アルフレーガシ15
いつもの小川のせせらぎだけが、あいつにとって真っ暗な夜の耳印だ。
忘れたのか?俺もヒトだってこと。
木々の隙間から覗くような悪趣味さは、全シンマネを搾り尽くして紅慶刃を見せてやった事で相殺だ。
最低限の睡眠を摂り、目が覚めた俺は燦が寝ずにどこかへ行ったのを知り、修行の再開をしている事を悟った。
案の定いた。
機械的に幾度となく水をすくい、小石を入れ、その手を一点に見つめ力を込めていた。
大変頑張り屋だ。
あの子を救いたいって気持ちはマジらしい。
生半可な努力じゃあ覚えられねえのを、俺は身を以って知っている。
そういえば母さんが居なくなった以降のオルレアンでの修行、ユイさんも、結局覚えられなかったな。
属性変化は氷が使える事でクリアしてたんだけど、あの人は無数の刃を作り出す事が出来ずにいた。
球体に留められずに霧散していくのを見て、泣きそうになってたな。
刃って事はシンマネを圧縮させて小さくしたものを、沢山作るって事だから、本当に難しい。
「おお〜!小石が動いたぁ!」
若干コツを掴んだみたいだな。
次のステップは夜が明けてからにしよう。
「おいおい、マジかよ……」
睡眠の続きの為に、宿に戻ろうと背を向けようとした瞬間、俺は燦がどれだけバカみたいにシンマネ形質変化の修行を繰り返していたのかを知った。
小刻みなんてものじゃない。
凄まじいくらいの幅で、手が震えていた。
未だ嘗て見たことがない程に、震えていた。
愚直に、気の遠くなる量を一日で行なっていたんだ。
「馬鹿野郎、やり過ぎだ」
「あっ、あれ?シキ、起きてたのか……」
すぐに肩を貸したよ。
痙攣を起こす手を、小石を打ち付けた痛みで誤魔化し、ずっとやっていたらしい。
「お前、やっぱ狂ってるわ」
「えへへ、そうかな……」
宿に戻り、最低限の手当てだけはしてやった。
「褒めてんじゃねえよ、引いてんだよ」