オルレアン奪還作戦2
「そう……桜吹雪を捨てて、来るの?」
炎のように真っ赤な長髪をただよわせた少女が悩ましげな表情を浮かべた。
その目線の先には桜吹雪の軍勢が。
ずっとずっと遠い場所から、観測している。
「ん?」
「あれは」
ミハヤに植えつけた闇を取っ払った男だ。
わざわざくだらない戦いに巻き込まれて、何をしているんだ。
どうしてこんな事になるんだ、ヒトには死んで欲しくない、オルレアンなんか明け渡すからブレーキにはおとなしくしていてほしい。
でもブレーキは私の為に動くだろう。
安心して生きていく世界の創造を目指して。
『聞こえるか』
「シキの声だ」
『シーセルの能力で指示を出す』
脳に響く、でも周りの音はちゃんと聞こえる。
『しつこいかもしれないが、何度でもいっとく。お前らの仕事は敵を倒す事じゃないぞ』
『最前線で、敵の意識を引くことだ。かく乱のコツは意識を最大限自衛に向けて、ほんの少しでいいから攻撃してみる。敵陣ド真ん中に居座って圧をかけ続けろ』
「なるほど」
いい能力だな。
敵に作戦を知られることもなく、綿密な打ち合わせが出来る。
オルレアンの門をくぐると、その瞬間からあらゆる建物からナイトメアブレーキが出てくる。
遠距離攻撃が出来る者がそのたびに先制を取り、逆に攻撃をされたら付近にいる防御担当がシンマネを使い、攻撃を捌く。
僕たちは決して散り散りにならないよう、徹底されている。
だから近接戦が得意な仲間は攻めにいかない。
代わりに詰められたら不利をとられる防御担当、もしくは遠距離担当の側に常にいる。
攻撃は基本魔法のようにシンマネを使うメンバー達。
しかも仲の良し悪しを完全に把握しているシキの振り分けだ。
連携も完璧だ。
『かく乱隊、そこから二時の方向へ進軍!水路を利用して西へ移動!』
『燦は、後方へ移動し敵の攻撃を吸収しろ!』
「任せろ!」
その指示をして隊の背後に移動した瞬間、多数のブレーキからの不意討ちの遠距離攻撃が。
黒い塊が全てを喰らい尽くす。
『ウィル!バリアに使えるシンマネは何割くらい残ってる!?』
「体感5割だ!」
『ならレイと交代し、後方で防御を担当!』
シキは個人個人に命令を下す。
『そのまま進行し、30秒後に部隊を展開!敵を引き付けろ』
「フフフ…。やはり統制が取れてない、個人で戦う事しかナイトメアは知らない。こちらの指示通りに動けるナイトメアとヒトが連携を取れば条件はクリアしたも同然…。」
シキが不敵に笑う。
その表情とは裏腹に。
何人もの命を預かっている緊張から声が少し震えてしまう。
汗が噴出す。
シーセルの能力を使って全てのメンバーと感覚の共有をしている為、全てのメンバーの視点を一度に処理している。
精神世界で大量のモニターがずらりと並んでいるのをシキはイメージして、必死に制御している。
「リタ!二時の方向に砲撃!」
真っ暗な精神の中に画面の光が照らされている。
他者を引っ張っていくのに荒治療など必要ない。
ただ力を見せ付けて、付いていくのか否か、見ていればいい。
だけどこれは俺の力じゃない。
戦闘における、剣と常に正確な状況判断が出来るオペレートはリベールから恵みだし、今のこのやり方だって、シーセルがいなければ実現できなかった。
必要なカードは一通り揃っている。
後は俺が、やるだけだ。