オルレアン奪還作戦6
生まれた場所がこの村だったシーセル。
つまりはまだ自分が能力を持っているのかすらわからないということ。
気にはなるものの、人数が少ない分周囲の密接なつながりがある村の仲間たちからは、こっぴどく結界の外から出るなと言われていたので順守してはいた。
仮に出ようとしたとしても、またなんらかの能力がそれを防いでいるのだろうことを、シーセルは感じてもいたから、なおさらである。
ある日、村の定例会議のようなほぼ全員が集まる出来事があって、幼いシーセルも出席していたその時に。
秩序は崩れた。
シーセルの能力は、彼らの中でも更に特異だったらしく。
「選択した相手に他人の心が読めるようになる能力を貸す」という能力だった。
シーセルが長と親しげに話していると。
結界の中にも関わらず能力が発動する。
おそらく結界を張り続けている長自身に直接なら発動ができるのだろう。
そのことを結界を張り続けて平和を保ってきた彼自身にさえ気づかなかった。
しかし、このことがきっかけで、長は知ってしまったのだ。
彼らアルド村の民が、それぞれの能力を使って、恐ろしい事を始めようとしているのを。
そうなった時、戸惑いからなのか一瞬だけだが結界が途切れ、制御という概念すら知らないシーセルの能力は他の村民にも伝搬した。
かしこかったシーセルは、その一瞬で全てを察した。
ぼくの力が、こうなるきっかけを作ったんだ。
村民が一斉に長に向けられた視線、その一瞬をついて、逃げ出した。
逃げなくては、ここではないどこかに逃げなくては。
きっと殺される。
途中、数人の追手から傷を負わされたが、命からがら逃げ延びた。
あの村の村民はのちに血学社と名乗り、シキの母、スイを襲撃することになった。
シーセルは持ち前の頭脳を駆使しつつ、しばらくはあらゆる地方を転々とし、数年が経過する。
そうして桜吹雪に来訪することに。
「ここは……」
たどり着いた時に、周りの目線を感じ、自分は歓迎されていないのを感じ、ここは組織体制が他とは違う、何かを成そうと明確な目的を持ったチームなのだろうということを感づいた。
そのような雰囲気の中だったので、出ようと考え始めたころに。
明らかに一人だけ、自分に向ける視線の種類が違う者がいた。
あれは、ヒトと呼ばれる者、貧弱な体をしたナイトメアと思えばいいと誰かが教えてくれたような。
その者がどうやらこの組織のリーダーらしく、シーセルは心情では驚き、それを顔に隠すことなく、温和を取り繕うように挨拶をした。
それを聞いた彼は、若干の戸惑いを見せながら何も言わず、物資をまとめている棚から傷の手当に使う道具を持ってきて、何も言わずシーセル少年の手当をしようとした。
「やめたほうがいいですよ、物資、少ないんじゃないですか?」
『どうしてわかる?』
「ここに入った時、みなさんがぼくを一斉に見て、明らかに敵意の目を向けてきたんです。そうなるとここは建物の作りも含めて一つの組織に近いものになってるのだと思いました」
『ほう』
「加えてあなたが物資のおかれている棚に向かった時も、結局は周りの視線で分かります」
『何得意げに語ってんだ、誰にでもわかるわボケ。ケガしてるヤツを見捨てるほど桜吹雪は落ちぶれてない。お前ら何見てんだ?物資の補充と周囲の巡回、さっさとやりにいけ!』
それ以上は何も言わずに、ぼくに傷の手当てをしたのです。
「桜吹雪、いい名前ですね」
『もともとこの建物がそう呼ばれてたんだけど、俺が乗っ取ったんだ』