第11話 side琴美祢
壁際に並ぶ試着室。その通路の中央に置かれたソファーの一角に、大量の服と共にカルナは居た。
「遅かったねぇ琴美祢ぇ……」
声をかけてきたカルナが突然、猛獣に睨まれたかのように固まる。
カルナだけじゃない。こっちに気づいたロバーツとサイガも同じような顔をして固まっている。
なんだろう? 空気が重い。というよりか、3人の視線が痛い。
「相馬。お前、何やってんだ?」
ひきつった顔で、サイガは指をさしてくる。
俺は不意にサイガが指す方向へ視線を送る──後ろへ。
「後ろじゃねぇよ。お前が抱えてるそれだよ!」
サイガの猛烈なツッコミに、視線を下に落とす。
そこには、俺に体を預ける白色の長髪を垂らした小さな少女がいるのみであった。
「なんだ? カルミアがどうかしたのか?」
「いや、どうもこうも……やっぱりお前、そういう子が好みなのか?」
「やっぱりってなんだよ! そんなわけないだろ!?」
「でも、お前年下好きって噂もあるからな……」
「なにその噂? 初めて聞いたんだけど……!」
「「「違うのか?」」」
「何で3人とも疑問系なんだよ。違うって言ってるだろ!
だいたい、俺はもっと大人っぽい女性が好きなわけで……」
言いかけていた言葉が、不意に浮かんだ疑問に止められる。
「そういえば、何でそんな噂が流れてるんだ?」
「何でって……そりゃ、あんな画像が出回ればなぁ?」
サイガの言葉に共感するように、ロバーツとカルナは頷く。
ん? 画像? 一体なんの事だ?
頭にクエスチョンマークを浮かべる俺。
それを見かねたカルナ達は顔を見合わせて、何かを同意するように頷く。
サイガは携帯を取り出し、その画面を俺の方へ向ける。
「──ほら、これだよ」
「……なっ!!?」
携帯の画面に写るそれを見て、落雷に打たれた衝撃を受けた。
そこに写っていたのは、小さな白髪の少女に抱きつく男の写真だった。
俺はこの写真を見たことがある。しかもつい最近だ。
い、いや、落ち着け俺。何か見間違いがあるかもしれない。
ここは冷静になって質問していこう。そうしよう……。
俺は一息入れて、画面を指さして質問を開始する。
「これは誰だ?」
「あんただろ?」
「いつ送られてきたんだ?」
「今日の朝だ」
「これサイガにだけ送られてきたのか?」
「いいや、ここにいる3人にだよ……」
俺の質問に冷静に答えてくれる3人。
そうかそうか、やはり俺の見間違いとかそんなことは無かったんだな。
うんうんと自分で理解した上で、大きく息を吸い。
「トォォォレェェェェェス‼‼‼」
腹の底から上げる叫びが試着室に響き渡ると同時に、恨み手帳にトーレスの名前が刻まれた──。
当然である。
※
俺の怒りが絶頂に向かっている間に、カルナは着々と着替えの準備を始めていた。
試着室に服の山を放り込み、その山にカルミアを放り込む。
準備を終えたカルナは、俺達を睨みつけ指を指し一言。
「お前ら、覗くんじゃないよ!」
まぁ当然なセリフだよな。
といっても、覗く奴なんてサイガしかいないけど……。
「大丈夫ですよ隊長。相馬の奴が覗かないよう、俺達がしっかり監視しておくんで」
「おい、ロバーツ。なんで俺が覗くことが前提なんだよ! 指摘する奴なら隣にいるだろ!」
俺はロバーツの隣のサイガを指さす。
それに対し、サイガはため息をつく。
「姉さんが着替えてないのに、覗くわけないだろ……。
ここで覗いて得するのは、ロリコンなお前だけだ」
「俺はロリコンじゃないって何度も言ってるだろうが!」
「じゃあロバーツにサイガ。見張りは任せたよ……!」
「「へ~い」」
話の内容に飽きたと言った感じに、カルナは試着室へと消えていく。
いや、俺にとっては重大な事なんだけどね……。
※
その後、カルミアが色々と試着する中、サイガから事の次第を聞き出した。
どうやら突然届いたあの写真を見て、サイガ達は俺を迎えに来たらしい。
しかも、何やら賭け事をしていたらしいのだが……。何を賭けていたのか、内容は教えてくれなかった。
取り敢えず、仕掛人はトーレスであるのは間違いなさそうだし。
あの野郎、撮った後にサイガ達に送ってやがったのか。
今度会ったらただでは済まさない……!
胸の中で熱い殺意を燃やしながら、プラカードを握りしめていると。
試着室のカーテンが開き、次の服に着替えたカルミアが姿を表した。
長い髪は後ろで団子にされ、着ているのは日本伝統衣装、浴衣だ。赤い生地に咲く白い花がカルミアによくにあう。
「今度のは、なかなか似合うと思うんだがね……」
着替えを手伝っていたカルナが試着室内でボソッと呟く。
確かに、似合ってるけど……。カルミアの服装をまじまじと見つめているとカルミアと目が合った。
じ~っとこちらを凝視するカルミアに「楽しいか?」と視線で合図を送ると、カルミアは首を横に振る。
「ですよね~」と苦笑する俺。
人形のように着せ替え続けてもう既に3時間が経過してるのだから無理もない。
それに、さっきからチョイスされる服が、普段着じゃないんだよな……。
そんなことを思っていると、カルナは天上に人差し指を向け大声を上げる。
「さぁ、点数はどうだい!?」
カジノの競り市場の司会者みたいな勢いのカルナ。
それに、答えるようにサイガにロバーツ。そして俺は、持たされていた10点までの数が書かれた10枚のプラカードを挙げる。
サイガ、8点
ロバーツ、4点
相馬、10点
「ロバーツ、あんた採点が厳しいんじゃないかい?」
「普通ですよ。普通……」
カルナへの返事が雑になっていくロバーツに、サイガが立ち上がる。
「いや~。結構似合ってると思うんだけどな。
少し低目に締めた厚板帯の帯上げの結び目から咽喉まで大輪の花の莟のような張ってはいるが無垢で。
それ故に寂しい胸が日本の下町風に伊達だてな襟の合せ方がなんとも……姉さんなら絶対似合いますぜ!」
「誰が、私が着たときの感想を言えと言った……!」
まったく。と言った感じにカルナは半ば呆れながら。次の試着の為に、カルナは再びカーテンの向こうへと消える。
それを、見届けた俺はボソッと呟く。
「何で俺達こんなことをしているんだ?」
凄く今更な質問だと思った。でも、気になったのだ! 仕方ない!
そんな俺の発言に、未だに立ったままのサイガは答えてくれた。
「何でって……。
姉さんが選んだ服が多かったから、点数が高かった服を買うって決めたんだろ」
サイガはそう言うと、再びソファーに腰かけて、ダルそうに天上を見上げ一言。
「誰だよ、こんなこと決めたの……」
「「お前だよサイガ」」
俺とロバーツのツッコミに「ああ、オレか……」等と自虐するサイガ。
服装に点を付けて大きい点数の服を買おう! 発案したサイガのせいで俺達は今、後悔している。
正直面倒なのだ。もういっそのこと、カルミアに似合う服を全て買えばそれで良いのでは? と思ってしまう。
時間はすで1時半を回っていた。
皆の空腹が顔に出てき始める中、サイガが口を開き一言。
「これ、何着目だっけ?」
サイガの質問に、ロバーツは手で顎を擦りながら数秒考える。
「確か……29着目だったかな?」
「あと何着あるんだ?」
「サイガと相馬が持ってきたのを合わせて3着。俺が持ってきたのが1着。カルナ隊長が持ってきたのが29着だから。あと4着だな」
「あと、少しで飯にありつけるな」
ぼやくサイガにロバーツは頷く。
「そうだな。もう14時、昼飯の時間はとっくに過ぎてるが……ここで相馬の財布を空にするまで、食えないのは残念だからな」
意地悪な笑うロバーツに、俺は笑みを作り口を開く。
「どんだけ食うつもりだよ」
1つため息をついて、ふっと笑う。
「でも──付き合ってくれてありがとう」
心の底から感謝の言葉を口にする俺に対し、サイガとロバーツは顔を合わせるなり、笑って答える。
「「──どういたしまして」」
次回プロジェクト・アーミー第11話
琴「俺視点の話。読んでくれてありがとう。
次はカルミア視点の話だ。
カルミア、あとは任せたよ」
カ「はい、頑張ります。
それでは皆さん。どうぞ、楽しんでいってください」




