飲まれました
『にゃはははは!』
『くぅ~ん!』
『うっしっし~』
『ぴょん……、ぴょん……』
「ふぁ~、なんか妙に騒がしいな……」
招待状のこともあって、昨日はイマイチ寝つきがよくなくて、この世界に来て久々に目覚めが悪かった。
元々俺は朝がめちゃくちゃ弱くて、朝は話したくもないくらい機嫌も悪い。
だが、ここに来てからは、暗くなったら寝る。明るくなったら起きるという、正常な生活をしていたので、それも比較的落ち着いていた。周りも静かだからね。
昨日は寝るのが遅れたので、その分起きるのも遅れてしまったと思う。時計とか無いから知らないが。
「ここ3階なのに……、どれだけ騒がしいんだ」
声はでっぱり達4人であることは間違いない。
キャラの濃い4人ではあるが、比較的女の子らしいし、強いていうならふろはややおてんばだが、騒がしいというほどではない。
「お~い、何してんだ……」
「にゃははは? シュウジ? にゃは? にゃは~、ふわふわするにゃー」
でっぱりは笑いながら、床をごろごろしていた。
「く~ん、くぅーん、わーん」
ふろは、いつもの満面の笑みはどこいったというくらい、困り眉毛で悲しそうな顔をしていた。
「うっしっしっし、気持ちいいです、もー」
ぺしぺし!
がらくたさんは、口調はいつもどおりだが、俺をやたら叩いてくる。
なんじゃいこれは。
全員キャラ崩壊はなはだしい。
「まったく……、タジマくん、これはなんですぴょん?」
「ああ、わるものさんは正常ですか」
あんなナリでもやはり最年長。口調もいつもどおりだし、見直したと思って振り返る。
「ごくごく、何みてるぴょん~」
正常じゃなかった! いつもどおりなのはしゃべり方だけで、顔真っ赤でふらふらだ!
「これはお酒なんですよ。飲むと……、何かふわっとした感じになっちゃうんです」
「そんなものを置いておきながら、ここにあるものは、好きにしていいですよ。って言うなんて、私達をどうするつもりですぴょん~?」
「いえ、どうもしませんって。大丈夫ですか? わるものさん」
「私は大人ですから大丈夫ですぴょん~。皆さんみたいに、暴走したりしませんぴょん~」
まぁ、確かに、俺との会話が成立している分、他の3人よりはましか。
くいくいっ。
ん? なんだ?
「シュウジくん……、怒ってるわん?」
俺の服の裾をつかんだのは、ふろだった。
うるうるな瞳と困り眉の上目遣いに、俺はノックアウトされそうだった。
普通に可愛い子がやってもやばいのに、普段元気っ子のふろが、それをやるとギャップで更にやばい。
「い、いや怒ってない怒ってない。何でそう思った?」
「何か変なヒトとか変なものがあったら、シュウジくんに許可を取るようにこの前話したのに、勝手に飲んじゃってるからだわん……」
「いや、ここのやつは別に好きにしていいって言ったから、それはいいんだが」
「わんわーん♪ 優しいんだわん!」
「こらこら、すりすりしてくんな」
右腕をとって顔をうずめてくる。いろいろこそばゆいからやめていただきたい。
「にゃ~。にゃにしてるにゃー」
すると反対側からでっぱりが絡んでくる。
「ほらほらにゃ~」
「いや何で脱ぐねん」
全力で止めさせていただいた。
「にゃって~、なんかしゅわしゅわして~、暑いのにゃ~。それにシュウジは何で止めるにゃ? シュウジの好きな胸が見れるのににゃ~」
「な、何のことだか分かりませんね」
「いつもでっぱりのと、がらくたちゃんのはもちろん、ふろちゃんのも見てるの、知ってるんだからにゃ~」
「え? 知っていたの?」
あまりの動揺にさっきから口調が安定しない。あと酔っ払ってても、わるものさんが勘定に入っていないのが悲しい。わるものさんの場合は、見るものがないのと、見ると怒られるというのもあるが。
「今は気分がいいから、見てもいいのにゃ~あああああ~」
「で、でっぱり?」
そのまま倒れこんで寝てしまう。
ああ、危ない危ない。理性が限界を迎えるところだった。
いつの間にかふろも寝てて、仲良く寝てるし。
上から毛布でもかけといてやろう。これを毛布というかは知らんから、毛布的なものだが。
ぼふん。
ん? 何か頭が重い。
「あ~、楽です、もー」
「え、がらくたさん?」
がらくたさんの声が上から聞こえる。ということは、頭の上に乗ってるのは……。
「あのー、できれば俺の頭の上にあるものをどけていただけませんかね?」
「でも重いんですよ~。息も苦しくなりますし~、もー」
「重いのはわかるんすけど、場所がちょっとよろしくないんです」
「えー、でもお母さんが男のヒトはこうすると喜ぶって言ってましたよ。もー」
何吹き込んでんだあのヒト! もといヒトガタ!
「えーとですね、嬉しくないわけじゃないんですけど、こういうのは、男相手に誰でもやっていいわけじゃないんですよ」
「知ってますよ。私はシュウジさんだか……、くー」
「え、そのタイミングで寝るのか。しかもこの姿勢のままで……」
すごく肝心なせりふの途中だし、頭に乗っかったままだし、意識とんでるから余計重いし。
「はぁ、なんとか起こさずに横にできた」
その後慎重にがらくたさんを横に寝かせて、落ち着く。
「タジマくん、早くお代わりを持ってくるぴょん♪」
ああ、1人忘れてた。いつの間にか全部飲んでるし。
「わるものさんは大丈夫なんですか?」」
「大丈夫にきまってるのれふぴょん」
「飲みすぎはよくないんじゃないですか?」
4分の3くらい残っていたワインは、確か俺がさっき見たときはまだ3分の1はあったはずだ。
ということは、残ってたやつは全部わるものさんが飲んだということになる。
「のみしぎじゃあしまへんぴょん」
「いや、だってろれつが回ってませんし」
「いいからもっへくるおよん」
もう語尾のぴょんも言えてないし。
「じゃあこれでいいですか?」
「これは何れふおよん?」
「さっきのは赤色のお酒でしたけど、こっちは白色のお酒です」
「何かあっさりひてるぴょん?」
「はい、白いほうが飲みやすいんです。たくさん飲むならこっちのほうがいいですよ」
「確かにすっきりするぴょん。もう1杯よこすぴょん」
「はいはい」
わるものさんはぐいぐい飲んでいく。そりゃただの水だからな。
水を飲んでるおかげで、呂律も戻ってきてる。
「タジマくん。ちょっとこっちに来なさいぴょん」
「へいへい、なんですか」
「眠いぴょん」
「ああ、他の3人も寝てますからね。風引かないように、これをかけて寝てください」
俺はでっぱりたちにかけた毛布的なものを渡す。
「これはいらないぴょん」
「いや、そういうわけにもいかないですよ。寝てると冷えますし」
「こっちを頂戴ぴょん」
「へ?」
俺の好意(毛布)を引き剥がすと、俺の膝の辺りを指差す。何がいるんだ。ズボンか?
「そこにすわるぴょん」
「え、はい」
俺はソファに座る。家買ったときにもともとついてきた、柔らかいソファで、特にでっぱりとふろがお気に入りでよくごろごろしている。
「これでいいんですか?」
「それでいいぴょん。えいっ♪」
「え? な、何するんですか?」
俺の膝の上に、乗ってくる。
正面を向いて乗っているので、顔が目の前に来た。
「抱っこして欲しいぴょん」
「抱っこって、えー? えー?」
俺は混乱している。
わるものさんはあまり俺の近くに寄ってこないのに、今は誰よりも至近距離になっている。
「すんすん、男の香りぴょん……」
「いや、嗅がないでください……」
「これ好きぃ……ぴょん」
俺の胸に顔をうずめて、すんすんを香りを嗅いでくる上に、もぞもぞ動いているので、いろいろと俺のふともも辺りに、触感がある。
わるものさん、すげぇいい香りするし。
「タジマくん、聞いてぴょん」
やがて顔が、ちょっとへんりゃりした表情から、いつもの感じになった。あ、正気になったっぽいな。目がとろんとしてるから、もうすぐ寝そうだし、こっそり誘導して、でっぱりたちの横で寝かせよう。
「はい、なんですかね」
「ぎゅーっとしてほしいぴょん」
「はい…………。はい?」
何を言われたか理解できなかった。
「聞いてたかぴょん?」
「あの、ぎゅーっていうのは、一般的な抱きしめる的なことですかね?」
「何を言ってるぴょん?」
「ああ、そうですよね」
きっとこの世界には、ぎゅーっとするという別の意味の言葉が……。
「それ以外に何があるぴょん?」
「合ってんですか!?」
「早くするぴょん」
「え、でもみんながいつ起きるか分からないのに、こんなところで。いえ、2人きりならいいというわけでもないんですけど」
「つべこべ言わないで、やるぴょん!」
「はい」
命令口調に逆らえず。
「こんな感じでいいですかね」
俺はわるものさんをぎゅっと抱きしめる。
うわ、細い。なんだこれ。
スキンシップを結構してくるほかの3人は、割と女性らしいふんわりとした感じがあって、細いといえば細いが、驚くほどではなかった。
だが、わるものさんは全く違う。本当にこの小さな体に、生活に必要なものが入っているのかが疑わしいほどだ。思い切り抱きしめたら、骨が折れてしまいそうである。
「足りないぴょん。もっとしっかりしてぴょん」
「ええー、はい」
俺はもう少し強く抱きしめる。本当に間違えると折れそう。
「うん、それくらいでいいぴょん」
わるものさんは、俺に体を預けてくる。
でっぱりやふろが良く転ぶので、こういう感じになることは結構あるが、これだけ長時間抱きしめていることは無かった。香りがいつも以上に強く、自分のものではない小さな心音が聞こえてきて、ものすごく恥ずかしい。
「やっぱりタジマくんは男のヒトだからおおきいぴょん……」
「女の子としても、わるものさんが小さすぎるんですよ」
あ、余計なこと言った。
「……」
「あの、怒ってますか?」
「……、ちょっとムッとしたけど、別にいいぴょん」
あれ、怒られない?
「この場所は落ち着くぴょん……。大きな男のヒトのぬくもりだぴょん……」
「……わるものさん……」
わるものさんは、お父さんに愛された記憶がないんだったな……。
「俺でよければ、これくらいならいつでもしますよ」
まぁ今はよってるから、甘えてるだけだろけど、ついあまりに愛おしくなってその言葉が自然に出た。
「すぅ……すぅ」
そして、いつの間にかわるものさんは眠っていた。
安心そうな可愛らしい寝顔は、俺を全面的に信頼してくれていることがよく分かって、嬉しくなった。
「さてと、じゃあわるものさんを寝かせて……」
ソファから立とうと思ったのだが、わるものさんが、俺の右腕と胸元を握って離さないので、立ち上がれなくなってしまった。
「…………。どうしよう……」
そのまま俺は何もできず、ただただ座って時間を過ごした。
ここに来るまで寝てたから、眠くもないし、時々動いたり、声を出したりするわるものさんに緊張して、余計目がさえてしまったので、その時間はあまりにも長かった。
「うにゃ~、にゃにゃ!? わるものちゃんとシュウジくん?」
「わん? 仲良くなったわん?」
「いいことですね。でもくっつきすぎです。もー」
ようやく3人が目を覚ましたのは、外も暗くなってからであった。
「うーん。ぴょん?」
それで騒がしくなって、わるものさんも起きた。
「ああ、じゃあ俺が寝る」
そして、全員が起きたのを見て、俺は眠りについた。
「うにゃー、何か頭が痛いにゃ~」
「わん……、何か変なもの食べたかなわん?」
「なんでしょうかこれ、もー」
「…………、昨日の記憶がないぴょん」
そして俺が次に目が覚めたときには、4人ともいわゆる2日酔いになっていて、その介抱で俺はまた1日つぶれた。
可愛い4人の介抱だからいいけど、これがおっさんとかブスだったら、マジ勘弁だ。俺今結構最低なこと言った。
ともかく、お酒を飲みすぎると、いろいろ迷惑をかけるということだから、俺は将来お酒は飲まないで置こう。




