オルレアン奪還作戦1
「今まで世話になったな」
『いえいえ!こちらこそ作戦に協力できなくてすみませんです!』
総勢500。
ヒト105人、アクセル385人、ブレーキ10人。
シキはシーセルに手招きして、腕輪を差し出した。
「なんですか、この腕輪」
「お守りだ、まあ持ってろ、あとは作戦通りにな」
「うん?ええ、はいお任せください。シキさんは安心して、指示出しを」
一まとめにあつまった桜吹雪が、神が贈ってくれたと思えるほどの快晴の元、本日にてオルレアンを奪い返そうとしていた。
彼らの瞳が向く先は全てシキの故郷。
桜吹雪がバラバラな種族で構成されているのにも関わらず、現在ここまでのまとまりを見せているのは、シキの一つの声によるものだった。
「桜が舞い散るその前に、俺達の革命を通す!各員、進軍せよ!」
『おおおおおおおおおおおおおっ!』
「うわわわわ、はじまった」
燦は半ば緊張気味に、シーセルが主導する、500名全員が参加していた作戦会議を思い返していた。
「作戦としてはかく乱部隊と本隊、後方支援隊と3チームに分けての一点突破でド真ん中にある本堂を乗っ取ります。それまでは決して散り散りになってはいけません。基本的にはみなさんのお知り合いの方々を同じチームに振り分けています。なのでその方を守りながら戦ってください。守ったら今度は背中を預けていきましょう」
高台から堂々たる出で立ちで、メンバー全員にシーセルは呼びかける。
「シキさんはあなた方の名や能力を全て把握していますので、それを踏まえて僕の能力を使って全員にその場で指示をお届けします」
燦の近くでメンバーがそれぞれ言い合いをしていた。
『あいつはたたかわねーのかよ』
『シキさん、俺達より強いクセして戦線に立たないのか』
『臆病者だな』
『てめえ、ヒトのクセしてあの人を侮辱するってのか?』
『黙れよ、俺はお前らナイトメアに家族を殺された。はむかうってんならお前からやってやろうか?』
『上等だコラ!』
『ったくくだんねえ』
『最近のアイツ、頼りないよな』
『女一人スカウトするのにどんだけ時間かかってたしよ』
彼らブレーキを含めたナイトメアは、ヒトながらにシキの力を認めて集った者達だが、その力を認めているだけで彼個人に関してはまるで認めてはいなかった。
長い期間、身動きが取れずに待たされていたので、それもまた、彼らには猜疑心を植え付けてしまう要因になる。
(やばい、シキが不在の間にぼつぼつと文句を言ってたナイトメアもいたにはいたけど、作戦の内容がきっかけで、今にも爆発しそうだ)
シキとユイがロワールに分断させられた後、オルレアン付近の拠点で、燦はさまざまなナイトメアとの交流があった。
かなりの時間、ずっと不在だった間に待ちぼうけを食らったナイトメアが、文句をもらし始めていたのを何度も聞いていた。
中にはトレーニング中の燦をバカにしたように見下すメンバーもいた。
弱いクセになんでここにいるのか、ロクに戦えないやつがいる場所じゃない。
「僕はもはやヒトなのかわかんないけど、これからの戦いは頑張るよ。何があっても見捨ててくれていい。それなら文句ないでしょ?」
「シキさん……」
荒れている様子を見たシーセルが、心配そうにシキに場を譲る。
「ありがとうな、シーセル。ここからは俺が」
(どうするシキ……ん、あの顔)
吹っ切れたようにさばさばした表情のシキが、燦からは見て取れた。
「俺、昔はヒトを疎ましく思うナイトメアが嫌いだった。ヒトと同じ姿をしてるのに、その存在が不気味で仕方がなかった。そいつらに何度も殺されかけたんだ。まるで人形みてえに、ただの意志も宿らないヒトの形をした何かが、ずっと俺や、ヒトを虐げ続けていた。多分俺にも肉親がいたんだろうな。記憶の断片しかもう残ってないけど、俺を守って命を落としたんだ」
「思えばあの時から、アゲハの憎しみが広がっていたのかもしれねえ。だからいつか生きて、やり返してやるってずっと思ってた」
相手の胸元に釘を刺すような、言い方だ。
「でもそんな俺を拾い育ててくれた『ヒトと家族になる道を選択した』ナイトメアがいた。そのナイトメアには確かに心が芽生えていて。まごころを俺にくれた。ヒトが愛を与えてくれたから、その人もまた、俺に優しくしてくれたんだ!」
高圧的なほど堂に入った演説にも思えたが、熱がこもっていた。
「ヒトの事を知った器に心で満たせるのが分かった以上、俺達に違いはねえ!ヒトもナイトメアも入り混じった、この桜吹雪がそれを証明している!」
(みんなが同じほうを、向き始めた……!)
「アゲハの欲望をそのままにしていれば、俺達は死ぬ。この世界に心が芽吹くのを恐れてな!俺はいつか花開くそれを守りたい!だが、お前らを導いて、みんなを守るには俺は、弱い。あまりにも足りないものが多すぎる!」
「だからもしこの作戦のせいで、誰かが死ぬようなことになったのなら、そいつと親しくしていたこの中の誰かしらが、俺のはらわたを貫いて殺せばいい!」
「俺は必ずお前らを守る!いつか花開く時までは、死ぬときは一緒だから!だから、今だけは、俺に力を貸してくれ!!」
シキが頭を下げると。
『当たり前だろ!』
滝のような歓声が構内を飛び交う。
一人一人が大声をあげる。
慢性的な消化不良のようなやりきれない感情がこういう形で爆発させる勢いを、シキが見せ付けていったんだ。
本来はああいう風にみんなを引っ張っているんだ。
すごいよシキ。
「ああ、行こうシキ」