崩壊21
月明かりがふんわりとオルレアンを照らす。
とは言え山の頂上から見えているだけで、距離はまだまだと言えた。
だが最早彼らには目と鼻の先のように思えた。
見覚えのある古い建物と、見慣れぬ新しい建物が混ざり合って、遠巻きに見るオルレアンの見た目は不揃いである。
この事は、確かにこの街は一度崩壊を迎えた凄惨な事実と、復興の兆しを形にしている現実を同時にシキに味あわせた。
「帰って来たんだ……マジで」
「シキくん……私……」
「着いたら話しますよ。どうしてあの街が、ああいう風になってるのか」
シキは遠回しにし続けた事実を、伝えなければならなかった。
もうこの『なんとなく言えてしまえそうな雰囲気』を逃したら、いつ自分から彼女に伝えてやれるのか、分かったものではないからだ。
そして覚悟を胸に秘め、歩き出そうとしたシキの足を止めたのは、ユウゼンの声色だった。
「オルレアンだ……僕の……住んでいた街……本当にあった……」
ユウゼンの声は微かな震えを帯びていた。
「いざ目にすると帰りたくなったろ」
「本当だね、ここに来て、僕にも欲が出てきたよ……あんなに諦めにも近い思いだったのに……」
次第に震え声は涙に濡れ、その眼に月の光が当たり、キラキラと光を反射させた。
言葉を知る前の幼児のように、ただひたすら泣き顔で街を見続けて、ただ一言だけ、ついに己の欲望を解き放った。
「僕は、オルレアンに帰りたい」
「ああ、帰ろうぜ。雑魚共はもう俺に任せろ」
ユウゼンの立ち姿と声からシキは彼はだんだん衰えて行っているのを感じた。
「うっ」
「大丈夫か?休むか?」
少年は、木末から枯れて来る立ち木のように、いつ折れてもおかしくはなかった。
その小さな身体で、この長きに渡る旅路は厳しいものがあったのだろうか。
ユウゼンの達観した立ち回りと態度は、諦観から来るものなのか、シキは掴み損ねている。
「いや、僕の事は構わないで、早く行こう」
本当は、故郷への想いは捨てきれなかったのだ。
厚い雲の隙間からのぞかせるあの月の光のように、途切れ途切れだった意識さえもハッキリする。
「今の僕を突き動かしているのは、今のオルレアンを見てみたい。その想い。たった一つ」




