第10話
3階建ての巨大なショッピングセンターの中は、ここって基地だよな? と疑問を抱くほどの無駄な広さであった。
1階には、飲食店がひしめき。2階には衣服店に生活日用品雑貨店。それに、あらゆる筋トレ道具が並ぶスポーツ用品店。3階には、行ったことは無いが娯楽室が設備されているらしい。
そんな場所に、変えの服を持っていないカルミアの為に、俺達は今。彼女の服を買いに、基地内にあるショッピングセンターの中にいる。
そう俺達である。
「改めて回ると、結構種類があるもんだな……見ろよロバーツ。赤ん坊用コーナーまであるぜ」
「こっちなんて凄いぞ。ほら、ジャパニーズミコ服だ!」
「何を目指してるんだろうねぇ。この店は……」
洋服店で、色々な見慣れない商品で騒ぐ2人の男に、それを見て呆れた顔の女が1人。
そう、珍しくもないメンツである。だっていつも、訓練を手伝ってもらっているのだから……。
ここに居るのは、俺にカルミア。それにカルナ、ロバーツ、サイガである。
何故この3人がいるのか? それは、俺達が部屋を出たところまで記憶をさかのぼる必要がある──。
カルミアの手を引き、部屋を出た俺。
長い廊下を歩き始めたその時。
「よう、相馬。向かいに来てやったぞ」
後方の階段から聞こえてきた身に覚えのある声に、俺は足を止める。
お、落ち着け俺! こんな計画の初期段階で、コケる訳にはいかないんだ!
どうやら、声だけを聞く限りサイガ1人だけのようだ……。
それならまだ口止めができる! サイガは、接近戦が苦手だ。しかも今は俺の間合い。今なら……一撃でしとめられる!
カルミアと手を離した直後。くるっと、かかとを使って180度ターン。
目標を視界に捕らえた! 目標は愚かにもこちらを見ていない。
殺れる!
そう確信した俺は、軸にした左足に力を込めて……スタートダッシュ。
「なんだ。相馬の奴、やっぱり子供といたのか」
──を、盛大にミスり廊下を転げる。
こうして俺の計画は、一段階目で終了したのであった。
その後、カルナもきたので、カルミアに聴こえないよう。3人に朝からのいきさつを説明した。
タダでは許してもらえなかったけど、納得してくれた3人は、俺の話に合わせることを約束してくれた。
しかも、カルミアの服選びを手伝ってやる。と、予想外の発言があり──今に至るのである。
「さて、それじゃあ野郎共。各自散開して30分以内に、こいつに似合う服を見繕ってきな。集合場所は試着室ルーム。何か質問はあるかい?」
「「ありません!!」」
「よし、散りな!」
カルナの合図に、各自バラバラの方向へと散る。
3人のテンションに付いて行けなかった、俺とカルミアは茫然とその場に立ち尽くす。
「琴美祢様。何故あの人達は、あのように浮かれているのでしょうか?」
「そうだな。たぶん、カルミアの為だからじゃないかな?」
「私の為にですか?」
意味がわからないといった顔のカルミアに、笑顔で答える。
「そうだよ。
カルミアは可愛いからな。皆君に似合う服を見つけるのが楽しくて仕方ないんだよ」
まぁ、浮かれてる理由としては『カルミアを着せ替え人形にできるから』なんだろうけど……。
それにしても、サイガやロバーツはともかく。カルナまで乗っかって来るとは……。
以外に子供好きなんだろうか?
「あの、琴美祢様」
「ん? どうしたんだカルミア?」
「……」
「……えっと、カルミアさん?」
「……」
じっとこちらを見つめるカルミア。
無表情に光のない瞳に、睨まれる俺は、蛇に睨まれたカエルのようだ。
なんだろう。カルミアの無言の眼差しが痛い……。
「琴美祢様は今、楽しくないのですか?」
「……何でそう思うんだ?」
「先程から琴美祢様の表情は、カルナ様、ロバーツ様、サイガ様のどれとも一致しませんでした。ですから、琴美祢様は今楽しんでいないのだと判断しました」
なるほど。カルミアが黙って見ていたのは、俺の表情を読み取るためだったのか……。
それじゃあまるで、エスパーだな。
「私は、エスパーではありません」
す、凄い! 本当に分かるのか!?
「驚かれても、まだ研究段階なので少ししか分かりません」
いや、それでも凄い確率で当たってるんだけど……。
「それより、よく表情で人の心が読めるな。そんな事いつ覚えたんだ?」
「前にネットワークに共有した時に、感情は表情に出ると知りました。その時のデータを元に琴美祢様の表情で何を考えているか推測で当てはめました。どうでしょうか、当たっていたでしょうか?」
「あぁ、当たってたよ。完璧なまでに……」
むしろ俺って、そんなに表情にでやすいのか?
気を付けないといけないんだけど……。まぁカルミアの為になるならいいかな?
「さて、俺達も行こうか。カルミア」
彼女にそっと手を差しだす。
「はい。琴美祢様」
それを取ってくれるカルミア。
その手を離さないように握り、俺達は店の中を練り歩く。
普段、食事か生活必需品を買いに来ること以外、来ることのないショッピングモールだが……。
改めて違うところに来てみると、店の品揃えの凄さに驚かされるものがある。
大人用の服から赤ん坊用まで揃えられている。
流石はマーケット? なのだろうか。
そんなこんなで、衣服エリアを探索して数分。
俺とカルミアは目的地である子供服エリアにたどり着いた。
「す、凄い……」
霞むほどにのびる廊下。
そこに陳列された服の量に、漠然とした感想が口から零れる。
「確かにすごい品揃えです」
隣で待機していたカルミアも漠然とした感想。
凄い以上の感想は出ない。それ程に品数がすごかった。
棚に置かれたり、掛けて置かれている商品に目をやる。
チャイナ服に……浴衣、レースクイーン、チアリーダー、ナース、キャビンアテンダント、メイド服、レオタード、セーラー服、巫女服、テニスウェア、ノー〇ル・スーツ、忍者服、踊り子、騎士、魔女、ドレス、ピエロ、旅人、囚人服、犬、猫、ウサギ、キツネ……──
この店は、何を目指してるんだ……? カルナと同じ感想を抱きながら歩き始めようとしたとき。グイッと何かに引っかかったように後ろにつんのめる。
何事かと思えば。手を繋いでいたカルミアが、微動だにしないでじ~っと何かを凝視していた。
「どうしたんだカルミア? 何か気になるものでも見つけたか?」
「大変です琴美祢様」
カルミアの重たい声に、慌てて手を放し膝をつく。
「どうしたんだ! どこか痛むのか⁉」
手や足を見るが、どこも怪我などは見当たらない。
「痛みはありません。ただ……」
「ただ?」
「あれから目が離せないのです」
深刻な顔をしたカルミアが指を指す先。そこには、ひらひらとした白のワンピースが掛けられていた。
「……」
えっと。もう一度確認するが、カルミアが指を指しているのは上衣とスカートが一緒になった女性服。
白のワンピースだ。
「琴美祢様。私は壊れてるみたいです。あれを見てると心拍数が上がっていくのを感じます」
真剣な顔で眉をひそめるカルミアに対し、思わず笑いがこみ上げそうになり手で口を隠す。
それはつまり、自分の感情が分からないから戸惑っているってことなんだよな。
感情を覚えようとする彼女は、未だにこれがどういった感情なのか分からない。
だから、俺はそれを手助けする。
感情を覚えることが君の目的なら、その目標を示す道を指し示すのが俺の役目なのだから。
「琴美祢様。今すぐ異常がないか検査しに向かいます。明日の訓練には間に合わせますので‼」
急いで向かおうとするカルミアの両肩を持って止める。
「あぁ……うん。壊れてないから大丈夫だよ」
カルミアは頭にクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げる。
「壊れてはいないのですか?」
「いたって問題ないよ」
まったくと思いながらため息を吐いて、ワンピースを指さす。
「これは、ワンピースと言って、上衣とスカートが一緒になった女性服だよ」
「そうですか……これは、ワンピースと言うのですね」
説明を聞くなり、再びワンピースを凝視するカルミア。
その表情は相変わらず無表情だが。それを見るカルミアは、新しいおもちゃを見つけた子供のように輝いているように見えた。
いや、子供だったな……。
「これが欲しいのか?」
「いえ、そんなことは……」
否定しながらも、ワンピースを見つめ続けるカルミア。
その仕草がなんとも、かわいくて微笑ましい。
「よし、試着しに行くか。どうせ、カルナ達と試着室で集合の予定だしな」
「いえ、私は別に着てみたいなど……」
冷静に否定するカルミアだが、否定できていない。何故なら視線はワンピースをロックしたままなのだ。
よっぽど気に入ったのだろうか?
かと言って、このやりを取り続けていては、日が暮れてしまう。
どうしたものかと、眉間を指で押さえて考える。
俺の頭の中は、洗濯機よろしく思考をぐるぐると回す。そして、ある名案を吐き出した。
そうだこれなら──。
「そうか、残念だな。俺はカルミアに着て欲しかったんだけどな……」
その言葉に、反応したカルミアがこちらに振り返る。
「琴美祢様は、これを着て欲しいと思っているのですか?」
かかった!
「ああ、俺はこの服を着て欲しいと思ってる。だって絶対に似合うだろうから」
「そこまで言うのであれば、着てみます……」
「そうか。それじゃ、服をもって試着室に向かうか」
片手でカルミアの手を握る。
繋がる手の平はぷにぷにと柔らかくて……雪のように冷たい。
まだ肌寒い季節に薄着とサンダルなのだから、体が冷えるのは当然なんだけど。
不意に「寒くないのか?」と聞きそうになるが言葉を吞む。
聞かなくても彼女の感性上「問題ありません」と返されるだろうからだ。
仕方ない。少し強引だが、あれをやるか……!
俺は手を放し膝を着く。そして──
手をカルミアの背に回し抱きかかえる。
カルミアの体が思った以上に軽い。
まぁ重かったらそれはそれで、問題だけど。主に俺の腰が……。
ホッとしていると、不意に下から視線を感じ目線を下ろす。
「なにをしているのですか? 琴美祢様?」
「えっと、これはその……」
不思議そうに見つめる彼女の視線に答えを躊躇う。
どうしよう。勢いでこうなったけど……どう返事を返すべきだろうか?
ここで、カルミアの体のことを心配したからって答えたら、きっと「問題ないので、下ろしてください」と言われるだろうしな。
考えろ、考えるんだ俺!!
「特に意味がないのでしたら、下ろしてもらえないでしょうか?」
しまった。心を読まれたか!?
「ああ、いや! 意味ならあるんだ。その──腕を鍛えたくなってね!」
「鍛えたくなったのですか?」
「そ、そう。無性に腕を鍛えたくなってその──」
「私をダンベル代わりにですか?」
「え、いや、その──」
言おうとした答えを飲み込み口を瞑る。
ここで、そうだと認めてしまえば話は終わる。だけどそれは、俺が彼女に言ってきた事を否定することになる……。
どうする⁉ ここは、否定すべきなんだが。否定すれば冷たい床を歩かせることに……!
ここは彼女を道具のように扱ったとしてもしかたない──。
そう思った直後、俺は心の自分を殴った。「良い訳ないだろ!」と自分に渇を入れる。
「ごめんカルミア。さっきのは嘘なんだ……」
「嘘だったのですか?」
「あぁ、本当は君の体が冷えてるんじゃないかと心配だったからなんだ」
謝る俺に対し、カルミアは無言で俺の顔に手を伸ばし──頭を撫で始めた。
小さい手が頭を右左と優しく移動していく。
「えっと……カルミアこれは?」
「琴美祢様は前に私にこうしてくれました。
子供が良い行いをしたら、こうすると琴美祢様は言いました。琴美祢様はもう大人ですが、大人にも有効な意思疏通だと思い、行動してみました」
「俺は良い行いをしたのだろうか?」
ふと、そんな疑問が口に出る。
カルミアは、ピタリと撫でるのを止め、眼を閉じて考え始める。
数秒後、カルミアはそっと眼を開けて口を開く。
「他人への心配。それは、良い行いだと思われるのですが。違うのですか?」
「合っている……けど、俺は君に嘘をついたんだよ」
「ですがそれは、私が降ろすように指示する可能性があったからだと予想します。
ですから、それは必要な嘘であり、琴美祢様はそれを正直に話してくれました。これを良い行いだと私は判断します」
そう言ってカルミアは手を下ろし、体を預けるように力を抜いた。
俺はそれ以上何も言わず、ただ「ありがとう」とだけ口にし、小さな体をしっかりと支え、商品を持って歩き始めた。
次回、プロジェクト・アーミー第11話
琴「次回も俺が主役なんだから、次回予告とかいらないんじゃないのか?」
カ「それは大きな間違いです琴美祢様」
琴「なん、だと……!」
カ「次の主役は、わt」
カルナ「私だよ!」
サ「俺だぜ!」
ロ「何言ってんだ、俺だよ」
カ「いえ! コホン……次回は、私が主役です。
読者の皆様は、次回を楽しみにしてください」
琴「(あれ? 俺の主役補正は?)」
無いよ。




