オルレアン奪還作戦9
つまりそれは、ぼくの能力を彼にずっと預けるということを意味していた。
心が読めてしまう苦しみはぼくにはわからない。
でも与えた途端、みな一様に苦しそうな表情をしていた。
経験で分かる、あれはおそらく何人もの複雑な深層域さえも一気に感知してしまうものなのだろう。
ぼくを追ってきたかつての村の者に、一通りの多い場所に誘い込み、試しに与えてみたところ一瞬にして発狂してしまった。
精神が持つはずがない。
そのことを伝えると。
「俺はお前を軽率に誘った責任があるってのもある。俺も昔はお前のように何もできない、剣だってロクに扱えない雑魚だったんだが……桜吹雪のメンバーのほとんどが俺の力で従わせているくらいにはなんとかなれた」
「だから経験で分かる。たとえシンマネがうまく使えなくても戦える男を目指す。素晴らしいんだよお前は。だから能力とお前自身を縛っているそのシンマネを解き放ってみろ。俺はお前のその恐怖をドーンと受け止めてやる、いいな?」
その時の豪快な笑顔にばくはどれほど救われたか。
実際彼はその言葉通りぼくの能力を受け止めた。
それどころかそれを戦略の一部として重用してくれた。
ぼく自身は能力の制御の必要がなくなった結果シンマネコントロールがちゃんとできるようになったかと言えば、そんなことはなかったけど、そんなことはもう問題じゃない。
この人を守ることができる、それだけでぼくは更に力を手にすることができる。
より高みを目指すことができる。
「うっうっうう……うあああ~~~!」
まばゆい夕焼けが涙にぬれた。
「行きますよ……!」
「さあこい!」
シーセルは燃え盛る火の中に飛び込むように爆速の拳をふるう。
その拳は、ライに届く事はけっしてなかった。
故意に途中で止めたからだ。
なぜなら彼の狙いは「火」そのものだから。
まっすぐに突き出した拳はすさまじい風圧を生み出し、その風が火の壁さえ揺らめかせる。
「何!?拳一つで火をぶっ飛ばしただと?」
そのことに気を取られたその一瞬は、シーセルが何よりも欲しているものだった。
「せぇえいッ!!」
「ぐあっ!」
火に阻まれてしっかりとダメージは入らなかった。
それでも完全防御を崩しつつある、わずかにタイミングが外れていく。
(おお、優勢みたいだねえ、彼)
「あいつはナイトメアのクセにな、俺よりもシンマネコントロールができない、近接戦闘のセンスもからっきしだったけどな。だからこそ、最後の手段である、残された近接戦闘技術をどのナイトメアよりも磨き、時間をかけ、全てを注ぎ込んだ、努力の味を知ったナイトメアだ」
「多分、あいつだけだよ。本当の意味で自分を信じてまっすぐ努力をし続けたナイトメアは。」