オルレアン奪還作戦16
~ライ視点~
「オレは……」
「よお」
周囲を見回すと、ここはオレが戦っていた森なんだとすぐ気づいた。
ドンパチしてた臭いがするからな。
「生きてん、のか……」
「介抱したのは俺だけど、本当の意味でお前の命を救ったのはお前と戦っていたヤツだ」
オレはあのアクセルからもらった最後の一撃を受けて、地面へと激突せんと急降下していた。
あの最後の一撃がヤツに届かなかったことが別に腑に落ちなかったわけじゃねえ。
「クククク……タイマン張ってたつもりになってたオレの敗けってことだな……ユイからのお守りまで持ち込みやがって」
もう羽広げて激突を避けようとしても、余力が残っちゃあいねえよ……まだ戦いたかったってのに……
アイツの攻撃を耐えるために、自分でも初めてといえるほどの、めいいいっぱいの毒を身体に仕込んだ影響で、身体の力が抜けていく。
全身がニュートラルになったその時、オレは気を失った。
死にたかったわけじゃあねえが、沢山の敵を屠って、それを生きがいとしているようなヤツなんざ、とっとと死んでしまえと、いつも自分に対して思っていた。
俺ほど自分が嫌いなヤツもいないと思う。
そんなことより。
「オマエ、桜吹雪のボスか……?」
「ああ、そうだ」
スカした態度ではあるが、こいつはやり切ったようなすがすがしい顔をしていた。
水に塗れたように、汗というヒトにしか出しえない証を見せつけながら。
それだけで結果が分かった。
オルレアンは、再度奪われ返されたんだ。
だがオレの受けた任務は、コイツを殺す事だった。
それさえ達成できればオレはそれでよかった。
アゲハに褒めてもらえるのだから。
「ククククク……オレを助けたってことは、お前が死ぬってことにならねえか?すげえ疲弊してるならよぉ」
オレの毒を帯びたシンマネは、今なら少し使える。
手をかざして、使役しようとした。
「ふ……」
こいつはスカした態度そのままに背を向けて、去っていこうとする。
だからあえて大きな音を出して、燃え盛る火炎をヤツに飛ばした。
なんでここまで躍起になったのだろう。
きっと、オレは。
殺されたかったのだろう。
自分の力を誰かにふるい続けて、快楽を得続ける。
そんな日々の中でアゲハに出会った。
彼女は全てを手に入れていた。
世界を作り変えちまうほどの力。
それだけじゃなく魅力的で、全てのナイトメアをたやすく従えてしまえるほどの表情の動き。
それなのに優しいなんて、当時にオレにとってはズル過ぎた。
それと同時に自分の存在へのむなしさも強く感じるようになったんだ。
生まれた時から一人で、この力を利用し、利用され、誰かを殺せればそれでいい、というような。
でもオレはそれが性として、背負うべきものとして、この地に生まれたのだから、もうどうしようもない。
向き合うしかないのだ。
「死ね!」
なぜだ、こいつはなぜ振り向かない。
とっとと振り向いて躱して、オレを殺しに来い。
どんどん俺のシンマネの距離が近づく。
結局ヤツは最後まで振り向こうとしなかった。
「テメェ、なぜ避けようとしない。まだ終わってねえだろうが!」
オレは、ヤツの首元にかみつけなかった。
「くくく、ハハハハハハハっ!」
笑ってんじゃねえぞ。
「シーセルがそう言ったんだよ」
「ああ!???」
「『彼は目が覚めたら、すぐさまシキさんを攻撃すると思いますが、それは空振ります』ってな」
「理由を聞いたら『分かるんですよ。彼は結局本気を出してなかったんです。オルレアンを痛めつけてた時も、結局誰も死んでないんでしょう?ぼくも戦った上で疑惑が確信に変わった。本気なんか出したことない子なんですよ。だって他者を殺したことがないんだから』」
「オマエ、そんな話を信じてんのか?殺されるかもしれなかったんだぞ?」
「信じたよ」
「そこまで他者を信じることができるのか……間違いなくオマエは殺したぞ。オレは殺したぞ!」
アイツを見ていると、頭が痛くなってくる。
どうしようもない嫌悪感がこの空の器で暴れまわる。
「そうか」
「久しぶりにユイに会った」
「知ってるよ」
「昔からさんざんオレはあいつと戦ってきたが、その時のヤツは、すごく必死だった」
不思議な感覚だった。
なぜオレは聞いてもいないことを敵にベラベラとしゃべったのだろう。
「見違えるほどに強くなっていて、オレも本当はどうなるかわからなかった。勝負は一瞬で終わったが、今までで一番楽しかったんだ」
「ユイは、俺の為に戦ってくれたんだ。ヒトはナイトメアに比べて脆い。簡単に死ぬ。同じように俺も黒に囚われちまったのを、助けてくれた」
「そうだ。アイツは今までに何度も夢楼草を取りに来た。適当にオレをあしらってるみたいに相手して、それを何度も繰り返した。だけど、昨日はちげえ。なりふり構ってられねえって感じで、すぐにオレを殺そうとしてきた」
「あいつらしい……」
「もう一度、あいつと戦わせてくれよ。アイツの存在が、オレの生きがいでもあるんだよ」
「アホか、そんなこと許すわけねえだろ」