オルレアン奪還作戦8
「なあ、あいつ……なんでナイトメアなのにあんなにセンスないんだ?」
がむしゃらに修行を繰り返すシーセル。
シキはそんな彼を気にかけていた。
『そらあ、能力の制御にシンマネを割いているからだろうねえ』
リベールが彼のシンマネの流れや状態などを感知しながら推察する。
「能力を抑えるのにシンマネを使い続けるから、他のことに転用してってできないのか……どんな能力なのかわかるか?」
『知らねーよ。でも』
「でも?」
『おそらく過去にその能力が災いしてトラウマになってるフシがありそうだ。必要以上に力を入れ続けてるせいで、制御はできてるけど毎日無駄に体力も使ってるから本来以上のスペックが発揮されていない』
「なるほどな、さすがリベールだ」
今日は戦闘員の習熟試練……組み手。
まさに手も足も出ずといった具合に、必要以上に桜吹雪のメンバーの一人が、シーセルを叩きのめしていた。
「ぐあっ……ぐっ」
『これでわかったろ、シンマネも使わないで、近接戦闘だけで戦えるほど甘くはねえよ。身体がひ弱なヒトが戦えるのはシンマネでうまくごまかしたりして、戦ってるからだ』
「すみません……もう少しだけ、時間をいただきます。ぼくが弱いのは、修行が足りないだけです」
あの時シキに向けた偽りの笑顔など、もうかけらも残っておらず、一人の戦士として悔しさをにじませる表情に成り代わっていた。
桜吹雪に入って一週間もたたないヒトにさえ、大敗を喫するあのときのシーセルの気持ちは、シキには痛いほどわかった。
そのあと、シーセルは桜吹雪を出ていくのを見かけたシキは、こっそりあとをついていく。
『ボコボコにされすぎて折れたんで、抜けるんじゃないの~~?』
「いいや、あいつは折れてなんていない。昔の俺と同じ目をしていたからだ。くやしさと無力さを破壊しに行く男の目だ」
夕焼けに照らされる木の根元で、シーセルは修行を行う。
あんなに賢そうな男が、がむしゃらに戦おうとするのは、桜吹雪のメンバーの誰か目標にしている者がいるからなのだろうか。
何百回何千回と繰り返すなかで、彼の体力は底をつきたのか、膝を震わせながら、生まれたての赤ん坊のようにその場に崩れた。
「う……う…う…くっ…うっ…」
「シーセル、もうヘバったのか?」
「……!シキさん……何か御用ですか?」
すぐに立ち上がって、涙をぬぐいつつ、再開するシーセルに、シキは言う。
「確かに今日の結果はさんざんだったが、まああいつらは俺が修行を付けた。その力に差がついているのは必然だよ」
「……」
「でもな、お前はヒトのチンケな力とは違う。お前はナイトメアとして、俺が見た中ではおそらく初めての、努力ができる天才だよ」
「なんで、そう思うんですか……?」
「思うとか思わないとかじゃねえよ、それが真実だからだ。お前は俺も越えられる、最強の可能性に愛されている。力を手にしたら、俺をブっ倒して、桜吹雪から抜けちまってもいいぞ」
「……っ、そんなこと、できるわけないですよ。ですが……」
「話してみろよ」
「周りは与えられた課題をこなしているのみで、圧倒的に力をつけています。昔住んでいた村でもみんなが難なく力を手にしていくのを見てきました……ならぼくはその何倍もの量をこなすことで、付いていこうと考え、今日までやっていきましたが」
「まるで相手にならないんです……!報われる日がいつか絶対来ると、そう信じてやってきたのに……昔の記憶とは別の恐怖が今度は邪魔をしてきて、いくら力を尽くしても、ぼくは強くなれないんじゃないかと、不安で、不安でどうしようもないんです。今日の組手でも、身体の震えが邪魔をするんです……!」
涙に咽びながら、抑えていた恐怖をシキに吐く。
「教えてください……どうしたらいいんですか……!」
それを黙って聞いていたシキ、次にこう問いかける。
「怖いのか?」
「はい……すごく怖いですよ……あんたになんとなくでついてきたせいで、もう自分が信じられなくなりました」
ついには恨み言にまで吐かれたリーダーは、若干首を縦に振った上で。
「なら、俺がお前の恐怖の一つを受け持つよ」
頭をがっしりと掴んだ上で、悩める少年を救おうとした。