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内密に

「どうもこんにちは」


そんなこんなで、ゆったりとした日常を過ごしていると、俺に来訪者が来た。


「ああ、ライオネルさんでしたっけ?」


そのヒトには見覚えがあった。泥魔事件のときに、最初に俺に声をかけてきたサンタマリアの兵士である。


「急な来訪申し訳ないです」


「いえいえ。別に俺特に用事がないので」


というか、この世界において、事前にアポを取るのはどうやるんだ? ヒューリさんと会うのも、直接家に出向いて都合のいい日を聞いてるから、そのアポを取るためのアポは完全に突然の来訪だし。


「ありがとうございます。今はお1人ですか?」


「そっすね。1人です」


あくまでも俺は1人暮らしである。お泊りもあんまりないしね。全く無いとは言わないが。もちろん何も起こってないよ。


「実はここだけの話ですが、シュウジ殿に折り入ってお願いが」


「なんですか? 俺たいしたことできませんけど」


「ヒューリ様が近々、皇太子から帝王に就任されるのはご存知ですな」


「ええ、本人から聞いてますから」


「その就任式の日に、何か良からぬことが起こることを私は懸念しております」


「よからぬこととは?」


「ヒューリ様を亡き者にしようとするヒトがいるという噂があるんです」


「なんでですか!? あんなにいいヒトで、好かれているのに!?」


つい声を荒げて言ってしまった。ここに来てというか、生まれてからこれだけ大きな声を出したことは無かったと思う。それだけ、ヒューリさんに俺も心をつかまれているということか。


「確かにサンタマリアの国民には好かれています。ですが、王家の中では、今だに弟のユーキ様を押す声も多いのです、いえ、むしろユーキ様派のほうが多いのではというくらいです」


「……、ユーキ様は優秀なんですか」


ヒューリさんは、本当にこの国のことを考えるすばらしいヒトだ。そんな彼と同じ血を持つ弟なら優秀ではあるのだろう。


「優秀ではあります。ただ、ヒューリ様とは対照的で保守的な方です」


「どういうことです?」



「ヒューリ様は、気になることがあれば、自ら足を運びますが、ユーキ様は自ら動くことはありません。ヒューリ様は、これまでの常識を疑い新しいことに挑戦いたしますが、ユーキ様はしきたりを重んじます。ヒューリ様は優秀だと思えば、身分や種族を無視して重用しますが、ユーキ様は、血筋や身分を重要視します。ヒューリ様はミスを大きくはとがめませんが、ユーキ様は、違反した相手を厳しく罰します」


「対照的ですね」


「ええ、ですが、これまでどおりのやり方を重んじるユーキ様のほうが、身分の高い方や、王族には好かれております。むしろヒューリ様のやり方のほうが破天荒に見られる傾向にあるようです」


「それでもヒューリさんが着任することになってるから、周りが認めたんじゃないんですか?」


「いえ、ヒューリ様が長男であることと、現在の王である、ヒューリ様たちのお父様がヒューリ様を認めておられる数少ない親族であることと、同じ優秀な王でも、やはりヒューリ様が1枚上手であることで、認めざるを得なかっただけです。王妃様や、周りの貴族は猛反対しております」


「それで、亡き者にするという意見が出るわけですか」


「そうです。ヒューリ様がいなければ、ユーキ様も十分に優秀ではありますから、ユーキ様が当然のように王となるでしょう」


「でも、この話に俺が何の関係が?」


「ヒューリ様の就任式にあなたを招待しようと思っております。そこで、ヒューリ様を守っていただきたい」


「招待制度なんですか? ああいうのって誰でも見れるものでは?」


「もちろんヒューリ様は、全ての国民に参加していただくのを望んでいます。その日は、盛大な祭りになるでしょう」


「なら別に……」


「それが逆に危ないのです。多くの国民が参加すればするほど、怪しいヒトやヒトガタがいても分からなくなります。まさか全員を検査するわけにも参りませんから」


「なるほど」


木を隠すなら森の中。ちょっと違うかもしれないが、たとえば2人しかいないところで怪しい相手を見つけるのは簡単だが、1万人とかから1人を見つけるとなれば、それは骨が折れる。同じ1人なのに。


「しかも、数が多すぎると、いざというときにヒューリ様をお守りできる護衛のヒトやヒトガタもうまく動けない可能性があります。なので、最も先頭の位置に席をご用意いたしました。こちらには、シュウジ殿以外にも、ユーキ様派ではなく、顔もあまり知られていない実力者を呼んであります。合わせて50人はいらっしゃいます」


「まぁ、純粋にその席には興味ありますし、構いませんよ」


人数を聞いて安心した。元々厳重な警備をしているだろうし、俺を含めて50人は、本当にいざとなったら、ということだろう。なら、俺が何かをするまでもなかろう。保険というわけだ。


「もしよろしければ、お1人くらいならお連れ様を連れて来ていただいても大丈夫ですよ。それでは、こちらを当日はお持ちになって来てください」


そう言って、俺に招待状を渡して去っていった。


「物騒なもんだ。あんな聖人でもうまくいかないもんなんだな」


周りの全てに好かれる存在などありえない。そんなことは分かっているが、なんとなく悲しい気持ちになるのであった。

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