第19話
出口までの長い廊下を、ただ無言のまま彼女と供を歩く。
気まずいような、そうでもないようなこの沈黙。確かカルミアと出会った時もこんな感じだったな。
もっとも、初めて会った時と違って、今では彼女自身、自分が思ったことを口にしてくれるようになった……それが、心を開いてくれたのかは分からないが、何処となく嬉しくてしょうがない。
「琴美祢様、何か面白いことでもあったのですか?」
突然左を歩くカルミアが聞いてきた。
「ん? なんで分かったんだ?」
「分かります。琴美祢様は顔に出やすいので」
「……そうか。
なぁカルミア覚えているか? 君と初めて会った日の事を」
「勿論です」
「忘れる訳がありません」とカルミアがぼそりと呟くのが聞こえた。
その発言だけで、カルミアも日々変わっていってるのだと実感が湧いてくる。
「あれから8ヶ月。君は少しずつだが自分の意見を言うようになった。
君は変わって行くというのに、俺の方は昔に比べて機体の操縦技術が少し上がっただけだ。変化というのは、やはり子供だけの特権なんだな」
「……琴美祢様は今のままで良かったのだと思います」
ゆっくりと足を止める。
「どうしてか、聞いてもいいかいな?」
カルミアに顔を向けて尋ねる。
すると、足を止めてカルミアもこっちを見上げて答える。
「具体的には答えにくいのですが……。
琴美祢様が変わってしまっていたら、私は貴方を選ばなかったかもしれません。
ですから、琴美祢様は今のままでいいのだと思います」
「……そうなのか?」
「はい。琴美祢様と居ると色々と発見もあるので」
「それって、表情見るの楽しんでるだけだよねカルミア……」
「楽しいかどうかは分かりませんが、勉強になります」
「それは褒めてくれてるって事なのか?」
「勿論です」
「……そ、そうか」
今だに掴みどころが分からないんだよな~。
まぁそれは今後の課題って事かな。
「さて、俺達も早く帰って準備を済ませないとな。
その前に買い物に行かないとな……」
「何を買いに行くのですか?」
「勿論、君の本だよ。
約束しただろ?」
「琴美祢様。それは本来昨日果たしておく約束かと……」
「……でも、本は自分で選んだ方が良くないか?」
「琴美祢様が選んでくださるなら、私は問題ありません」
「そ、そうか?」
「はい。琴美祢様のセンスなら問題はないと自負しております」
「そうか……なら、今後こいう時があったらそうするよ」
再び前に歩き始める俺の後をカルミアが付いて歩き始める。
──こんな平和な日々が続けばどれ程よいかと思いながら、昔歩いた道を歩む。いずれそうなるようにと願いながら。
※
「AW01~AW06。
ネメシス・インダストリーズの機体が、こうも勢ぞろいとはねぇ。改めて驚かされるよ」
「世界新鋭の機体を扱う会社の機体がここまであると、改めてこの会社のデカさを実感させられますね」
「まったくだ」
サイガの言葉にロバーツが頷く。
「私とサイガは06を、ロバーツは05を受け取ってきな」
「隊長。何故私だけ支援機なんで?」
「なんだいロバーツ。アタシの指示に不満でも?」
「いえ、自分が乗るよりもサイガが乗った方が良いと思いまして。
こいつが優れてるのは射撃能力だけなんですぜ。なら装甲の厚い支援機がお似合いだと思うんですがね」
「なんだとロバーツッ! テメェだって、この前相馬とやって最初にやられてたじゃねぇか!」
「あれは、お前のカバーが薄かったからだろうが!」
「だとこの野郎ッ!」
「やるかッ⁉」
「──お前ら、やかましいぞッ!」
「「ッ‼‼」」
2人が黙る中、片手で額を抑えため息交じりに私は説明を始める。
「ロバーツ、アンタは私と一緒に琴美祢の奴のバックアップに付いてもらう。
だが、汎用機が3機ってのも陣形として不安だろ?」
「その為にも中距離支援機だと……」
「そうだ。それにサイガに06を任せたのは、長距離射撃として06が秀でているからさ」
「「なるほど──」」
納得する2人を見かねて思わず苦笑する。
まったく、戦闘の時は優秀なんだけどねぇ……。
「さて、私の機体も受け取りに行こうかねぇ。
お前らも、さっさと自分の機体の整備に掛かりな!」
「「了解ッ!」」
※
カタカタとキボードを叩き、06のシステムを自分のS型へと変更していく。
「支援AIを削除……完了っと。
続いてメインカメラの調整を──」
「おい、サイガ。聞こえているか?」
ロバーツの声が、耳に付けていたインカムから聞こえてきた。
「聞こえている、どうかしたか?」
「いや、ちょっとな。
これは、お前だけに繋げている。お前に聞きたいことがあってな……」
アイツが俺に聞きたいこと?
「なんだよ……」
「そんなに身構えなくていい。なに簡単な質問だ」
そういうと、ロバーツは少し間を開けて告げる。
「もしも、もしもだサイガ。隊長に相馬、俺が危険に場面にいて、お前が誰か一人を救えるなら、お前は誰を救う?」
「……っふ、野郎共を助けるなんて俺は御免だ。
勿論姉さんを助けるよ」
「──そう」
「だがな。
俺は仲間を見捨てる気はねぇ。例えそんな状況になっても、お前らの活路ぐらい俺が作ってやるよ。
それに、姉さんだけ助けて、後でどやされたくねぇからな」
「そうか……サイガ、お前はこの基地で隊長に出会った。
俺は3年も前からあの人の下にいる。それは俺はあの人に恩があるからだ。
だが、お前は何で付いてくるんだ? お前の腕なら、俺達以外に貰い手もいるだろう?」
「そう、だな……。
分かりやすい答えと、凝った答えどっちがいい?」
「……分かりやすい答えで」
「姉さんのカッコよさに惚れたからさ」
「フッ。フハハハハハッ‼
そうだな……確かにそうだ。ハッハッハ!」
「そんなに笑うなよ」
「いや、すまんすまん。つまらんことを聞いた。作業に戻るとするよ」
「ちょっと待てロバーツ!」
慌ててロバーツを止める。
「お前の答えも聞かせろよ。
俺だけ答えたんじゃフェアじゃないだろ?」
「それも、そうだな。俺は──」
数秒間が空きロバーツが答える。
「もし、お前だけ残して撤退命令が出たとしても助けに行ってやるよ。
まぁ、まず相馬が先に助けに行きそうだがな」
「姉さんじゃないのが残念だ……」
「そうだな……」
再び2人で笑う。
「さて、もう切るぞ。
早く機体の設定を見直さないと、荷の支度もできねぇ」
「そうだな。
ほんじゃ、また後でな……」
「おう、またな……」
ブツッと通信が切れる。
ロバーツ、確かに俺が姉さんに付いて行くのは姉さんのカッコよさに惚れたからだ。
でもよ、それ以外にはもう一つ理由があるんだぜ……。
目を閉じれば笑い声が聞こえてくる。懐かしく、そして暖かいこの感じ……。
──ここは居心地がいいんだ。
※
袋に入った荷物を片手で背負い、俺とカルミアは集合場所である倉庫前へとやって来た。
時間は2140。集合時間20分前にも関わらず、既に全員が揃っていた。
「姉さん。全員揃ったぜ」
サイガの言葉にロバーツ、トーレスと話していたカルナがこちらを振り向く。
「よし、なら始めるとするか」
カルナが手を叩くと、サイガとロバーツが俺とカルミアを基準に整列する。
「総員傾注! これからの事を技術主任様が話してくれる。
耳の穴かっぽじってよく聞いておくんだよ」
カルナの紹介に、トーレスが咳ばらいをして話を始める。
「え~。これから君達には、今倉庫から出ているC-5輸送機に機体を搬入してもらう」
トーレスの指している輸送機が、やかましいエンジン音を響かせて準備に入っていた。
その大きさは、AWがすっぽりと入りそうなほどだ。
「機体搬入後、目的地までの移動を開始してもらう。
なお、機体には搭乗してもらう。もしもの時の用心だ」
「もしもの時って……撃墜される危険性があるのかよ」
「ぼやくなよサイガ。まず、そんなこと滅多に起こらないさ。
そうですよね主任様」
同意を求めるロバーツにトーレスが頷く。
「一応危険性はない、が。先程も言った通り、用心のためだ。
今から向かうところは最前線だ。用心に越したことはない」
「1つだけ質問いいか?」
サイガが手を上げて質問を始める。
「武器はどうする? そのまま装備して機に運ぶのか? それとも外して持っていくのか?」
「持ち運べる武器は装備していってくれ。ただし、新型はライフルだけ装備して搬入してくれ。
輸送機にシールドが入らなくてな。シールドは追って運んでもらう。無論他の装備もだ……」
「他に質問はあるかい?」
カルナの問いに誰もが黙る。
「よし、なら最後に我々のコードネームを知らせておく。
私、ロバーツ、サイガ、琴美祢の順にファング1、2、3、4だ。
間違って違うこと叫んだら敵として撃ち落とすからねぇ」
カルナの不敵な笑みに、カルミア以外、口元を引くつかせて「了解」と答える。
「さて、ファング隊各員は機体に搭乗。
自分の機体を輸送機に搬入しなッ‼」
カルナの命令に全員が敬礼して答える。
「「「「了解‼」」」」
次回、プロジェクト・アーミー第20話
琴「──ようやく序盤が終了。これから中盤戦に突入か……」
カ「ようやくここまで来れましたね」
琴「あぁ、そうだな……、カルミア、俺は君を絶対に守って見せる」
カ「唐突ですね」
琴「こんな時じゃないと、言えないからな……」
カ「では、私も貴方に力を与えます。だから、生きてください」
琴「あぁ、任せてくれ」
カ「それでは、琴美祢様」
琴「あぁ、分かっている」
琴・カ「「これからも、プロジェクト・アーミーをよろしくお願いします」」




