火があると便利
そういえば、火ってどうしてんだろ?」
ここに来て結構経ってやっと疑問に思うのもどうかと思うが、俺の家には火をおこす手段がない。
全く困らないので、疑問にも思わなかった。時間とか季節の概念は知らないが、この世界はかなり日が長いようで、電気系統がなくても、明るさには困らない。
食事もお世話になるのはほどほどにしているが、そもそも自炊しないので、外食専門になってしまっている。
保存しないので、冷蔵庫的なものもない。金があるとはいえ、なんとまぁ雑な生活を送っているのか。
「でっぱり、火ってどうやって使ってたんだ?」
「え? いまさら聞くのにゃ?」
でっぱりにも呆れられた。まぁそりゃね。
「山でも普通に使ってたよな? まさか、木と木をこすり合わせてか?」
「にゃはは。そんな原始的な方法は遭難でもしにゃい限りにゃいにゃ」
軽く笑われた。さすがにそれはないか。
「じゃあどうやってんだ? まずこの町にも普通に火はあるように見えるが」
「それは魔法使いか、火を使えるヒトガタか動物が火を起こしてそれを売ってるにゃ」
「え? 火を売るのか?」
なんかそれっぽいのあったけど、大道芸かなんかだと思ってた。火が売れるのか。
でも良く考えると、火って日本でも無料じゃ手に入らないもんな。マッチとかライターがありゃ簡単につくけど、タダじゃないし、ガス代とか払ってんだもん。別に変じゃない。
「だから、火が使えるというだけで、基本的にはお金持ちにゃ。あまり火は長時間置いておくわけにもいかにゃいしにゃ」
「でっぱり達はどうしてたんだ? 魔法使いもいないし、見た感じ火が使えそうに無いが?」
「火の実を使ってたにゃ」
「火の実?」
「あ、ちょうど今日はわるものちゃんがそれを取ってくる日にゃ。見せてあげるにゃ」
そういわれて、俺は家を出た。カギの概念はちゃんとあるようで、一応カギを閉めているのだが、魔法が使える世界で、カギの意味があるのかとは思うが、取られて困るようなものは特に無いので別にいい。金は持ち歩いてるし。
「あ、わるものちゃんお帰りにゃん」
「ただいまだぴょん」
村に戻ると、ちょうどわるものさんが戻ってきていたところだった。
「タジマくん? 今はふろさんもがらくたさんもいないぴょん」
「あ、いえいえ、今日はわるものさんに用事がありまして」
「……、やっぱり私を狙ってるぴょん。私を視姦して楽しむつもりだぴょん」
「違いますって。その持っている木の実に興味があるんですよ」
わるものさんが持っていたのは、ひょうたんというか洋梨のような見た目をした縦に長い木の実だった。
「火の実のことだぴょん? でもいまさらタジマくんには関係ないぴょん。お金があるんだから、火は普通に買えるぴょん」
「いえいえ、でも気にはなるじゃないですか」
「まぁ今から火を起こすから、見てるだけならいいぴょん」
そして、わるものさんについていくと、既に木がある程度ある場所についた。焚き火をするような感じだな。
さてと、どんな感じで……。
パキッ! ボォォォォ!
「へ?」
わるものさんが、木の実の上を折ったと思うと、そこから火がおこった。
それを木に近づけて、火をつける。
そして、火が木に燃え移って火が燃え盛る。
「あのー今何しました?」
「? 見てなかったぴょん? でももったいないから2回はやらないぴょん」
「いえ、見てたんですけど、何をどうしたか分からなかったんです」
「節穴だぴょん。どうせ私を見ていて、火の実を見てなかったぴょん」
これは分が悪い。でっぱりに聞こう。
「でっぱり、今何した?」
「? 火の実を折っただけだにゃ」
「それで何で火がつくんだ?」
「知らないにゃ」
「え、知らない?」
「理屈は知らないにゃ。だって、木の実がなる理屈とか、草が生えてくるのとかも理屈は分からないにゃ。だから、これも理屈は分からないにゃ」
「まぁそれもそうか」
ライターとかも火がつく仕組みなんか知らなくても火はつくわけだし。
「あ、火がついてるわん。暖かいわん」
その場所にふろが走ってくる。
「お、おい、ふろ……」
「何だわん?」
「その格好はちょっと刺激的すぎないか……」
ふろはもともと他のメンバーと比べても露出の多い格好をしているが、今の格好はいわゆる全身水でびっしょりで、薄い上のシャツが完全に透けていらっしゃるのである。なぜか敬語になった。
「何見てるんだぴょん! けだものぴょん!」
「あははー、でもシュウジくんなら気にしないわん」
「ちょ、ちょっと何言ってるにゃ」
「だって、シュウジくんが来てから、でっぱりちゃんもわるものちゃんも楽しそうだし、私も楽しいわん。だから、シュウジくんにはこれくらいなら……、いいかなって思うわん」
「もー、駄目だよふろちゃん。もっと女の子は貞淑にしないと。もー」
そこにがらくたさんも来た。
「えー、そんなに胸をしっかり出してるのに、貞淑とか言っちゃうわん?」
「こ、これは隠れないだけなんです~。完全にしまうと呼吸が苦しいんです、もー」
「シュウジ?
「シュウジくん?」
「タジマくん……、ケダモノ……」
「え、えーと、何でみんなこっちをさげすんだ目で見てくるのかな?」
「シュウジ……。がらくたちゃんを見すぎだにゃ」
「……、普通の格好をしてるだけなのに、透けてる私よりもがらくたちゃんを見てるわん……」
「あんなものに目を奪われるなんて……。最低ぴょん」
いや、待ってくださいよ。だって俺男ですよ。あんなに大きい胸と、それを惜しげもなく見れるチャンスが、無料であるんなら、そっちに目が行くのは仕方ないだろう。多分将来的に、今の状態を手にするには、多大なお金がかかるだろう。
いや、今お金あるから、そういうところにいけるのか。どうせ還元するなら、そういうところにお金を使ってもいいのでは? 16歳から入れるかどうか知らないが。
「シュウジ……、がらくたちゃんのおっぱいをガン見しながら、何真剣な顔をしてるにゃ」
あ、まずい。考え事をしてるのに、目線がそのままだった。しまった、もったいない。集中してみてなかった。
「……。えーと、シュウジさんなら……、ほどほどにしてくれれば……もー」
「私に注意しておいて、自分はいいのかわん!」
「だって、私は普通の格好だから……もー」
「その胸のどこが普通なんですかぴょん! 私より年下なのに、なんですかそれはぴょん!」
「つ、つかまないで~、もー」
「わるものちゃん、落ち着いてにゃ」
女の子4人がかしましく過ごしている。ああ、なんと平和なことか。この光景友人に見られたら、爆発しろと言われかねんな。
「わ、わるものさん」
「な、なんだぴょん」
暴走しているわるものさんに声をかけるのははばかられたが、何とか耳を貸してくれた。
「この火の実ってどうやって手に入れるんですか?」
「? 別にいらないぴょん。火を買うくらいのお金は十分持ってるぴょん」
「いえ、そうなんですけど、いざというとき便利そうじゃないですか」
火の実は簡単に言えば、火を携帯できる持ち物に近い。俺は魔法適正ないし、火の使えるヒトガタを買うようなこともしたくない。
「ロロロレとサンタマリアの国境ギリギリの山にだけ生えてるぴょん。そこには私しかいけないぴょん」
「どうしてです?」
「えーとね……、それはにゃ……」
「うーん……わん」
何かでっぱりもふろも言いよどんでるな。何か深刻な理由でも?
「そこに安全にいける道が小さすぎて、わるものさんしか通れないんです。もー」
「あーあ、にゃ」
「言っちゃったわん」
「…………」
あ。プルプル震えて涙目だ。
「わ、私はみなさんのためにしょうがなく、取ってきてあげてるぴょん!」
「うん、いつも感謝してるにゃ」
「本当に頼りになりますわん!」
「わるものちゃんがいなかったら、火を起こすのも大変ですから。もー」
あ、明らかに機嫌がよくなった。わかりやすいな。
「その道を通る以外は手に入れられないのか?」
「火の実の木はそこにしか生えないにゃ」
「でも別の道が……」
「別の道はダイルの住処にゃ。あの狭い道だけは、ダイルが通れにゃいから安全にゃのにゃ」
「え、ダイル?」
何か聞き覚えがあるような……。
「ダイルは縄張りにさえ入らなければ温厚だけど、そこを荒らしたら見た目に反したものすごい速度でおそわれるわん。あれは私でもギリギリ逃げ切れるかどうかだわん」
「あの縄張りのところにも、たくさん火の実が生えてますから、もし進入できれば、もっとたくさん火の実が手に入るんですけどね、もー」
「唯一縄張り外に生えてる木が、週に2回しか実をつけないから仕方ないぴょん」
「なるほど、だから、サンタマリアでも、火の実なんか見たことなかったからな。その辺しか生えないのか」
「あの当たりの気候は暑いわけでも寒いわけでもないけど、なぜか絶妙にあそこしか生えないぴょん。何度か栽培してみようと思ったけど、成功例はないぴょん」
なるほど。でもダイルって、ああ、俺が最初に会ったあいつらか。ああ、思い出した思い出した。
あれなら、俺勝てる気がするな……。実際に勝った事あるし。
「え、ダイルに買ったことあるにゃ?」
「へ?」
「すごいわん! でも良く考えたら、ドラゴンを倒せてるんだから、それくらいできるわん!」
「いやいや、でもダイルを俺が倒しちゃって、それでどっかに迷惑をかけるかもしれないし」
「心配ないです。ダイルは習性として、縄張り争いに負けたら、大人しくその場を離れます。つい先日も、川の近くにいた小さな群れが、解散して遠くに行きましたから、もー」
「それに基本的にはダイルはヒトやヒトガタを嫌いますから、自分でなわばりを新しくつくるときは、また人気のないところに行くぴょん」
「ああ、そうなんですか」
「というわけで、もし良かったら、ダイルの縄張りをなんとかしてくれると嬉しいにゃ」
「いやいや、別に困らんだろ?」
「大丈夫だぴょん。私がこれまでどおりやってれば問題ないぴょん」
「でもあの道がけじゃないですか。わるものちゃんは身のこなしがいいですけど、もし何かあったら……、もー」
「え? 道が狭いだけじゃないんですか?」
「道が狭いのはもちろんですけど、崖になってるところも通りますから、よほど大丈夫だとは思いますけど、万が一があったら、って、いつも心配してます。もー」
ああなるほど、道が狭いだけじゃなくて、単純に道が危ないのか。
「べ、別に最悪崖から落ちても、私の身のこなしだったら、死ぬことは無いぴょん」
「とはいっても、ダイルがいなければ安全なんですよね。確実にできるかどうかはわかりませんけど、俺、ちょっと行ってきますよ」
「わ、わざわざ危険なことをすることはないぴょん。余計なことをしなくてもいいぴょん」
「でも、仮にうまくいけば、いろいろ便利になりますよね」
「そ、それはそうだぴょん」
「俺は皆さんにお世話になってますから、その恩返しもありますし、俺もこの火の実は欲しいですから、結局は俺の自己満足です。ならいいですよね」
「……。勝手にやるのを止めれないぴょん。場所だけ案内するぴょん」
なんだかんだでまた俺は戦うことになった。何か俺の理想の方向になかなか向かわないな。
だが、もし火の実がたくさん手に入れば、いろいろ楽になる。
「……数多!」
ギリギリダイルの縄張りではないところまでわるものさんに案内されたが、数が半端ではなかった。
簡単に言うと、かなり大きなダイルが1匹高いところにいて、周りを最低でも30匹近いダイルが囲っている。
高い地点の反対側は見えないから、実際にはもっと数が多い恐れがある。
「どうするぴょん?」
「あの1番大きいのに接近できると話が早いんだけどな……、あ、そうだいいこと思いついた」
「? どうするぴょん」
「まぁ見ててくださいって」
俺は最近レベルが75になっていたことを思い出した。それはつまり、神にもおススメされた、あの能力が使えるということだ。
「特別型フェロモン!」
『変更を了解いたしました。ただいま近くには、『ダイル』と『兎のヒトデナシ』がいます。どの種族にあわせますか?』
おお、今日はおしゃべりだな。
「ダイルだ」
『かしこまりました。ちなみに、解除後も3分ほどこの効果は持続いたします』
理解してる! ちゃんと説明書は読んである。
「さてと」
そのまま俺は何の警戒もなくダイルの群れに入っていく。
「あ、危ないぴょん!」
後ろでわるものさんが叫んでいるが何の問題も無い。
ダイルは大人しく伏せたまま、全く動こうとしない。
説明書どおり!
特別型フェロモンは、その特定の種族に好かれるにおいを発するもの。
その安心させる匂いを出している対象に、襲い掛かってくることはまずありえないと書いてあった。
そして、俺は堂々とこの縄張りのトップらしきダイルの元に到着する。
「さてと、ここでインフェクトラ1にチェンジ」
俺がインフェクトラ1に変更しても、すぐには特別型フェロモンの効果は切れない。コールでもわざわざ説明してくれたが、これだけは効果が持続する。
その隙にインフェクトラ1で、親玉に俺の匂いを移してと。
で、効果が切れる前に、なわばりの外に逃げてっと。
「タジマくん、だ、大丈夫だったぴょん」
「あ、悪い悪い。心配かけたか?」
「べ、別に心配してないぴょん。でも、タジマくんに何かあったら、私が村に戻りづらいぴょん」
「ああ、そういうことですか。すいません」
「あ、頭を撫でるんじゃないぴょん!」
あ、間違えた。気をつけていたのに。
俺はもちろん頭ナデナデを自然にできる男ではない。ただ、わるものさんは小さいのだ。本当に子供みたいだから、頭の位置もちょうど良くてつい撫でてしまった
「す、すいません」
「ま。まったく……、髪フェチやろうだぴょん」
また毒舌の種類が増えてしまった。
「あ、そろそろかな。わるものさん。もう少し安全にこの辺りを見れる場所あります?」
「あの岩場の上なら安全だぴょん。ダイルは横の移動は早いけど、上下の移動は苦手だぴょん」
ということで、近くの岩場に上る。俺も頑張って上った。
『特別型フェロモンの効果が切れました』
『グゥルルル?』
『ガルゥ?』
ほんわかと過ごしていたダイルの群れが急に異変を感じたように殺気立つ。
「ど、どうしたぴょん?」
「まぁ見てれば分かりますよ」
『グガァァァ!』
ダイルの群れが親玉のダイルに襲い掛かる。
「な、仲間割れぴょん? ダイルがどうしてぴょん?」
親玉のダイルは強く、どんどんダイルを蹴散らしていくが、それでも数が多すぎて、結局倒されてしまう。
岩場から見た感じだと、親玉のダイルと、10数匹のダイルが倒れてしまっていた。
「な、なんで既に死んでいるのに、あの親玉のダイルを攻撃するんだぴょん?」
ああ、死んでもにおいは残るのか。
「さて、これでインフェクトラを解除」
『グルゥ?』
『グガァァァァ!?』
匂いがなくなり、全てのダイルが正気に戻ったようである。
その彼らの目には、無残な姿の親玉。
「最後は……、こっから出てってもらうか、いつもの!」
1番つかうやつはお気に入り登録できるということで、セパレートランク2はそうしてある。
「連発だ!」
俺は軽く指に汗をつけて、連続で指パッチンを行う。距離は30メートルくらい離れているが、これくらいなら、届く。
『グルルァ!』
そして残りのダイルを攻撃する。
ダイルは溜まらずなわばりを捨てて逃げていった。
ダイルは仲間意識が強いのか、倒れているダイルや死んでしまったいるダイルも連れて行ったので、非常にうまく片付いた。
「一応何日かあけて、ダイルが戻ってきてないか確認しましょう。今日は一旦、この辺の木から持っていける範囲で持って行きましょうか」
「う、うんぴょん」
珍しく戸惑った表情のわるものさんを連れて、ダイルの縄張りに入り、火の実を10個ほど頂いていった。
「ただいま」
「ただいま……ぴょん」
「あ、お帰りどうだった……ってすごいわん!」
ふろが出迎えてくれて、俺の手元を見て驚く。
「うにゃ~、すごいにゃ」
「すごいですね。もー」
「驚いたぴょん。いったい何をしたんだぴょん」
「わるものちゃんついていったのに、分からなかったわん?」
「全く何も分からなかったぴょん。ダイルの群れに入り込んだと思ったら、ダイルが仲間割れをして、その後タジマくんが、指を鳴らしたら、みんな逃げていってしまったぴょん。ほとんどタジマくんは何もしてないぴょん」
「本当にすごい能力にゃ。何で追い出されたか分からないくらいにゃ」
「不思議だわん」
「でもこれで、わるものちゃんが無理をしなくてもよくなったら本当に嬉しいですね。もー」
「……、一応お礼を言っておくぴょん」
もちろんその日以降、その場所にダイルが出ることはなくなり、火の実はとり放題になった。




