オルレアン奪還作戦15
右腕に全てのシンマネが自然と集まっていく。
(自分の意志で自在に動いている感覚。これがシンマネコントロールなのか)
なんとしてもライを倒し、作戦を成功させるという意志の強さが、おそらく一時的にだが、シーセルの苦手とする壁をぶち抜いた。
「ハァアアアアアアアッ!」
先回りをしてライが打ちあがってくるそのタイミングで最大の一撃を叩き込み、硬質化した地面に激突させる。
だからこの一撃次第で全てが決まるのだ。
そう思うと力も入る。
右腕がメキメキと音をたてている。
「届いてくれッ!!!最後の一撃!!!【桜吹雪流・地獄道・燈火】」
渾身の突きを放つ!
「ツメが……甘いなァ……くっくくくく……」
拳が腹部に叩き込まれる時、ライは吐き捨てるように笑った。
シーセルは、その通りだと思った。
この瞬間だけで疑問に思うべきことはたくさんあったのだと悟ったからだ。
ユイさんから聞いた。
このライというブレーキは自分の背に炎を展開させて、それを翼のようにして飛ぶことができるのだと。
それならなぜそうしない?
それどころか連続攻撃をなぜ甘んじて受けるような真似をしたんだ。
イサリビによる体の消耗が思ったよりも早くて、勝ちに焦り過ぎた。
今はじめて見た彼の顔を見て完全に理解した。
このブレーキは自分の身体にこれ以上ないほどに毒を仕込んで、痛覚を麻痺させていたのだ。
「そんな大それた状態、すぐに限界が来るよなァ?だったらオマエはその間にオレを倒さなきゃならない、だから限界まで攻撃を繰り返して最後に大技を持ってくるってのは分かってたんだよ!!!」
「痛覚を消し飛ばしたおかげで残ったエネルギーをじっくりチャージしてたんだぜ、こっちはなあ!!!!」
「イッちまえよなあ!!!【プロミネンス・フレアact2】」
一点集中の鋭く硬質化された炎が二人がもっとも近づいたこの瞬間に指先から射出される。
なんていう信念だ。
なんという勝ちに対するこだわりだ。
最後まで自分を信じていたからこそ、彼にとって残り少ないであろうシンマネを攻撃に回すことができるんだと。
こんなナイトメアをぼくは相手にしていたのか。
最早、後ろに控えるアゲハの存在が不気味に思えた。
甘かった、心意気の差で負けていたんだ、ぼくは。
彼のカウンターを受け入れようとしたシーセル。
「……えっ?」
自分の胸を貫いているはずの炎が、届いていない。
それどころか、今自分の身体がひんやり冷たく感じている。
「これは、ユイさんの……?」
シーセルを氷の膜がボール状に囲んでいる。
これに守られたのだろうか。
「もしかして……!」
~作戦開始前~
「ほらよ」
「なんですかこの腕輪」
「まあ付けてろ、お守りみたいなもんだ」
見ると腕輪にはめられた石がなくなっている。
何があっても傷さえつけがたい、頑丈そうな石だったのに。
「シキさん……本来なら自分に付けるもののハズだったのに……」
自分が死を覚悟した意志をキーに、展開する防御壁として。
まあ、ぼくがユイさんに頼んだことだったんですけど、まさか腕輪にして渡しておくなんて……
普通にシンマネを渡すだけでいいことなのに、身につけるものとして渡す。
ヒトの考える事はまだよく分かってないですね、ぼく。