この世界での立ち位置を得る
「はぁはぁ……、死ぬ……」
村に戻り、でっぱりたちの家に入って、がらくたさんのお母さんを降ろす。
見た感じ出血もないようだし、叩きつけられて気絶しているだけだと信じたい。頭を打ってなきゃいいんだが。
とりあえず寝かせとけばいいか。まじ疲れた……。
ちなみに、がらくたさんのお母さんを背負う前に、能力はランク2にしている。
これだけで、ほとんどの敵はよってこないし、この人は気絶してるから、問題はない。
到着してからは、フレグランスにする。
ここに来るまでは、危険がいつ来るかわからなかったので、使うのは初めてだが、一応無臭になるらしい。
何度もいうが自分の匂いというのはわからん。無臭とか俺はタンスか。
「タオルあるな。勝手に使わせてもらおう」
タオルらしきものがあったので顔を思い切りふいた。気持ちいい。
「? にゃん? シュウジ……にゃん?」
俺が座って休んでいると、ひょこんと猫耳少女が顔を出し、声をかけてくる。
「ああ、でっぱり。悪いな、ちょっと休みたかったから、家に勝手に入っちゃったが」
「そ、それはいいんにゃけどにゃん。何でシュウジがここにいるにゃん?」
「別にいいだろ、それを言うなら何ででっぱりもいるんだ?」
「ドラゴンの叫び声が聞こえにゃくにゃったから、様子を見に戻ってきたんだにゃん。他の皆もいるにゃん」
「シュウジくん? ドラゴンの気配がなくなったんだわん」
「…………。しかも逃げた感じじゃないぴょん。明らかに気配が消えてるから、倒された感じだぴょん」
でっぱりの後ろから、ふろ、わるものも顔を出す。
「か、母さん? 母さん! もー」
そして最後に顔を出したがらくたさんが、俺の後ろで横になっているがらくたのお母さんに気づき、走ってくる。
「え! かなずちさんだにゃん?」
「ど、どうしてだわん? 生きてるんだわん?」
「……、間違いなく生きてるぴょん。寝息も聞こえるし、意識がないだけだぴょん」
ほかの3人も驚いて走ってきた。
「ん、んぅ……、あれここは……家?」
「母さん、母さん! もー」
「え! がらくた? どうしてここに? 逃げなくちゃ! だってドラゴンが」
「かなずちさん! ドラゴンはなぜか気配がなくなってるにゃ。もう大丈夫だにゃ」
「本当にかなずちさんが無事でよかったわん。うう……」
「でっぱり、ふろ。泣かないぴょん」
「そういうわるものちゃんも涙目よ。ごめんなさいかなずちさん。あなたに任せて逃げてしまって」
「う、うらないちゃん。頭を上げて。私があなたに辛い役を頼んでしまったのだから、私が謝るくらいよ。皆もごめんね、心配かけたわ」
「か、母さん、本当によかった。もー」
がらくたさんのお母さんはかなずちさんというのか。名前の癖がすごいな。
かなずちさんの胸にがらくたさんが飛び込んで泣き、でっぱりとふろはかなづちさんの左右の両手を抱きしめ、その光景をわるものの頭を撫でながらうらないさんが見ている。
いいシーンだな。俺が命を一応かけたかいはある。この光景だけで本当に十分だ。
しかし、他力本願に生きてきたから、気づかなかったが、何かを成すというのは嬉しいもんだな。
それでも当分はやりたくないが。
「でも、何でドラゴンは急にいなくなったんだにゃん?」
「かなずちさんもしかしてドラゴン倒したんですかわん?」
「いいえ、全く歯が立たなくて、叩きつけられて気絶したはずなんだけど……」
「ここにはどうやって戻ってきたの? もー?」
「えーと、覚えてないわ。気がついたらあなた達がいたから……」
「シュウジ、何か知らないかにゃん?」
「さぁ? 俺も戻ってきたら「……シュウジがドラゴンを撃退して、かなずちさんをここまではこんできたぴょん。私見てたぴょん」
俺はごまかそうと思った。なぜならドラゴンを倒せるほどの実力がばれると、今後何かあったときに頼られかねないからだ。それに、俺の異臭の能力がばれるのもあまり好ましくない。
だが、まさかのわるものからの強烈なフォロー。
「近くにいたのか……」
「かなずちさんは私にとって大事なヒトガタぴょん。あきらめて逃げるなんて嫌だったぴょん。そうしたら、どうやったか分からないけど、シュウジがドラゴンを倒してたんだぴょん」
「じゃ、じゃあ、母さんを助けてここまで連れて来てくれたのも……、もー?」
はぁ、ここまで来たらごまかしても無駄か。わるものは名前どおりかよ。
「ああ、俺がここまでかなづちさんを連れて来た。俺はヒトに見捨てられたヒトだからな。でっぱりさんたちの優しさに触れて、つい似合わないことをしちまった。だから、気にしなくてもご?」
俺が全てを発する前に、俺の視界は奪われた。息苦しいのだが、とてつもなく柔らかい天国のような感触と共に。
「ありがとう、ありがとうシュウジさん、本当にありがとう、もー」
俺の頭の上からがらくたさんの声が聞こえる。つまりこれは……ああ、がらくたさんの母性の固まりか。
ああ、本当に心地いい。何か意識が遠くなっていくよう……だ。
って窒息する! ギブギブ!
俺はがらくたさんの腕を叩いてタップする。
「が、がらくたちゃん! シュウジが窒息してしまうにゃ! 離すにゃ!」
「あ、ごめんなさい、ついうれしくて。もー」
異世界で死ぬことになるとしてもこの死にかたは嫌だ。食あたり以下だ。なんかあまり悲しがられない気がする。
とりあえず、6人全員に感謝され、村にしばらくお世話になることができるようになった。
もう戦いはこりごりだ、早く魔王を倒してくれ、勇者達。
「へー、じゃあやっぱりシュウジは召還されてきたんだにゃ」
「だからヒトなのに、あまりヒトっぽくないんだわん」
俺はその日の夜に、食事を頂きながら俺の話をした。
別に隠す意味もないと思ったし、普通に言おうと思ってたし。
「じゃあシュウジさんは勇者さんなんですか、もー?」
「いやいや、俺の能力は本当にたいしたことが無くて、それで召還早々追い出されてしまったんですよ」
「……やっぱりヒトはひどいぴょん。勝手に呼んでおいて見捨てるなんてぴょん」
「まぁそれについてはどうにも言えんな。正直生き残れる気はしてたけど、しんどいっちゃしんどかった。やっぱ1人でいるのは寂しいからな」
これは本音だ。俺は友人がめちゃくちゃ多いとは言えないが、1人でいることはほとんど無かったと思う。
人間1人でも生きていけるが、1人だとつまらん。そういえば……。
「? どうしたにゃ?」
俺が急に黙ったから心配されてしまった。確かに一瞬上の空になってしまった。
「ああ、大丈夫だ。知ってると思うが、俺以外にも何人か召還されてんだけど、皆一応知らない仲じゃないんだ」
「友達だわん?」
「顔と名前を知ってるって程度なやつが多いけど、1人だけいるんだ。仲のいいやつが。多分そいつが魔王を倒してくれる」
「親友ですか、もー?」
「幼馴染の男友達です。俺が唯一親友って思ってる相手で、俺が捨てられるときも1人だけ抵抗してくれた本当にいいやつです」
「…………、友情だぴょん。それはヒトでもヒトガタでも変わらないぴょん」
「そうだな。あいつはきっと俺を心配してくれてる。だから、あいつが魔王を倒すまで、俺も頑張って生き延びようと思った。まぁ他力本願で情けないけどな」
「ねぇ、気になることがあるから聞いてもいいにゃ?」
俺がずっとしゃべっていると、でっぱりから聞かれる。
「ん? 急になんだ?」
「シュウジの能力ってにゃんにゃにょにゃ?」
「え?」
「シュウジの能力って、にゃんにゃにょにゃ?」
「悪いふろ、俺にはでっぱりが何言ってるか分からないんだが」
「シュウジくんの能力が何なのか? って聞いてるわん。でっぱりちゃんはな行が苦手なんだわん」
「いじめにゃいで欲しいにゃ!」
涙目である。めちゃ可愛い。
「悪い悪い。えーと、俺の能力は……」
さて、勢いで話してしまいそうになったが、果たして話していいものか。あまりかっこいい能力ではないし、リアルに嫌われそうではある。
「にゃ?」
でっぱりが首をかしげて甘い声を出しながら俺を見つめてくる。
やばい、それは反則である。
「なんか手を血でぬらして、それを指ではじいて攻撃してたぴょん。何か手から出せるんじゃないかぴょん?」
またわるものから援護射撃。この場合は後ろから狙撃されたというべきか。
「へー、何かかっこよさそうですね、もー」
「指をパッチンて鳴らすと、ドラゴンも逃げ出すなんて、何が出てるんだわん?」
出てるのは嫌なにおいです。
「えーと、俺が指を血とかでぬらして鳴らすと、すごく、相手が苦しんで、最終的には倒せる能力というやつかな?」
嘘は言ってない嘘は。
「かっこいいにゃん! 指を鳴らすだけで、あの最強のドラゴンを追い払ったのにゃん!?」
「シュウジくんがここに来てくれて良かったわん! ドラゴンを倒せるなら大抵の相手は大丈夫だわん」
「おかげでお母さんも助かりましたし、私たちにとっては勇者みたいなものです。もー」
「ヒトはやっぱり見る目がないぴょん。ヒトがヒトも見れないんなら終わりだぴょん」
やばい、明らかに評価が上がった。
「まぁこっちはいいにゃん。それよりも1個だけ気になってることがあるにゃん」
「何だ?」
このこと以上に気になることってなんだろう? 俺の世界の話とかかな?
「なんでがらくたちゃんだけ、敬語で話してるにゃん? 何か理由があるのかにゃん?」
「え? だって年上には敬語で話すもんじゃないのか?」
ヒトガタの世界では、そういうしきたりはないのか? 距離を置いたみたいに見られたかな?」
「それなら、わるものちゃんにも敬語を使わなくちゃおかしいにゃん」
「え……、ちなみに聞くが、でっぱりたちの年齢っていくつなんだ?」
「でっぱりは15歳だにゃん」
「私は14歳だわん」
「私は17歳ですよ、もー」
まじか。というか1歳しか変わらないじゃん。その見た目で17歳とか犯罪だろ。
「え、まさか、わるものって……」
「私は18歳だぴょん……。小さくて悪かったですねぴょん……」
年上! しかも2歳も年上! 俺の世界でいうと高校3年生! ぶっちゃけ見た目小学1年生レベルだぞ。
「どれだけ驚いているんだぴょん……。やっぱりヒトは最低だぴょん。見た目で判断するなんて最低だぴょん」
「あ、わる、すいません。わるものさん。失礼なことをしてしまって。俺はまだ16歳ですから、先輩として尊敬させていただきます」
「そんなに私に好かれたいのかぴょん?」
「はい、仲良くできたらいいじゃないですか」
「ロリペド野郎だぴょん!」
「え?」
聞き違いか? わるものさんから偉いこといわれた気がしたが。
「周りにこれだけ女の子がいるのに、私に1番言い寄ってくるということはそうだぴょん! 邪悪で邪な目線を向けるなぴょん」
聞き違いじゃなかった。なんか当たり強いとは思ってたけど、毒もあんのか。
「いえいえ、違いますって、わるものさんも、他の3人と同じくらい可愛くて魅力的ですって」
「……ロリペド野郎から、ロリ野郎にしてやるぴょん」
「ありがとうございま……、それは格上げなのか?」
そう言って俺から離れて1人外に出てしまった。
「悪いな。俺の不用意な発言で、わるものさんの機嫌を損ねてしまった」
「ううん、あんなに生き生きとしゃべるわるものちゃんは、見たことがないにゃ」
「え? あれ生き生きしてんの?」
「わん! すごく楽しそうだったわん」
「俺が一方的に言われまくっただけな気がするんだけど」
「わるものちゃんは甘えるのが下手ですから。1番年上だから、しっかりしようとしてることが多いんです、もー」
「そんなもんですか」
その後も戻ってきたわるものさんに、俺はいろいろ言われまくった。あのロリ体型と可愛らしい兎から、半端ではない毒舌だった。




