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進んだ先には

「何だ……、洞窟?」


割れた壁の先には、道ができていた。


「タジマくん? どうしたぴょん?」


「あ、わるものさん」


わるものさんの表情が戻っている。


「どうして壁が崩れているぴょん?」


「覚えてないんですか? わるものさんが何か唱えたら崩れたんです」


「? 何のことぴょん?」


覚えてないのか……。


「うっ、何だぴょん、臭いぴょん」


「俺ですか!?」


何か発動させちゃったか?」


「ちがうぴょん! ちょっと背中を貸すぴょん」


「へ?」


ぴょん!


わるものさんは俺の背中に飛び乗り、顔を思い切り背中に押し付ける。


「あのー。俺が臭いんじゃないんですか?」


「ちがうぴょん。あの道から恐ろしいほど臭い匂いがするぴょん!」


俺には何も匂わない。


この世界に来てから臭いと感じたことは無い。


これは説明書を見たのだが、嗅覚はかなり鍛えられていて、ヒトの異臭は気にならなくなるというのがデフォルトでついている。


わるものさんが目も開けられないくらいであることを見ると、それはかなりのものであることは分かる。


「わるものさん、他に出口っぽいものないんで、ここに入ってみてもいいですか?」


「いいぴょん。背中に顔を押し付けてるぴょん」


顔を押し付けているので、声がややこもっている。だが、なんとなくいいたいことは分かった。


「匂いませんか? 泳いできた上に、汗だくなんすけど」


「大丈夫だぴょん。………………むしろいいぴょん


でっぱりもそうだけど、ほぼ真横で言う独り言は、全く隠せてないのでやめていただきたい。俺だけ顔が赤くなる。


「さてと、歩いてってみますか」


匂いはよく分からないが、道は妙にピンク色で、毒々しい。視覚的にダメージを受けそうではある。


しかし、外につながってそうな雰囲気0だ。急に足元開いたりしないよな。それはゲームのやりすぎか。


「何かあったぴょん?」


「ふふっ、いえ何にないです」


「何で笑ってるぴょん?」


「なんでもないです」


わるものさんが顔を押し付けたまましゃべるものだから、こそばゆかっただけである。


いかんいかん、緊張感がない。


さっきまでガチ命の危機だったものだから、わるものさんがある程度元気で、俺も1秒後に死ぬというわけでもないので、どこか気を抜いてしまっている。


この気が抜けたことが、さきほどの失敗を招いているのだ。まだ危機は脱していない。


「ん? なんだあれは?」


しばらくその空間を歩いていると、急に大きな空間に出た。


その場所は、再び土に囲まれていたのだが、俺の目についたのは青い大きな石だった。


「あ……、ここは匂わないぴょん」


青い石のあるこの空間はどうやら異臭がしないようで、わるものさんが俺から降りる。


「ふぅ~、ちゃんと息が吸えるぴょん……」


わるものさんが深呼吸をする。


どうでもいいが、俺の肩口辺りから、いい香りがするのが気になる。


女の子というのは、なぜいい香りがするのだろう。


「それにしても、このごっつい石は何ですかね?」


「輝きも大きさも見たことがないぴょん……」


石の大きさはわるものさん2人分(耳含む)くらいあり、磨いた鏡のように、俺達の姿を映し出している。


特になんのこっちゃ分からないけど、なんとなく今のまずい状況を忘れて見惚れてしまうほどだった。


コンコン。


「お、いい音」


あまりに綺麗でつい叩いてしまった。


ピキピキ……。


「へ?」


俺は本当に優しく叩いた。ぶっちゃけノック以下の威力である。

だが、その青い石にヒビが入って、表面が割れてしまった。


「あ……」


「あ……、ぴょん」


さすがの毒舌わるものさんも、何もいえなくなっていた。


やべー、いや、誰かの所有物じゃないから、弁償とかはないだろうけど、やっちゃいけないことをやったみたいな気分だ。


「ん? 何だ?」


ところが、不規則に割れたかと思った石は、いつの間にか表面が滑らかになっていて、そこには文字が浮かんでいた。


「何だぴょん?」


わるものさんもぴょんぴょんしながら、文字を見る。


「なんて書いてあるぴょん? 点がたくさんあるだけで、読めないぴょん」


必死にジャンプしているが、1文字も読めないようだ。


そりゃ知らないヒトはこれは多分読めない。


「英語……? 何でこんなところに?」


そこに書いてあったのは、アルファベットだった。


ここに来てから理屈はよく分からないが、文字は全部日本語で認識ができていた。


しかし、これはどう見てもアルファベットだ。



「読めるぴょん?」


「なんて書いてあるか意味は分かるかは分かりませんけど、なんて書いてあるかは読めます」


「なんて書いてあるぴょん」


「えーと、クッジュー……、エンドラド……、ペーパー」


訂正、なんて書いてあるかもあんまり読めなかった。


「どういう意味だぴょん?」


「ちょっとまってくださいね……、えーと、ウエイトフォアスリーミニッツ? ペーパータッチ?」


これはなんとなく分かった気がする。


「えーとっすね、この紙をこの石にあてて、3分待てばなんかなるみたいです」


「すごいぴょん! 暗号が読めるぴょん?」


ちょっと尊敬の目で見られるが、ぶっちゃけ読めてない。


さきほどわるものさんが読んだほうがよほどすごかった。


ただ、ゲームとかの経験だと最初のほうは、前置きとかが書いてあって、良くここまで来た! とか、私はこうこうこう理由でこうした的な余計な文章が書いてあることが多いイメージがある。


俺は英語が得意ではないが、一応義務教育を受けている学生が、なんとなく読み方すら分からない単語が羅列されていることを考えると、余計な文章が書いてあると勝手に考えた。


というか、違っても読めないし。とりあえずそう言う体でいくしかない。


「まぁ、やっぱりうまくいかないかな」


3分ほど待ってみたが、特に変化なし。やっぱり何か書いてあんのか?


グラグラ!


「わわ、ぴょん」


「わるものさん、こっちに」


そのタイミングで地響きが起こったので、わるものさんが後ろに転びそうになった。それを倒れないように、手をつかむ。


「すごく揺れてるぴょん、いったい……、ぴょん!?」


地響きだけではなく、土の床にどんどんヒビが入り、どんどん崩れていく。


「やばいやばい」


崩れたところを覗いて見たが、暗くて底が見えない。ということは、落ちたらやばい。うんまずい。


ギュッ!


「た、タジマくん? 何してるぴょん?」


俺はわるものさんを胸に抱いた。


最悪落下しても、俺が身代わりになって……。


ガララ!


「うわー!」


「わーぴょん!」


まだいろいろ考えている最中だったのに、見事に足元が崩落した。


えー、割とまだ崩れてないところ多かったし、中心って最後まで残るか、崩れないパターンじゃないの。


そんなことを考えている場合ではない。とりあえず、俺がわるものさんの下になっ……。


ドン!


いやだから、もう少し待ってくれませんかね。まとまってない。


「タジマくん? 大丈夫ぴょん?」


俺の胸から顔を上げて、わるものさんが心配そうに見てくる。


「あ、はい。わるものさんも大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫だぴょん。タジマくんがかばってくれたぴょん」


「あ。はい。そのつもりでしたけど、下割と柔らかかったですね。俺も全然痛くないんですよ」


そういえば、何で柔らかい?


ぷにぷに。


ん? 地面にしては柔らかいし、色も何か黒い? 


グルゥゥゥ。


「ん? わるものさん、何かいいました?」


「言ってないぴょん」


何か声が聞こえたような?


それに何か地面が揺れているというか、これは地震というものでもなく……。


「…………」


良く見ると、赤い何かが左右にあるし、前のほうに何か首っぽいのあるし……。


あ、ドラゴン? ということは、これはドラゴンの上ですか。


やべー、これ多分だけど、封印されてたドラゴンじゃん、色はボー○ンダというより、真紅○の黒竜っぽいけど、ドレーヌさんの言ってた見た目そのものだ。


まずいな、ここからじゃ逃げれないし、上から落下したとか絶対怒られる。


目つきメッチャ悪いし。


「あのー、実はちょっとした事故とか偶然の重なりが原因でして、決して眠りを妨げようとか、背中に傷をつけようとか考えていたわけでもなく」


というか、言葉が通じんか。


[おっ、久々に目が覚めたのぉ]


ん? 誰の声だ?


わるものさんもキョロキョロしている。


[いやぁ~、今回は寝すぎた寝すぎた]


ん? もしかして。


「あのー。もしかしてさっきからしゃべってるのは、あなたですか]


おそるおそる声をかけてみる。


[おお、ワシじゃワシじゃ。まぁしゃべっておるというよりは、直接脳に語りかけておる感じに近いがの]


この方だった。

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