暇な時間と彼女達の事情
「暇だ……」
さて、俺はこの村……、というか世帯数が少なすぎて、大家族に近いが、ここでお世話になることになった。
まぁとにかくすることがない。
でっぱりたちは皆自分の仕事をしているのだが、もともと必要なこと事態が多くないので、彼女達も忙しそうではない。
それもあってか、俺が何か手を出すまでもなく大体のことが終わってしまうのである。
1人でいるときも暇っちゃあ暇だったが、ある程度明日の心配をしながら生きてなければいけなかったのに、今はその心配がない。精神的にも半端ではないゆとりである。しかも誰も俺を白い目で見てくるわけでもないし、むしろちやほやされる。彼女達にとっては、がらくたさんのお母さんであるかなづちさんを助けたことは、本当に評価縛上げの出来事だったようだ。
というわけで、完全な合法ニート状態である。別にニートは違法ではないが、税金とかその辺の問題もないから、一応言ってみた。
それならせめて彼女達を誘って出かけたりもしてみたいものだが、それすらも簡単ではないという問題がある。
ちょっと前にかなずちさんと話したときに、こんなことを聞いてみたのだ。
「かなずちさんとうらないさんは時々見かけませんけど、どこに行ってるんですか?」
初めて村に来たときもそうだったが、この2人は結構この村からどちらか、あるいは両方が離れていることが多かった。
「ヒトガタの村に行ってるの。私とうらないさんが長い間姿を見せてないと、疑われちゃうから」
「疑われる?」
「ええ、ヒトとヒトガタの関係は知ってるでしょ。その間に生まれるヒトデナシがどういう扱いを受けるか分かる?」
ああ、忌み嫌われる子供か……、どちらにも属すことができないんだろうな。
「はい、どちらにも嫌われるんですよね」
「うーん、ちょっと違うかな? 間違っても無いけど」
「へ? 違うんですか?」
「不正解じゃないけど……。そうね、あの4人を見てどう思うかしら?」
「めちゃ可愛いじゃないですか?」
「うん、そうね。すごく可愛らしいの。えーとね、ヒトとヒトガタの前提なんだけど、ヒトガタはヒトよりも容姿がいいことが多いの。それがあるから、ヒトはヒトガタと恋をしてしまうこと珍しくないわ」
「それはどうしてなんですかね?」
「ヒトは容姿も相手を選ぶ要因になるけど、それ以外にも富とか知識があるともてるから、必ずしも顔がいいからパートナーを選ぶわけじゃない。でもヒトガタは違うの。ヒトガタは本能的に容姿のよさで相手を選ぶから、生き残るには容姿のよさが必要になるの」
「ああ、なんとなく分かります」
「それでもヒトは、禁忌や身分の差を越えても容姿がいいヒトガタを選ぶこともあるし、私たちも見た目だけじゃなくて、優しさをくれるヒトに惹かれることもあるの、私の旦那もうらないさんの旦那さんも素敵なヒトだったわ……。その話をしてたから、ふろちゃんもがらくたちゃんも、ヒトのことは好いてるの」
「それは分かりましたけど、それとでっぱり達のことはどう関係するんです?」
「えーとね。ヒトデナシの子はね。能力もヒトほど知識があるわけでもなくて、ヒトガタと違って、変身もできないから、戦闘もできなくて、生きていくには中途半端なの。それに、どこにいても、決して好意的に受け入れられる存在じゃない。でもね、容姿は例外なく優れているの
「…………」
そりゃ俺も惹かれたからな。理性吹っ飛ぶ5秒前であった。
「それもあって、ヒトデナシを欲しがるヒトやヒトガタもけっこういるの。元々禁忌の存在だから、表立っては言われてないけど、ヒトとヒトガタの上流階級の中には、ヒトデナシの子がいることが多いの。もちろん外には出せないから、ずっと家に閉じ込めたままで、誰とも会わせないけどね。アクセサリーや奴隷当然よ」
「そんな……」
見た目が麗しいからこそ、狙われてしまう。なんという皮肉か。
「ヒトガタに見初められれば、一応普通の生活はできるけど、ヒトガタの上流階級は、禁忌にうるさいから、ばれれば追放されて結局はヒトの手に落ちることになるの。ヒトデナシは忌み嫌われるか、奴隷にされるか。今はこの2つしかないわ」
「じゃあ今でっぱり達は……」
「ロロロレのこの場所だけは、ヒトもヒトガタもほとんど来ないから、あの村にいることは、ヒトもヒトガタもほとんど知らないわ。私とうらないちゃんの旦那さんは、関係が見つかる前にうまく逃げてるから、今でも本当にまれだけど、この村に来てくれるわ」
「そうですか……、幸運でしたね」
禁忌の関係を持ちながら、両親が共に健在でいられるとは、とても優しい世界だな。ふろとがらくたさんは苦労はしてるだろうが、不幸せではないだろう。
「でっぱりとわるものさんは家族はどうなってるんです?」
聞きづらいことだったが、どうしても気になっていた。
「……、でっぱりちゃんのお母さんは、でっぱりちゃんを生んだときに亡くなってるわ……」
「本当ですか……」
「ええ、でっぱりちゃんのお母さんのおひやさんとは、私も顔見知りだったけど、あまりからだが強くなくて……」
シリアスな話をしてるんだ。名前についてはスルースルー。
「おひやさんはほとんど家の中で過ごしてて、それでほんの少し外に出たときに出会った、ヒトに恋をしたの。ドラマチックな恋だったわ……」
「お父さんのほうは?」
「……見つかって追放されたと聞いてるわ……。おひやさんの旦那さんは、ヒトガタを嫌う国の出身だったの……」
「……、すいません」
「ううん。このことはでっぱりちゃんには内緒ね。でっぱりちゃんには、お父さんはお母さんより先に病気で亡くなったということにしてあるの」
「もちろんです」
「わるものちゃんのことも聞きたい? わるものちゃんの話はヘビーよ」
「あらかじめ言うということは本当にそうなんですね。でも知っておきたいので聞きます」
「そうね……。あなたには知っててもらってもいいかもね。わるものちゃんは、でっぱりちゃんと違って、お母さんは私達の知り合いというわけじゃないわ。本当に偶然の出来事よ。この話だけはちゃんとしておきたいからしっかり話すわね」
顔がより深刻そうになったので、俺も気合をいれる。
「わるものちゃんのお母さんは、お父さんに殺されてるの。お父さんが保身に走るために、お母さんとわるものちゃんを殺そうとしたの。わるものちゃんのお母さんは必死に彼女を守って、私にわるものちゃんを預けてきたの。私とうらないさんが、偶然この現場に通りかかって、わるものちゃんのお父さんが私達を見て逃げたんだけど、もうお母さんは瀕死だった……。わるものちゃんは多分そのことを覚えてるの。だから、心に傷を負って、私達のことも最初は信じてくれなかったわ。でっぱりちゃん達が必死に頑張ってくれて、やっと今みたいに仲良くはなれたけど……、ヒト嫌いは変わらないわ」
なるほど、妙にわるものさんだけ空気感が違うと思ったが、なるほどという感じである。
「あの子達にもヒトともっと接して欲しいとは思うけど、外に出させるのはやっぱり怖いから……、あなたが来てくれたことはあの子達にもとてもいいきっかけになると思うわ」
「まぁ俺にできることでしたら、何でもしますけど。お世話になってる身ですし」
と、いうわけである。思いのほかヘビーな話もあったが、要するにでっぱり達はヒトに見つかるとまずい存在というわけなのだ。
でっぱりはヒトが好きなようで、俺とあった日みたいにいろいろ出回ってしまうという問題があるそうだ。
だから、俺が来てからそれが減ったことは、親2人にとっては安心できることのようである。
まぁぶっちゃけ、いるだけでいい存在になってしまっているので、今に至るのだ。
「でも暇すぎる……。何か手伝えないかな」
家事がしたいわけではないが、何にもしてないとどうも落ち着かない。ゲームとか漫画でもあれば、時間が進むからいいが、そういうものがない。要は手伝いたいというよりは、暇つぶしの何かが欲しいというわけだ。
「にゃ? ゆっくりしてていいのににゃ。やっぱり変わってるにゃ」
俺がでっぱりに提案すると、ちょっとはにかんだ困り顔をされる。ついでに尻尾がフリフリされて、耳がピコピコ動く。顔だけでも可愛いのにそれは反則だろう。
「そもそも4人とも何をしてるんだ?」
「えーとにゃ。がらくたちゃんは、畑仕事や牧場のお世話で、わるものちゃんは、狩りと週に2回氷を確保しにいくにゃ。でっぱりとふろちゃんは、交互でおさかにゃや木の実を取りに行くのと、お掃除や家事を担当してるにゃ。がらくたちゃんとわるものちゃんも、自分のお仕事がすくにゃいときは、家事を手伝ってくれるにゃ」
どれも俺にできそうもないな。大体必要な数が多くないのだから、俺が手を出して手伝っても助けになるまい。
「本当に大丈夫だにゃ。ヒトと接していられるだけで、でっぱりたちは満足にゃ」
「そうは言われてもな……」
「また村が危険ににゃったときに、活躍してくれればいいにゃ。傭兵みたいにゃものでいいにゃ」
「そんなにこの村に危険は来ないだろ」
「でも召喚の儀式があったということは、おそらく魔物が多くにゃったということにゃ。でっぱりもいつもの道で魔物に追われたし、ドラゴンも来てるにゃ。いつ危険があってもおかしくにゃいにゃ」
「そんなもんかね」
「そんにゃもんにゃ」




