心の在り処10
「だが、オレはお前には負けない!お前はオレが育てたなんて言うつもりはないが、お前にオレが負けるのは、なんか恥ずかしい気がする!」
「なにその理由!」
ユイは凍らせた短剣をつきたてた。
ライはすぐさま反応し、炎の剣でかち合いに持ち込んでいく。
ユイの剣はライの炎に消え、ライの剣はユイの氷がとけた水に消えた。
すぐに二人は一瞬のうちに武器を作り出し、激しい打ち合いに進む。
「まさかあのころの泣くしかできない女が、自ら前に出てくるまでになるとは……!」
ありとあらゆるものが沸騰し揉み返す、まさに修羅場ともいうべき決戦のさなか、ライはあることに気づく。
(この周囲を取り巻く蒸気で不意討ちをするのかと思ったが、違うな。まるでこの打ち合いに殺意がこもっていない。つまりユイの狙いは……)
ライは殴られでもしたようにのけぞりながら蒸気の外へ引く。
ようやく出たかと思うが少し間に合わなかった。
「くっ!」
ユイが周囲に撒いた水分を一瞬で凝固させ、巨大な氷の塊を生成させたのだ。
その塊に手足が取られてしまった。
よっぽどのシンマネをこめて作ったのだろう、空間が固定されているかのように全く身動きが取れない。
だけどもちろんそれは炎そのものを氷で閉じ込めるといったものみたいにまるで不可能で、実際は一瞬だけ、彼の動きを封じ込めているだけのものだった。
だけど赤子の手を捻るより簡単に氷を生み出すユイにとっては、その一瞬があれば十分だった。
ユイの濡れた長い髪が木漏れ日の光に輝く。
ユイを中心に出来た氷塊が研ぎ澄まされたドリルを象り、後ずさったライの硬直に差し込むべく突き出す。
「これで!」
「さよならだよライくん!」
「確かにな、オレが炎だけを操る方向で能力を特化させていたら終わっていた。だが」
「オレには別のシンマネが使える!それをずっと撒いていた。もちろん、水蒸気だったその空間にもなァ!」
一秒の数分の一よりも短い時のなかで、ユイの仕込みは悪夢の兵器として牙をむく。
「くあっ……!」
気の狂ったような暑さが爆発する。
ユイのすぐそばで。
四方八方に飛び散った氷の刃が、ユイを切り裂いていく。
「すばらしいシンマネだ、恐いか?光焔を前に魂まで燃やし尽くすこの力が」
ライの任意のタイミングで爆発を起こせる粉上のシンマネを、周囲に展開していた。
最も効果的な時に、その仕込みを発動させ、爆発させる能力をただぶつけるだけではユイには通用しないのを知っていたライは、ユイ自身の力を利用したのだった。
あまりにも硬い氷がくだけちった時、飛んでくるそれの恐ろしさは無数のガラスがユイを引き裂くのと同義だった。
肉がそがれていく。
強引に引き裂いていった氷の後には赤い肉があらわになってしまった。
「ヒトは体内に赤い水を秘めている……本当だったんだな。不思議だ……その液体が体外に出過ぎると、死ぬらしいな?」
「終わりだァ!」
黒い液体が、眉間から青白いその顔へ、あらゆる場所に見るまに、いくすじも流れだしている。
意識的に呼吸しないと、息ができないほどに、息が乱れる。
首が締め付けられたような息苦しさが、このダメージの大きさを実感させる。