不調は無いか?」

「機体に問題はありません」

「いや、君自身のことだ。なにか問題があるなら遠慮なく言ってれ。俺にできる限りの事はするから」

「……一つだけ、問題があります」

「ん? どうしたんだ?」


 肩越しに後ろを見ると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 白いワンピース姿の彼女の周りを、大量の物体が囲っていた。

 黄色い物体が麦やスイセンなら、それはそれで色になったかもしれないが。残念ながら散乱しているのは花ではない。

 カルミアを囲っているのはカバンの中に大量に詰まっていたカロリーメイトであった。

 そういえば、チャックを閉めるの忘れてたような。

 というか、殆ど身体が埋まる程って、あのカバン四次元ポケットか何かなのか?


「琴美祢様から受けとったカバンから黄色い箱が降り注いできました」

「……すまん」

「謝罪は不要です。

 とりあえず片付ける時間を貰えますか?」

「あぁ、すまない……」

「謝罪は不要です」


 そう言って彼女は顔色一つ変えず、箱をカバンに詰めていく。


「て、手伝おうか?」


 思わずそんな言葉が出るが。


「ALTSを作動している状態で、ですか?」

「ぅッ……」


 言葉を詰まらせると、彼女は何も言わず作業を続けていく。

 紙箱がぶつかる音だけが、コックピット内の静寂をかき乱す。


「──なぁカルミア」

「なんでしょうか、琴美祢様」

「……君は怒ったりしないのか?」

「私には、怒りというものが分かりませんから」

「そう、か……」

「──琴美祢様、怒りとはどういうものなのでしょうか?」

「……難しい質問だな」


 カルミアの質問にう~んと唸り、思考を巡らす。


「そう、だな……カルミアは頭を撫でられたとき何を感じた?」

「……気分の高揚を感じました」

「それが喜びなら、怒りとはそれに似た違うものかな」

「違うもの、ですか?」

「あぁ、喜びが気分の高揚なら、怒りは湯が沸騰するかのようにゆっくりと来るものだ。

 それは喜びとは違うトゲトゲとした何かだ」

「理解しがたいです」

「そうだな。感情ってのは難しいものだな……」

『なぁ~にが、難しいものだな、だよ』


 突如、横柄な声がインカムから通して聞こえてくる。


『インカムのスイッチ入れっぱなしでイチャついんてんじゃねぇよ!』


 しまった、切るのは忘れてたか……。


『まったく。そろそろ到着だぜ、体の固定しっかりしておけよ。平和ボケのド素人君』

「ッ、了解……!」


 インカムのスイッチを切り、肩越しにカルミアを見る。

 先程まで散乱していた箱は既になく、カルミアは既に体の固定を済ませていた。

 やってないのは俺だけか……平和ボケのド素人、か。

 そうだな。平和ボケも大概にしないとな……




        ※




 じりじりと天井がスライドしていく。

 やがて、鉄の天井は消え青空を泳ぐ白い雲が映る。

 輸送機と一定の距離まで離れると、牽引車の動きが止まった。


『機体の牽引終了。

 白い機体のパイロットは2番倉庫へ向かわれたし』


 白い機体、つまりは自分が乗っている07のことだ。

 横たわるメインモニターで位置を確認する。

 扉が開いたままの倉庫の奥には、カルナとロバーツの06が映っていた。

 だが、倉庫の上には白い文字で1と書かれている。

 どうやら2機は入るのが限界の用だ。

 てことは、俺達が入るのはその隣ってことか……。


「ファング4了解。これより移動を開始する。

 ──カルミア、各部ロック解除だ」

「了解」


 モニター端に映る機体の色が紫から緑に変わる。

 機体を乗せた台からゆっくりと足を出し立ち上がる。

 

 操縦にテスト時の違和感は感じられない。


「追加装甲が無いだけで、こうも違うんだな……」

「あれは重量による各部への負荷が大き過ぎますから」

「そうだな。でも逆に、装甲を外した時の反応速度は異常と言える位、過敏すぎるけどな」

「それを使いこなすのが、琴美祢様の役目です」

「それは、そうだな……。

 カルミア、絶対に君を守って見せるよ」

「唐突ですね」

「こんな時じゃないと、言えないからな」

「……琴美祢様は私が守ってみます」


 そこは、素直に受け取って欲しかったんだけどな……。


「なら、言い方を変えよう。

 俺が君を守る為に、君の力を貸してくれ」

「そんなことを言わなくても、私は琴美祢様に力を貸す所存ですが?」

「こういうのは、言葉で言うのが大切なんだよ」

「そういうものですか?」

「そういうものなんです」


 微笑して、俺は持っていたライフルを胸の位置まで持ち上げ、両手で構える。

 正直言ってこの機体は扱い辛い。

 追加装甲を付ければ関節部の負荷が大きく反応速度が若干鈍くなる。

 かといって追加装甲を外せば、機体の防御率が下がって、機体の素早い反応速度に振り回される。

 欠点は多いが、お前が居ないと俺はカルミアの相方になれない。俺も頑張るから、お前も俺と一緒にカルミアを守る為に力を貸してくれよな。


「──さて、行くか」


 熱で蜃気楼を帯びる道を伝って純白の機体は倉庫へと向かう。

 最初の戦場が間近に迫っているとも知らず──

次回、プロジェクト・アーミー第21話

ニ「ようやく始まったな。プロジェクト・アーミー」

サ「そうだな。だけどよニール。俺達が予告に出ても大丈夫なのかよ?」

ニ「何言ってるんだよサイモン。これはもう俺達が主役の話なんだぜ。俺達が予告して何が悪いんだよ」

サ「そ、そうだたのか?パッと出の俺達がいつの間にそんな役柄を……」

ニ「戦況は常に変わるもんだぜサイモン君。

  さて、次回から俺達の活躍、期待しててくれよな」

ロ「いや、お前達の主演は今回だけだぞ」

サ、ニ「な、なんだってぇぇええッ!!」

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