心の在り処7
ユイは長い道のりをずっと歩いていた。
そそりたつ暗い原生林が道の両側を支配する。
彼を助ける為に、彼女からすればオルレアン奪還より彼の生死の方が大切でずっと重いものだから。
彼女に迷いはない。
「さて、と……」
オルレアンの巫女をやっていたころはずっと夢楼草を取りに行っていた。
来る日も来る日も不治の病に冒されるヒトを救っていた。
あの草はまだあるはずだ。
オルレアンの近くにある岩山の頂上にいけるのは私だけだから。
私がシキくんに背負わせてしまったものはとても重い。
想いを共有することは悪いことじゃないと感じているのではあるのだけれども。
その比率が問題なんだと思っている。
心は今すごく満たされている、だけどこれは苦痛を伴う幸福なんだ。
心臓を締め付けるような音がずっと聞こえる。
何も聞こえないこの地にずっと。
「お願い、有って……!」
この草を守るナイトメアがいる。
ユイが気の遠くなるほど戦ってきた相手だ。
『よぉー、相棒……』
「久しぶり」
ユイは氷で出来た剣を男に向けた。
眼は神経質に切れ上り、鼻筋が通って、ちょっと頬骨が高く。
身に着けているものは、どれも上質で趣味が良く、ほどよくくたびれている。
紳士的そうだが目つきが鋭くユイを見据える、少年だった。
お互いに幾度も戦ってきた。
彼は確かにオルレアン衰退の命を受け、ずっと自らの力を振るってきたナイトメアブレーキだが。
その使命以上に、強者との戦いを楽しみにずっと生きてきた。
その目はキラめいていて、代々受け継がれてきた巫女を彼は忘れることなく覚えている。
「認めているんだ、お前の力を」
何度も何度も戦った二人だが、その戦いは当人にはじゃれているようなもので、命をかけるには程遠いものだった。
ユイもまた、彼の性格は分かっていて、適当にあしらい続けていた。
「やっと戻ってきたな……」
「今日も遊ぶ?それならさっさと済ませない?」
「焦っているのか……?夢楼草が今ものすごく欲しいとでもいうのか?」
「……関係ないでしょ」
「結構、なら今日は特別に、オレの本気を見せよう。今日のお前の目先は圧倒的に夢楼草に向いている。隠せるわけがない。それほどまでに守りたいヤツがいるというわけだ……」
「ど、どうかな……」
「お前との付き合いはこれでも長いんでな、こういう時じゃないと、オレ達はちゃんと戦えないだろ?」
お互いの頬が少し綻んだその時。
周辺地域一帯が大きく揺れる程の大爆発が起こった。
少年の能力は爆発と炎のコントロール、全てを意のままに巻き起こすシンマネを飼う才能。
ユイは超硬度の氷をかまくらのようにつくり、身を守った。
しかしそれは一瞬で崩れかけるほどにダメージを受けた。
「ならここで、終わりにしてやるっ!」
「いいだろう、お前が死ねば、オレも生のしがらみ、肉体のくびきから開放できるかもしれない!オレ自身を殺してやれるかもしれない!」
「どっちにせよ死にたいんなら私におとなしく殺されろ!」
手をかざした先少年の周囲を取り囲むように渦巻く雹。
一瞬で凝固し、少年を捉えたが。
氷は散り散りになってしまい、少年の背には真っ赤な美しい翼が二翼。
すぐさま飛び立つ。
炎を操る力が翼足りえている。
その姿は、ユイには傷ついた翼でもっともっと翔けようとしている鳥のように、自分の生を最後まで試みようとしている、一人の戦士として当たり前のものにしか見えなかった。
「さあ!オレを殺してみろ」
ユイの周囲を幾度も爆破させていく。
振りかざす手に何度も力をこめて。