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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
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第2話

「……琴……祢さ……琴美祢様。起きてください」


 誰かが呼んでる?

 目を開けると、白髪の少女がこちらをのぞき込んでいた。 


「琴美祢様、訓練開始時刻2時間前になりました」


 傍に置いていた時計を見る。

 針は6時を指していた。たしかに集合2時間前だ。

 ベッドの横で、無表情に直立姿勢で待機する小さな少女。

 もう少し、愛想のよい表情で起こしてくれたらな……。

 少女の硬い態度に俺は溜息を吐き、ベッドから起き上がる。


「分かった。すぐ着替える、よ……」


 部屋を見渡すと、部屋の中に段ボールが散乱していた。

 昨日、引っ越しをするだけして、荷物整理してなかった。


「これじゃ、何処に服が入ってるか分からないな……」


 ボサボサの頭をかきながらボヤいていると。


「服でしたら机の上に準備してあります」

「へ?」


 少女に指摘されて机を見る。そこにはキッチリと折りたたまれた作業服が。


「俺が起きる前に、探しだしてくれたのか?」


 少女は小さな顔でコクリと頷く。


「そうか、ありがとうな」


 少女の頭を髪が乱れない様に撫でる。それに対して、ただこちらをじっと見つめてくる。

 その視線に頭を撫でていた手が止まる。

 物凄く睨んで来るけど、嫌だったのか? ついつい子供に接する時と同じように接しちゃったけど……。

 直後、頭に乗せたままの腕を掴まれる。


「琴美祢様……」

「はい!」


 やばい。怒られ──。


「頭を撫でる事に、いったいどのような意味があるのでしょうか?」

「へ?」


 あれ? 怒ってない?

 てっきり怒られると思ってたけど。むしろ不思議に思っているとは……。

 何も知らない子供って事なのかな?


「そ、そうだな……良い行いをしたから、褒めているのを行動で示してるんだけど。嫌だったか?」

「いえ、嫌ではありません。むしろ、何と言えば良いのでしょうか?」


 数秒の沈黙後、少女が力強く答える。


「肩の力が抜けます」


 それは、気が緩んでくれてるってことなのか?

 それに、もっと違う言い方があったような……。

 でも、なんとなく喜んでくれているのは分かった気がした。


「そうか。それは、良かった」


 再び頭を撫でる。少女は、目を細め無表情のままそれを受け入れる。

 その様子に、一児のパパが子供の頭を撫で続けてしまう理由が分かった気がした。


「あっ! そう言えば……」


 ある事を思い出し撫でるのを止める。


「君の名前を付ける約束だったね」 

「はい。その様なお話を昨日しておりました」


 昨日は来客が来た後、引っ越しの準備でドタバタして教えそびれたからな……。

 重たい腰を上げ、机に向かい引き出しを開ける。

 引っ越しした後、引き出しに名前を書いたメモ用紙を入れておいたのだ。


「これだな……これが君の名前だよ」


 見つけたメモ用紙を、そっと少女に差し出す。


「【Kalmia(カルミア)】これが私の名前……」


 少女はメモ用紙を見つめるが表情は無表情のままだ。

 あれ? もしかて、気に入らなかったのかな? 結構いい名前だと思ったんだけどな。

 でもこの名前、単に花の名前なんだよな……。


「気に入らなかったなら考え直すけど」

「いえ、琴美祢様が付けてくださった名前です。気に入らないなどと言うことはありません」


 少女の淀んだ真っ直ぐな瞳に、俺は目をそらす。


「そ、そうか。さて、それじゃあカルミア。着替えるから先に玄関で待っててくれ」

「はい。琴美祢様」


 カルミアは一礼して、名前の書かれたメモを白衣の胸ポケットにそっとしまい玄関先へと向かう。

 さて、着替えるとするか。カルミアが用意してくれた服を手にして着替え始める。

 服を着替えている最中、密かにカルミアが何度もメモを見ていたのが目に入った。

 それを見て、自分がした行為おこないが間違ってなったことに少しホッとした。

 気に入ってくれたんだな。無表情だったから、最初は焦ったけど……。

 それより、道具と言ってもちゃんと感情があることが確認できた。これが一番嬉しかった。



 よし、着替え終わった。メモ帳にペン、忘れ物もない。

 俺が着替え終わるのに気づいたカルミアは、いそいそとメモを胸ポケットに戻し始める。

 しまい終わるの確認してからカルミアに近づく。 


「それじゃあ、行こうか」

「はい。琴美祢様」


 短く返事をする彼女は、未だに無表情だ。

 まだ、心を開いてくれてないのだろうか? それとも、自分は感情の無い道具だと思い込んでいるからなのか?

 俺はドアノブに手をかけてる。

 どちらにせよ。彼女とはゆっくりと打ち解けていこう。

 扉を開け廊下に一歩足を踏み出した。







 この基地は森で囲まれている。それ故にここが何処にあるのか、近くに町があるのかは分からない。

 そもそも、この基地に出入り口は無い。

 初めてこの場所に来たときに、バリケードに沿って歩いてみたが……何処にも出入り口がなかった。

 そんな重要管理下にあるこの場所に来た時に「生活とか大丈夫だろうか?」等と心配したが、意外にそうでもなかった。

 まず、寮の周りには飲食店や雑貨店等がある為、衣・食・住には困らない。

 同僚から聞いた話だと、風俗店もあるらしいが……行ったことはない。

 今まで女性に縁が無かった俺には風俗なんてハードルが高すぎる。行けるとしたら、美人の女将さんがいる居酒屋位が限界だ……。


 話が逸れたな……この基地は2つのエリアに分かれている。

 1つが、先程の寮等がある居住区。

 もう1つが軍事部隊施設だ。

 軍事部隊施設は基地の4/5を占めている。

 長い滑走路と管制塔、AWや航空機が格納されている格納庫、弾薬庫、武装格納庫、AWの訓練場所、射撃訓練所など。戦闘で使うための兵器、設備が揃っている場所。

 それが軍事部隊施設である。



 そして今。俺とカルミアは、AWが格納されている13格納庫の集結する人ごみの中にいる。

 暑い、あつすぎるぅぅぅうう。

 夏なのだから、外が暑いのはあたりまえなんだけど……。

 集まってるのが筋肉質の輩が多いせいなのか。余計に暑く感じる。

 俺の横で、日光に当たりながら待機しているカルミアに「暑くないか?」と尋ねるが。

「問題ありません」即答された。

 その回答とは裏腹に、彼女の額から汗が流れ落ちていく。

 熱いんだろうな……。

 俺はさりげなくカルミアと逆の位置に立ち、直射日光がカルミアに当たらないようにした。

 これから訓練があるのに倒れられても困るからな……。

 直射日光に当たり。ついでに筋肉達に囲まれる中、上に広がる青空を見て思う。

 暑い……。




 それから数分後。

 突然AW格納庫の鉄製両扉が、耳をつんざくような軋みを立ててゆっくりと開き始めた。


「総員傾注!」


 倉庫から出てきた兵士から命令が下る。それに対して、外にいた全体が一斉に私語を止め、開く扉に向かって背筋を伸ばす。

 両扉が完全に開くのと同時に、暗い倉庫の中から1機の巨大な機体が姿を表した。

 シルエットから大きさは二階建ての平屋位ありそうな巨大な機体は、重量を地面に響かせながら、ゆっくりと倉庫から出てきた。

 太陽の光で照らされる灰色に塗られた巨体の正体は、AWM-01であった。


 Army Weapon=通称AW。

 兵器技術が日々進化していく中。次の主役として作られたのが、この人型兵器だ。

 大口径の大型装備を搭載し、戦車と互角以上に戦う力を持ち。時速100キロで走る最新兵器。

 そんな化け物じみた、SFチックなハイテク兵器が誕生日して十数年の月日が経った。

 世界でAWの技術が爆発的な進化を続ける現在では、AWは戦闘兵器の代名詞である。

 登場して数十年も経ったAWM-01は、AWシリーズの初期型であり、既に旧式の機体である。


「全員集まっているな」


 AWに塔されている外部スピーカーから、パイロットの声が聞こえてくる。


「突然だが、君達にはこれより模擬戦を行ってもらう。

 今まで君達にはAWでの集団戦闘や個々での操縦訓練をしてもらった。その成果を、"今日"見せてもらう。何か質問などあるかな?」


 俺は手を挙げた。

 昨日学んだからな……手を上げて質問しないと殺される、と。


「そこの……琴美祢君だね。何かな?」


 俺は、手を降ろし質問を始める。


「自分達の対戦相手は誰でしょうか? それと自分達が使える機体は何でしょうか」

「そうだな。まず1つ目の質問に答えよう────。対戦相手は、私を含む基地の教官4名対、ここに集まっている君達19名だ」


 AWのスピーカーが途切れた瞬間誰かが言葉を漏らした。


「勝てるわけないじゃないか」と──。


 それもそうだ。

 この基地にいる教官は、誰もが戦場で名をはせた強者つわものばかり。

 その強者にAWの操縦を教わっている俺達は、彼らから見たら卵から足が出たばかりのひよこ……。

 そんな俺達が勝てる確率は、ニュー〇〇プにオー〇ドタ〇プが勝つ確率くらい低い。

 皆の不安がヒートアップする中、パイロットは話を続ける。


「さて、2つ目の質問だが。私達が使う機体は君達へのハンデとして、AWM-01型を使う。君達の機体は、この基地にある機体で好きな機体を選ぶと良い」


「好きな機体を選ぶと良い──」その言葉に先程まで罵倒を吐いていた者達が、静かになる。

 敗北の確定が、勝利への確信に変わったからだろう。

 教官達が乗る機体は、AWM-01はAWシリーズの初期型。

 今では初期型よりも第2世代ほどの差がつく機体が多く存在する。

 AWM-04、AWM-05。そして俺達訓練生が使っている、型式番号【AWM-06】機体名【バビロン】と呼ばれる最新鋭機。

 どの機体も01シリーズとの性能差は月とすっぽん。

 ガ〇〇ムMk-Ⅱと旧〇ク位の差がある。

 そんな、性能が段違いの機体を使って良いとパイロットは言っている。


 素人とベテランが同じ機体。もしくは、少しばかり機体性能に差がある機体で、両者が戦えばどうなるか? そんなのテクニックに差のある、ベテランが勝利するに決まっている。

 だがそれは、相手が凄腕で機体性能にさほど差がない条件下の元に生まれる答えだ。

 如何に腕が良くても。旧型の機体性能と新型の機体性能の差は、ある程度しか縮まらない。

 だが、機体の性能ポテンシャルには限界がある。

 だから06を使えば、同等の戦い、もしくは素人が勝利するだろう。


 教官達が最新鋭機に勝てる方法は3つ。

 トラップを使った戦法。

 機動力の低いが火力のある01Bブラストでの狙撃。

 接近戦での撃破だ。


 今教官が乗っている01は、全長約6m。

 兵装は、20mmサブマシンガン、7.7mm頭部バルカン、超振動ナイフ。

 ガタイはずんぐりむっくりとしており、運動性の悪い機体だ。

 しかし、射撃の安定性、頑丈さに優れており、素人パイロットでも扱いやすく評判の良い機体でもある。


 対する最新鋭の06は、全長8.5メートル

 主兵装は、40mmアサルトライフル、20mm頭部バルカン、対AWブレード。

 持っている主兵装の数は初期型とあまり変わらない様に見えるが、各武器の火力は段違いである。

 それ以外にも色々な武装を内蔵する、ウェポンラックを装備することができる。これにより戦場によって兵装を変える事が可能だ。

 他には、初期型にはない光学スコープや、頭部に照明灯など色々な機能が追加された。

 機体の形は初期型に比べ、スリムになり関節部分が丸見えの機体となったが。

 装甲の硬さ、射撃安定性、運動性、レーダー機能は飛躍的に上昇している。

 まさにマルチロール機である。

 そんな機体で、01の相手なのだから皆がやる気になるのも頷ける。


「それと、ついでに言っておくが……今回貴様らの機体からAIを外す」


 昨日カルミアから聞いた通りの情報に俺は苦笑するが、周りの反応は違う。


「AIを外すだって……」「冗談じゃない。どうやって戦えって言うんだよ……」「無茶苦茶だよ」


 ふつふつと不満の声が上がる。

 まぁ、そうなるよな。

 なんとなく解っていた反応だが、俺も知らなかったら同じ反応していただろうな……。


「静粛に!」


 AWの下にいる兵士の怒鳴り声に全員が口を瞑る。


「君達の言いたいことは分かる。

 AIはAWを動かす上で一番重要な装置だ。

 だがしかし、今回は君達の訓練の成果を見るのも含めて、君達のパートナーの試験でもあるのだ」


 教官の言葉に、昨日の夜カルミアが話していた事を思いだす──。


『私達は主様が扱うAWのAIの代わりを行うのです』

『君がAIの代わりに? そんな事が可能なのか』

『はい。私達は遺伝子調整を施され常人よりも優れた頭脳を得ていますので』


 あの時、カルミアはああ言ってたけど……。

 子供を戦争の道具に使う。

 決して許されるはずがないその行為に、周りに居る人達は変然とした態度だ。

 俺は間違っているのか? この子達を道具にすることを拒むことが……間違いなのか。

 突然服の袖を引っ張られる。我に返り引っ張られた先を見ると、カルミアがこちらを見つめていた。

 気がつけば、俺は爪が手の平に刺さるまで拳を握っていた。

 同時に異様な表情になっていたのだろう。カルミアは「大丈夫ですか?」と首を傾げていた。

 そんな彼女に「なんでもないよ」と作り笑いをして誤魔化す。


「さて、諸君。これより、各自機体を選び3時間後に目標地点に集合してくれ。集合場所は君達の道具あいかたに教えておく。諸君は道具それに従い移動してくれ以上──解散!」


 命令を下すなり、AWは倉庫へと戻って行った。

 その場に集合していた奴らも、各自その場を解散して格納庫へと向かい始める。


「さて、カルミア。俺達も行こうか」

「はい。琴美祢様」





     〇





 格納庫に着くと、殆どの人が06が格納されている13番格納庫ここに集まっていた。

 新鋭機を選ぶのが妥当なのは分かっていた事だけど……。

 これじゃ、余裕すぎるんじゃないだろうか?

 そんなことを思いながら、辺りを見渡していると、カルミアがこちらの裾を引っ張ってきた。


「AWM-06 バビロン。琴美祢様はどのような兵装で挑まれるのですか?」

「兵装は基本兵装のライフルとサーベルにするよ」


 その方が、武器を多くしても機動力が落ちる。

 それに、演習場でやるならいつもの装備の方がやり易い。


「そうだ。聞き忘れたんだけど、君はどうやってAIの代わりをするんだい?」

「それは、あの装置から琴美祢様が乗る機体に直接接続して私の力でサポートを開始いたします」


 カルミアが指を指した方向。

 頭上に半球の様なヘッドギアだろうか? そんな装置が付いた白い椅子が、横一列に並んでいた。

 色が白じゃなく錆びだらけだったら、間違いなく拷問椅子だな……。


「あの椅子の上に付いている装置から、琴美祢様が乗る機体に接続します。そこからは私がAIの代わりに琴美祢様のバックアップを開始いたします」


 説明を聞いて、改めてこの子が兵器として作られたのだと実感する。

 それと同時に、今からこの子を兵器として使う自分が、途轍もなく許せない。


「それでは、琴美祢様。私は装着あそこへ向かいますので」


 そう言って、歩い始めようとするカルミアの腕をすかさず掴み引き留める。

 このまま行かせて良いものだろうか?

 説得して、あそこに行かない様に言ってみるか?

 足を止めてこちらに振り返るカルミア。


「何でしょうか琴美祢様?」

「カルミア。えっと、その……君は嫌じゃないのか? 自分が兵器として使われることに恐怖はないのか?」

「ありません。私は兵器として作られた道具です。道具に恐怖と言う感情は存在しません」

「そうか、そうだよな……」


 俺はそれ以上言葉が出なかった。


「それでは、私は装置に向かいます」


 敬礼して装置に向かって歩いて行くカルミアの背を見送る。

 俺は煮え切れない気持ちを抱え自分が乗る機体の元へと向かった──。

用語解説

カルミア=花の名前。ツツジ科。

     花言葉は、優美な女性、大きな希望、野心である。

     


次回、プロジェクト・アーミー第3話。

琴「カルミア、これからよろしくな」

カ「……。その名前は気に入ってるので良いのですが。他にはどんな名前を考えてたんですか?」

琴「えっと。そうだな……[かなで]とか[とがめ]。

他にはフレイやミーシャってのも考えてたけど……」

カ「カルミアって名前でよかったと心から思います」

琴「そうか……そう言ってくれると考えた甲斐があったよ」

カ「はい。この名前を大切にしていきたいと思います」

琴「ああ、そうだな」

カ「では、今回は私が次回予告をしてみせます」

琴「やれるのか、カルミア?」

カ「任せてください。

  次回、戦いを前に起こる惨劇」

琴「次回をよろしく!」

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