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異世界庭園ウィンドウショッピング

「さて、ヘスの研究所の場所は分かった。明後日決行しよう」


2日ほど調査すると、あっさりと場所が判明した。


いくら隠密にやっていても、さすがに証拠は多少残るし、ヘスの王族に協力してもらえれば、簡単だった。


「と、いうわけで明日はのんびりしていてくれ」


なので、1日休息をいただけることになった。


とは言っても、別に出かける用事はないし、あるとしてもあの町にわるものさんを連れて行きたくないしな~。あ、そうだ。どうせ暇なら……。


俺はちょっとだけでもわるものさんが楽しめるように作戦を考えた。



「わるものさん、ちょっとデートしませんか?」


次の日の昼。わるものさんに俺はそういった。


「デートってなんだぴょん?」


「えーとですね。男と女が一緒にお出かけすることです。買い物とかして」


「でも、町に出るのは……ぴょん」


「いえいえ、町には出ませんよ。ちょっと庭園に出ましょう」


このヘンザー城には大きな庭園がある。城の内部には、クリスさんの考えに賛同しているヒトが多いのか古い考えのヒトはおらず、さすがにヒトガタはいないが、あまり露骨にわるものさんを見るヒトはいない。


「こんにちは、兎のヒトガタさん」


「! タジマくん! 何であいつがいるんだぴょん!」


庭園に出ると、そこにいたのはドレーヌだった。


「いえいえ、俺がクリスさんに頼んで呼んだんです」


「ありがとうございます。これで、クリス様の覚えもよくなりました。ここでの商売もしやすくなります」


「タジマくん!」


「いえいえ、わるものさん。このヒトは見た目はうさんくさいですけど、いいヒトです」


俺が昨日考えたのは、商人のほうから、この城に来てもらい、庭園で買い物デートをしてみようという考えだった。


だが、ここの商人は基本的にヘスにいるヒトであり、わざわざヒトガタのために来てくれるとは考えにくかったし、商売的な話になっても困る。


そこで俺は、前会っていた、ドレーヌ商人を頼ったのである。


クリスさんに一言添えておけば、それだけで恩を売ることになるし、比較的損得勘定で動いている彼なら、あまり面倒なことにはならないと考えたのである。


昨日の夜、クリスさんに提案したところ、既にドレーヌさんのことは名前は知らなかったが、奴隷を扱っているとは言え、商売道具ということで、あまり雑に扱っていないことや、お金にさえなれば、奴隷が身分保障されているサンタマリアに売ることもあるということで、クリスさんのほうが、1度ドレーヌさんに謁見したいという話であった。


名前が確認できて、俺の話した容姿が特徴どおりであったことから、今日の朝に捜索があって、この庭園に呼んだのである。


「そういうことなら……、タジマくんがいいなら信じるぴょん」


「おやおや、私は損になることはいたしませんよ。クリス様の王城であなたに何か危害を加えましたら、私もただでは済みませんよ」


「……、まぁいいぴょん」


あ、ちょっと不機嫌になっちゃった。あんまよくなかったかな?


「えーとわるものさん、ごめんなさい。俺、わるものさんと楽しく出かけたりしたかったんですけど、外は、わるものさんが出歩きづらいかと思いましたので、こういう形にしたんです」


俺は頭を下げる。帰って気分を悪くさせてしまうとは、本当に申し訳ない。


「はぁ~、鈍感ぴょん、鈍感ぴょん、そろそろ気づくぴょん」


「へ?」


俺が顔を上げると、むしろご機嫌だった。


「私は基本的にいつもあんな感じぴょん。最近タジマくんに心を許してるから、あんまり見せてないだけだぴょん。私と初めて会ったときを思い出すぴょん」


「そういわれればそうですね」


確かにわるものさんは、いつも不機嫌そうな顔をしていることが多かったな。最近そうじゃないだけで。


「それに、タジマくんを信用しているといったぴょん。だから、いいんだぴょん」


そして、俺の手を握ってくる、小さいけど女の子の手だ。


「はぁ~、あまりいちゃいちゃを見せ付けないでくださいませ。私にはまぶしすぎますので」


ドレーヌさんもやや呆れ顔だった。さすがに俺も恥ずかしい。



「たくさん見ていってくださいませ。いろいろ持ってまいりましたから」


ドレーヌさんが店を開くと、かなり大きな店のような規模になる。雑貨店みたいである。


「わざわざ俺達のためにこれだけ持って来てくれたんですか?」


「いえ、この後、お城のヒトにも売っていいと許可を頂きましたので」


「しっかりしてますね」


「お城にいらっしゃるような方に専属で売れる機会などめったにございませんから」


さすがの商売根性である。


「まずはあなた方に優先いたしますよ」


「あ、あの服わるものさんに似合いそうですね」


ちなみに俺とわるものさんは手をつないだままである。本当にデートみたいだな。胸がドキドキしてたまらない気持ちになる。


「あんな服を着せて、私の肌を見て興奮するつもりだぴょん?」


こういう毒舌も、最近は愛を感じるので、むしろ心地いい。どM発言みたい。


「いえいえ、本当に似合いそうだと思ったんですど……」


「これはお目が高いですね。しかもこれはヒトガタ用ですから」


「ヒトガタ専用も売るんですか?」


「ええ、私はロロロレにも商売に行きますので。これはロロロレで作られたものを仕入れて参りました」


「ロロロレは危険なんじゃないですか?」


「ロロロレはヒューリ様のおかげで、北部は比較的安全でございます」


「じゃあこれいただけます? いくらですか? あ、そういえば、通貨って一緒ですか? 俺サンタマリアのリアしか持ってませんけど?」


「大丈夫でございます。ヘスとライニングにはそれぞれ通貨がありますが、リアはサンタマリア、ライニング、ヘス全てに共通して使用できます。ロロロレとトトトトッソも通貨はリアでございます」


うわぁー、超便利だ。


「じゃあ後で着て下さいね」


「……、誰も欲しいって言ってないぴょん」


「いらないですか?」


「着ないとは言ってないぴょん。せっかくあるのに着ないのは服にわるいぴょん」


どうやら着てくれるようだ。


わるものさんは、いつも巫女服っぽい服を着ていて、非常に似合っていて結構なのだが、露出が全く無い。


俺が目をつけたのは、白色のいわゆる肩出しワンピースである。


かなり小さかったが、わるものさんには似合うだろう。


「まぁ私は成長がかなり遅いから、しばらく着れるぴょん。ロリペドタジマくんにはたまらないぴょん?」


「久々ですね、それ」


後は、アクセサリーを見たり、書物を見てみたりといわゆるウインドウショッピングを楽しんだ。


「ふぅ、ちょっと疲れたぴょん」


「じゃあ戻りますか。ドレーヌさん、すいませんね、結局1つしか買えなくて」


「いえいえ、今からいろいろ売って参りますよ」


「たくましいですね」


「それとシュウジ殿、ちょっとよろしいですか?」


「はい、何ですかね?」


俺が去ろうとすると、呼び止められる。


「こちらをもしよろしければお持ちいただけませんか?」


「何ですか? これは」


俺が渡されたのは、1枚の紙切れ。しかも破れていて、ほとんど読むことが叶わない。


「こちらは、伝説のドラゴンに関する書類なのです」


「ドラゴンですか? でもドラゴンは確か魔物では?」


俺は1度ドラゴンを倒しているが、あれは理性も何もない化け物だった。



「はい、ドラゴンは魔王が作り出す魔物です。魔獣ですらありませんから、基本的には私達の敵です。ですが、一昔前サンタマリアが帝国として全てを支配していたときには、動物としてのドラゴンが存在していたのです」


「本当ですか!?」


「ええ、特徴といたしましては、魔物のドラゴンは蛇のように長い形状をしておりますが、動物としてのドラゴンは、獣に羽が生えた感じになっております。こちらの絵のようになっています」


その絵を見せてもらうと確かに分かりやすかった。


簡単に言うと、魔物のドラゴンはレッ○ウザとかハク○ュ-っぽいが、動物のドラゴンはボー○ンダっぽい。簡単かどうかはポ○モンをある程度知っていることが前提ではあるが。


「なぜ今は動物のドラゴンはいないんですか?」


「あまりにも強すぎるので、当時のヒトとヒトガタが封印しました」


「本当ですか……」


「理不尽といえば理不尽です。サンタマリア帝国の世界統一には、このドラゴン1体サンタマリアが持っていたことに限るのですがね」


「ですけどどうやって?」


「このドラゴンには理性がありました。ですので、自らがいることを嫌って、自分から封印されたのです。そして、その封印された場所が、ヘスの北部といわれております」


ヘス北部……。明日ヒューリさん達と行くところか。


「何でそれを俺に?」


「私は戦闘力は皆無ですからね。これは持っていても仕方ございません。あなたは、クリス様に私を紹介してくださったから、こちらをお譲りしようと思っただけです。それにもしこれで万が一ドラゴンが見つかるようなことがあれば、あなたはきっと私の功績も話してくださるでしょう」


「まぁそうですね」


「商売人において、1番大事なのはお金もそうですが、信頼も重要です。あなたのことは私も信用させていただきますよ。もしよろしければごひいきにしてくださいませ」


「しかし、肝心なところが読めませんね」


紙にはドラゴンの特徴が書いてある、

『火を吐くこともできるが、水、雷、毒も吐くことができ、飛行速度は魔物のドラゴンの比ではなく、その近くにいると、肌が切れるほど。


火は消し炭も残さない威力、水は砂漠地帯をオアシスに変えるほどの水量と山を砕く水圧、雷は自然の雷の威力を上回り、毒は生態系を変えるほど強い』


強いな、こんなんいたら負けないだろ。


『加えてヒトやヒトガタの言葉を理解し、知能もあるため、その時点でドラゴン自身にとって正しいと思われる行動をとっている相手に味方をする。サンタマリア帝国の世界統一に貢献後、自らの存在が争いの種になると当時のサンタマリアの王に話し、自ら封印を望む』


『封印の方法は、当時の最高の魔術師が総力を上げた魔法の石を……のヒ…………の…………によって封印。封印を解くようなことはあってはならないが、この紙を持って、封印されし場所に行き、…………のヒト……が…………することと…………により封印は解かれる』


なんか計ったかのように肝心なところが破れて読めない。


「まぁ気が向いたらでいいですので、ヒューリ様にでも見せてくださいませ。どちらにしても、既に封印から時間も経っておりますし、存在そのものも疑わしいものですから」


「タジマくん! 何してるぴょん!?」


「ああ、すいません。じゃあ一応貰っときますね」


そして、俺は部屋に戻ることにした。


ちなみにその後、わるものさんはワンピースっぽいのを着てくれた。めちゃくちゃ可愛かった。それ以外言葉浮かばず。もちろん見ただけであり、何にもしてないよ。

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