覚醒、受け継がれた能力10
「やった……のか。でも」
奴は倒された、だが、身に纏わりつくシンマネは消えることはない。
僅かな体力さえも掲げて作り上げたシンマネを弁慶刃に捧げたのだ。
(ユウゼンはもう、助ける事は出来ない)
(グラスホッパーに囚われて本物のナイトメアになる)
逃げ出したくなるほど心細くなる現実が、俺にも理解できた。
俺はこんなにも、ひっそりと静かに、それでと幸せに、生きていて欲しいと願った人はいなかった。
それなのに、この仕打ちは。
「き、気にしないでね。僕のやりたい事が、もう叶えられたんだから。だからそんなに悲しそうな顔をしないで、シキ」
「俺は、あんたに……生きていて欲しかった……一瞬だけでもいい、弱くなって欲しかった……!病院に行きたくないと駄々をこねる子供のような、そんな弱さを見たかった……!」
感情の封を開けるシキとは対照的に、ユイは、静かに氷の涙を流す。
「ナイトメアに痛みは、ないからね」
「いや、やっぱり嘘だ」
「僕だって、帰りたかった……もう少しだけでも生きていたかったんだ。あと少しだけでいい。もう少しだけでいいから」
ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうっ!
ナイトメアの中でも脆弱に結合して出来た不出来な身体に、グラスホッパーが噛み付くのは容易だっただろう。
「痛みなんかないはずなのに……胸のあたりが、苦しいんだ……!」
初めて弱さを見せたこの男に、俺は何をしてやれるのだろう。
悔し涙を流すだけなら誰でも出来るのに。
「ねえ、シキくん」
「えっ……」
「あなたはユウゼンくん自身の、本当の気持ちを引き出してくれた」
「ありがとう」
「大丈夫、今、痛いのを私がとってあげる」
ユウゼンの涙を見たその時、俺はユイからグラスホッパーのシンマネが消え去るのを感じていた。