オルレアン奪還作戦17
~シキ視点~
シーセルの言った通り、こいつは誰も殺したことがないんだ。
ナイトメアに戦うことに喜びを見出すヤツは多いが、こいつはその実誰よりも戦いが苦手なのだ。
助けてやりたい、と思う。
「桜吹雪に来ないか?」
「なんだって?」
「お前の獰猛さと戦いへの恐怖、その弱さを全て含めて、お前の力が欲しい」
「いいぜ」
「なら」
「だけど、俺にはオマエを殺すっつー任務があんだよ。オレより弱いヤツに、従うつもりはねー」
そういってこいつは失いかけた闘志をまた瞳に宿した。
ほんの少しだけ残ったシンマネをめいいっぱい使って、このガキは剣を用意した。
「そんなボロボロな状態で何を言ってんだ」
こうやって何度も自分にとって不利な戦いに臨んでいったのだろうか。
いや、自らが慕う者への礼儀なのかもしれない。
実際は万全な状態で俺とのタイマンをする、という状況ならば、俺は勝てないだろう。
向こうもそれはわかっているはずなのに。
「仕方ねえな、じゃあ俺が一本取ったら、おとなしく来いよ」
「いいぜ」
「じゃあ、はじめるぞ」
俺も剣を一本リベールから受け取り、こいつと戦った。
少し焦げた緑の匂いが残る森林地帯で、剣がかち合う音だけが響く。
粘り強く、ずっと追いすがるように攻めてくる剣先が、何を意味しているのかを俺に理解させようとしてくる。
「オラオラァ!こんなもんかよ、桜吹雪のリーダーってのは!」
「強がるのはやめろよ」
ヒトと違って、ナイトメアは心の動きのようなものが表情に出てこないから、確信が持てない。
「うおおおおおおおッ!!!」
動きに無駄が多すぎる……もうバテてるじゃねえか。
ボロボロになった身体を引きずるように、俺に攻撃を繰り返すその姿に、ある種の哀れみを感じた自分がいると同時に、この行為への違和感をぬぐえない。
次が最後の一撃になるだろう。
そう感じ、意を決したようにこちらに突撃してきた彼の剣をはじきとばそうと、剣を構えた時。
ライは俺めがけて走りながら、剣を力いっぱいに投げつけたのだ。
不意に行われた予想のできない動きに戸惑いながらも躱した。
そのままライは突っ込んで来る。
シンマネなどかけらも残っていないその身体で何をするのか。
そんな意識が少し残っていたのかもしれない。
「ぐっ、しまっ……」
突然のめまいに意識を一瞬持っていかれそうになる。
桜吹雪のメンバー全ての視点を俺一つの意識が共有した代償として、俺もまた、本来はたってなんていられないくらいの消耗をしていたのを、感じていた。
この時のライの心情はどのようなものだったのだろうか。
「オラァアアアアッ!」
俺には予想できるはずもなく。
「な……んだと」
前方に構えた俺の剣は青に塗れた。