更なる出会いと世界観
「いらっしゃいにゃ。ここがでっぱりたちの住んでいる村にゃ」
でっぱりについていくことわずか10分ほど。俺にとっては2回目の住宅がある場所といえる場所に到着した。
最初の町と比べると、さすがに劣るのは仕方が無い、劣るというか、人間の住む場所とはやや違う感じがする。しかもかなり小さく、家らしきものがほとんど見当たらない。
だが、廃れている感じはそこまでない。生活観はある。
「すげぇな。こんな山奥にしっかりとした生活空間があるなんて」
「山奥でちゃんと住めるのは、このロロロレの北部くらいにゃ。ヒトもヒトガタもいにゃい場所にゃ」」
「そういえば、さっきから言ってるヒトとか、ヒトガタって何だ?」
「それも知らないのかにゃ? うちに来てくれれば説明するにゃ」
でっぱりに連れて行かれると、いくらかある家の中で最も大きい家に案内される。
「でっぱりはお金もちなのか?」
「違うにゃ。ここはでっぱり以外にも住んでいる住人が共同で使う場所にゃ。」
なるほど。公民館とか老人ホームみたいなものか。いいたとえが出ない。
「ただいまにゃ~」
「お帰りだわん!」
「もー、どこに行ってたの、もー」
「またヒトのところに行ってたぴょん?」
でっぱりが家に入ると、3方向から声が聞こえてきた。
「ヒトだわん?」
「ヒトを連れてきっちゃったの? もー」
「危険だぴょん! 追い返すぴょん!」
どうやら歓迎はされていないようだ。しかし、3人ともまぁ見た目と語尾のくせがでっぱり並だな。
「違うのにゃ! でっぱりが襲われてたのを助けてもらったのにゃ! それで、この辺りのヒトじゃないみたいで、御礼をと説明のために連れて来たのにゃ!」
「そ、それは失礼したわん」
「それならそう言ってくださいよ、もー」
「……、でもヒトは信用できないぴょん」
でっぱりの説明で、一応はたちいることを許された。最後の子だけは、不服そうだったが。
「でっぱりを助けてありがとう。私の名前はふろです」
「ほんとにありがと、私はがらくたって言います。もー」
「わるもの……だぴょん」
でっぱり以外の3人の名前はそれぞれ、ふろ、がらくた、わるものと言うらしい。またえらい名前だな。
なんとなく語尾でわかるだろうが、他の3人も見た目人間で、耳がついている。
ふろという子は犬耳がついている。耳だけだとあまりでっぱりとの違いが分かりにくいが、語尾でそう判断した。でっぱりと比べると少しスレンダー体型。貧相ではない。小さめのシャツに短パン、肌はこんがり小麦色、活発な元気っ子という感じだ。
がらくたという子は小さな牛の耳と細い尻尾があり、角も生えている。ただそれ以上に175ある俺と遜色ない高い身長と、さすがに牛っぽいというだけあって、半端ではないほど大きい胸が目立つ。ストライプのシャツとジャンパースカートの上のほうが盛り上がって余計大きさが際立っている。
わるものという子は、ウサ耳とウサ尻尾だから分かりやすい。兎だろう。ただ、めちゃくちゃ小さい。130センチくらいしかないだろう。完全に子供みたいだな。だから、聞き分けがあまりないのかな。服装はいわゆる巫女服というか和風の服装で他の3人に比べて全く露出が無い。
ちなみにでっぱりは、肩の出るトップスにミニスカートである。
統一性ないし、世界観もめちゃくちゃな気がする。ちなみにあくまでも、俺の知識の服装であり、この世界において、そういう名前の服かどうかは知らない。それっぽいというだけである。
「ああ、俺は田島修二。よろしく」
「タジマシュウジ? 長い名前だわん」
「ヒトには苗字があるんだにゃん。だからシュウジのことはシュウジって呼ぶのがいいにゃん」
「なるほど、シュウジくん、よろしくだわん」
「シュウジさんよろしくです。苗字とかめんどうですね。もー」
「私には関係が無いぴょん。一応タジマくんと呼ぶぴょん」
「それで、でっぱり。俺にいろいろ説明してくれるんだよな」
「ああ、そうだったにゃん。皆もお話に協力してくれるかにゃん?」
「もちろんだわん。でっぱりちゃんのことを助けてくれたヒトならヒトでも協力するわん」
「私ももちろんいいですよ、そんな遠慮しないでくださいよ、もー」
「……勝手にすればいいぴょん」
「ありがとにゃ。じゃあシュウジ。何か聞きたいかにゃ?」
「そうだな。とりあえず、ヒトとかヒトガタについて教えてくれるかな?」
「もちろんにゃ。ええと……」
そこから俺はこの辺りの話を説明してもらった。
この大陸では、種族は主に、『ヒト』と『ヒトガタ』と『動物』と『魔物』に分かれる。
『ヒト』は俺の知っているいわゆる人間のことである。
知識が高く、生きるためにあらゆるその知識を生かして便利な道具を作り上げて発展してきた。
そして、『ヒトガタ』とは、見た目はほとんど『ヒト』と変わらないのだが、特定の動物の能力を持っている種族のことである。
その能力はそのままでも生かされるのだが、その動物に変身をすることにより最大限の能力を生かすことができる。
知力では大きく『ヒト』に劣るが、寿命、種族数、純粋な身体能力では大幅に『ヒト』を上回る。
この2種族に加えて、どちらにも属さない自然の動物と、魔物がこの国家の生き物である。
動物は特に害はない。3種族いずれとも敵対はない。
魔物は、魔王が生み出す純粋な魔物と、自然の生物に魔王が洗脳をかけた魔獣の2種類がいて、数は『ヒトガタ』を更に上回る。
魔物は知能も戦闘力も全くほかの種族に及ばないがとにかく数が多い。
今日でっぱりを襲っていたのは、魔獣らしい。
そして、この種族の関係は、完全に良好ではないようだ。
魔族は基本的に、ヒトにもヒトガタにも敵対関係にあり、魔物が大きく勢力を伸ばそうとしたときには、ヒトとヒトガタは協力関係となって魔物と戦うこともある。
だが、ヒトとヒトガタは、この世界での権力争いのため、基本的には抗争しては和解し、抗争しては和解しての繰りかえしで、国家ごとに権力が行き来しながら、絶妙な距離感を保つ関係であった。
基本的にはヒトが優勢なことが多く、現在もそうである。数は少なくとも、知力に優れたヒトはありとあらゆる手を使って、ヒトガタを制してきた。
それにより、ヒトとヒトガタの関係が国家ごとにはっきりと分かれることになった。
その中には、ヒトでありながら、ヒトガタを大切にすることもあるし、ヒトガタながら、ヒトにつくすこともある。
そこには、契約関係とか、金銭関係とか、はたまた恋愛関係とかいろいろある。
そして、そのヒトとヒトガタの間にはまれに子供を成すことがある。
確率は同種族同時と比べても100分の1以下と言われるが、0ではない。
加えて、ヒトガタは基本的に見た目が麗しく、それがヒトにとって魅力的に写るため、割と分母が多かったりするらしい。
だが、基本的にはヒトとヒトガタの関係は認められていないものであり、そこから生まれた子供は権利を認められない。
特に、権力関係に聡く、ヒトガタに差別の感情があるため、ヒトは本当にこの子供を嫌う。
その別称か、この子供のことを、ヒトでもヒトガタでもないとして、『ヒトデナシ』と呼ばれるのである。
「ふーん。なるほどな。あ、がらくたさん、ありがとう」
「いえいえ、お礼なんていいんですよ、もー」
がらくたさんから、話をしている途中に飲み物をもらったのだが、それはどう考えても牛乳であった。十分うまい。水ばっか飲んでたから、この濃厚さがたまらん。たんぱく質も足りてなかったし。
これはどうでもいいことだが、がらくたさんだけ、ちょっと語尾の意味合いが違う気がする。語尾なのか、不満なときに出る語尾なのかが分かりづらい。
「ほんとに全部知らないのかにゃ?」
「ああ、全部はじめて聞いた」
「ちょっと変だわん。いったいどこから来たんだわん?」
「教えて欲しいですね。もしかしてこの大陸とは違うところからなんですか? 教えて欲しいですね、もー」
「…………」
でっぱり、ふろ、がらくたさんから一気に近寄られて、すごく照れる、皆めちゃ可愛いんだもん。
さて、どのように言えばいいかな? 異世界からの転生のこととか知ってんのかな?
別に話したところで、デメリットはないとは思うけど……、ちょっとさぐりを入れてみるか?
「えーと、俺のいたところには、『ヒト』と『動物』しかいなくて、『ヒトガタ』も『魔物』もいなかったんだ」
「ヒトと動物だけにゃ!?」
「ああ、それだけだ」
「ヒトガタはどうなったんだわん? 滅んだわん?」
「滅ぶも何もそもそもいないんだ。俺のいたところには」
「本当ですか~。そんなところがあるなんて驚きですね。もー」
3人ともかなり疑いの目を向けてくる。わるものという子は話に参加していないが、ちょいちょいこっちを見ては来る。
「信じられないにゃ。滅んだならまだしも、はじめからいにゃいなんて」
「まるでここの世界のヒトじゃないみたいだわん」
「もしかして、シュウジさんって、例のあのヒトですか? もー」
ん? この反応は知っているのかな? なら話しても大丈夫か?
「れ、例のヒトって何かな?」
「それも知らないんですか? 1週間ほど前に、ライニングの方で異世界召還が行われて、何人か召還されたという話を、でっぱりちゃんから聞いたんですよ、もー」
「でっぱりちゃんはヒトが好きだから、結構頻繁にヒトのことが気になって情報を得てくるんだわん。危険だからやめたほうがいいって、わるものちゃんがいつも言ってるのにだわん」
「でっぱりは自分のやりたいようにやってるだけにゃ。それに異世界召還があったにゃら、魔物の勢力が上がったとヒトが判断したということにゃ。私達にとっても有益な情報のはずにゃ」
「それで、外に出てるうちに、魔物に見つかって追われてたら世話がないんだわん」
「い、いいんだにゃ。情報を得るためには、危険もつきものにゃ」
まじか、ヒトガタ……、もといヒトデナシのこの子たちも召還のことは知っているのか。なら話しても問題ないかな。
何より、ここに来てようやくまともに過ごせそうだし、いい関係を作っておけば、ここにお世話になれるかもしれん。そうなれば、本当に魔物が倒されるまで、安定した生活を獣耳の子達と過ごせる。いいことだ。
「えーと、みんな、俺は……」
『み、皆! はやくこの町を離れて!』
俺が4人に自分の正体を打ち明けようとしたところ、外から悲痛な叫びが聞こえてきた。




