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臭い能力VSドラゴン

「お、お母さん? どうしたんだわん?」


その声にまっさきに反応したのはふろである。


外に出て見ると、ふろを大人っぽくした女性が息を切らせて、汗をかいていた。


「はぁ……、大型の魔物が出てきたの……、この村も持たないわ。すぐに逃げましょう」


どうでもいいが、ふろのお母さんは語尾にわんがつかないんだな。どういう特徴があるんだろう? 今はそれどころじゃないが、後々聞いてみるか。一緒に逃げさせてもらえたらだけど。


「か、母さんはどうしたのかな? もー」


だが、逃げる前に、がらくたさんが声をかけた。がらくたさんのお母さんもここに住んでるのか。となると、後2人のお母さんもいるのかな?


「……、私に伝言役を任せて、1人で魔物を抑えてる……」


「か、母さんが! た、助けにいかないと、もー」


突進して村からがらくたさんが出ようとする。


「だめにゃ! 私達は戦えないのにゃ!」


「行ったら駄目だわん!」


「…………」


がらくたさんが村から出ようとするのを、でっぱり、ふろ、そしてわるものが3人がかりでなんとか止める。3人でもなんとかとどめるのが必死とは、牛なだけあってパワフルだな。


だが、がらくたさんの表情は必死だ。4人の中では1番おっとりしていて、大人っぽい落ち着きのあったがらくたさんがこれだけ取り乱す姿には、悲痛さすら感じる。母親の死が関係しているのなら当然か。


「ごめんね! がらくたちゃん!」


「うっ……」


3人で止められているところを、ふろのお母さん? が叩いて気絶させる。


「本当にごめんね……、私は戦闘向きじゃないから……。あなたたちを助けるために……、見捨ててきてしまって……。でも、ここであなたを行かせたら……、それこそ怒られちゃうから……」


涙をながして、がらくたさんに頭を下げ続けるふろのお母さん。他の3人の表情も晴れない。この4人が仲良く過ごしているということは、きっとがらくたさんのお母さんとも面識があるのだろう。


「あら、あなたは……、『ヒト?』」


「うらないさん。そのヒトは私が襲われているところを助けてくれた『ヒト』だにゃ。そのお礼をしてたところにゃんだけどにゃ」


「そうでしたか。お世話になりました、ありがとう。でも、あなたも逃げてください。あの魔物は、『ヒト』の作った道具や魔法でも倒せませんし、『ヒトガタ』でも王族クラスが出てきてやっと倒せる敵です」


「そんなやばいんですか」


「はい。通称動く要塞とも言われるドラゴンです。魔王の作り出した魔物の中でもかなりの傑作です。ロロロレの北部に出ることはないのに……」


名前からしてやばそう。


「さぁ、あなたも逃げましょう! ヒトがヒトガタの動きについてくるのは大変でしょうが……」


「い、いえ俺は別方向に逃げますよ。俺はヒトのいるところに逃げたほうが安全ですから」


「!? そ、そうかにゃ……。じゃあこれでお別れにゃんだにゃ」


「悪いな。いろいろ話を聞いて、食べ物もお世話になっちまって」


俺は牛乳はもちろん、豆や米のようなものも頂いていた。


「お礼ならがらくたに言うんだわん。皆料理はできるけど、がらくたが1番上手で、シュウジくんに振舞ったのもがらくただわん」


「そっか。目が覚めたらよろしく言っといてくれ」


「わかったんだわん。それじゃあ無事でいてだわん」


「…………」


そう言って、でっぱりたちは村から離れていき、さきほどまでかしましかった村には静寂が広がった。


「はぁ……。俺すげぇバカなこと考えてる。でも、しゃあないよな」


俺ははじめは逃げようと思っていた。だが、がらくたさんの悲痛な顔が見ていられなかった。


がらくたさんだけではない。でっぱりもふろも分かりづらかったがわるものも、皆明らかに表情をゆがめていた。


本当に短い時間とはいえ、この異世界で俺を受け入れてくれた優しさ。それは何者にも変えがたかった。


「人任せが俺の信条だったのに……、でも可能性があるならやらなくちゃな」


そして俺は音のするほうに走っていった。




「まじか」


俺がすぐに分かったのは、激しい音と、その辺りだけ木がなぎ倒されて丸裸になっていたからだ。


後、目標のドラゴンが半端内ほど大きかった。かなり大きい蛇のような見た目で、10メートルは余裕である。



ドカッ! 


「うっ!」


ちょうどそのタイミングで、ドラゴンの攻撃を受けて、牛? のような生物が岩に叩きつけれられた。


「あ、あれは」


その生物はは突如ヒト? に変化し、その見た目はがらくたさんに似ていた。


遠めでも分かる。あれががらくたさんのお母さんだ。がらくたさんを更に上回るいろいろ……。この話は今する場合じゃない。


しかし、大丈夫か……。いや、このまま何もしなかったら、がらくたさんのお母さんは助からない。


なら助かる可能性にかけてみよう。


今にもドラゴンは止めをさそうとしている。


「これは血がいるな。ちょっと枝でこすってと、いてぇ」


右の手のひらを枝に引っ掛けて出血させ、それを両手に塗る。


「このでかぶつが! これでも食らってみろ!」


俺は両手を同時に指パッチンした。


「グガァァァッァ!?」


よし、一応聞いているようだ。とどめをさそうという動きが止まった。


これで逃げてくれりゃあ万時解決……。


「グルルァ!」


あ、完全に目が合った。やべ。足が震える。


「グルァァァァァッァ!」


俺に向かってドラゴンが突進してくる。当然避ける術はない。


だが動きは単調! 俺は指パッチンを鳴らす。


「グギャァ!」


そしてドラゴンの動きはまた止まる。どれだけ臭いんだ。俺の攻撃は。


「さて、これをためさせてもらうぜ。切り替え! インフェクトラ1」


俺はセパレートランク2をインフェクトラ1に入れ替える。


「さて、最初は嫌がらせに使おうかと思ってたが、説明書と実験で面白いことが分かったからな。これでもくらえ!」


俺は血液を飛ばす。それがドラゴンの体に当たる。


もちろん、この血に殺傷力は無い。だが、インフェクトラ1の性能はここからだ。


「グル? グガルワァァッァァl!?」


「この能力がここまで使えるとは思わなかった。本来の目的と違うんだがな」


俺はインフェクトラという能力は、俺がずっと匂いを発している状態だったときと、同じ状態に相手をする能力だと思っていた。


だが、それは違った。いや、正確には違わない。だが、その匂いは内側から相手を侵食する。


普通生き物は自ら発される匂いは大丈夫なもの。しかし、この能力で匂いを同じにすると、確かに自分からの匂いだが、もとは俺の匂い。


実は俺の能力というのは、、元は俺の分泌物が常時匂っているのが原因なのであり、それを使う能力次第でコントロールできるのである。


それが移ったので、ドラゴンは血、汗、唾液、涙全てが異臭になる。内側からも侵食する気絶しかねない異臭は、たとえ大型のドラゴンでも苦しみもだえるに違いない。


一応、小さい生物で試してはいたが、これだけ大きな生物に聞くかは不安があった。


だが、大きいからこそ、より威力があった。


体が大きければ、流れる血液も多くなり、匂いはより強くなる。


ドラゴンは森の上空に飛んでいって、もだえ苦しみ、なんと最終的には自らの長い下半身を型結びにして、そのまま遠くに落下してしまった。


「えー、ドラゴン倒せるの……、これ……」


正直俺がドン引きである。


小さい生物に試したときにも、完全に混乱と錯乱をして正常な判断が取れずに、自爆していったが、あれだけの大きなドラゴンはせいぜい追い払うので限界だと思っていた。


「倒せちゃってんだよな~。だって俺の頭にレベル上がりましたコールあるもん。また10レベル上がってるし……」


俺はレベル70になった!


「俺ほぼ無傷だぜ……。正直瞬殺されてもおかしくないと思ったし、暴れ狂ったドラゴンに巻き込まれるかとも思ったんだが……、できすぎだな。さてと」


俺は気絶しているがらくたのお母さん(多分)をおぶって、村に戻ることにした。


ドラゴンの暴れる様子が無くなれば、多分でっぱりたちが村に戻ってくると思ったからだ。


「うは……、重たい……後やわらか……」


ナイスボディの女性を背負うのは半端無く重たい。だが、仕方ない。


「もうこれっきりにさせてもらおう。絶対こんなん運良かっただけだし」


加えて、手と足の震えが止まらなかったので、余計に重く感じた。


俺は武器も魔法も何も持っていない。それで、ドラゴンに対峙しようなど、冷静になって考えて見ると、いまさらながら恐怖が戻ってきた。


手と足がおぼつかない中、なんとか村に戻ることに成功した。

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