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第2節 「部屋割り」

◆ホテルのロビー

 そのホテルの名はグルミーホテルと云う。階数は少ないが部屋数は多い。高さはないが幅がある建物だった。

教師「部屋割りは……決めていない。自由だ。各自勝手に決めること。一部屋に二人ずつ入れ。それで丸く収まる」

生徒「部屋割りは先生の方で決める、って前、云ってましたよねー?」

教師「自由だ!」

生徒「仲良し同士グループになって、そうでない人は取り残されるじゃないですか!」

教師「大丈夫だ。ここの平均気温は低くない」

生徒「はぁ?」

教師「外で寝たって、凍死しない」

生徒「はぁ……」

教師「死にたきゃ勝手に死になさい。以上」

刃沼(最近気づいたのは、どうもこの学校の先生は、いかにも教師らしい人を演じているのではなく、何か別の…、何かな気がして――)

デガラシ「刃沼、わたしと相部屋にしましょう」

 さっそくデガラシは刃沼を誘う。

刃沼「来ると思った」

 デガラシは微笑んだ。

刃沼(無邪気、文字通り、邪気が無いからの無邪気。そんな人だ。本当は一人がいいんだけどな。そうもいかないらしい。デガラシなら気兼ねもないし、信頼感がある、他の人より)

刃沼「いいよ」

 辺りにいる生徒の中には、当惑した表情でキョロキョロ見回す者も少なくなかった。

刃沼(なるほど。好きな人とグループを作りなさい、という指示の類は、あまり良いものではないね。きっちり生徒を相手にする先生なら別だけど……、生憎あいにくここの先生はそうじゃない)

ヘレネー「おいっ、ヘル、仲間見つけねえと一人になっちまうぞ」

 聞き覚えのある声だ。

刃沼「もう戻ってきたのか。早いなぁ」

ヘレネー「おっ、刃沼。なあ、部屋割り、ヘルと一緒になって――」

 ヘレネーは、刃沼のそばにいるデガラシを確認した。

ヘレネー「――くれねえらしいな」

刃沼「ごめんね」

ヘル「…………」

 デガラシは穏やかな表情でヘルを見つめた。ヘレネーはヘルの手を引っ張って、人ごみの中をかき分けていった。

デガラシ「妹さん、大人しいですね。人見知りなのかもしれません」

刃沼「私も人見知り」

「そうだったんですか」

ヘレネー「あら~ッ!! 平兵衛先生っ!! なんでここに!?」

 向こうから聞こえてくる。

デガラシ「大きな声ですね」

刃沼「ほんと。喧騒の中でも良く聞こえるよ」

 やがて人混みの隙間から見えた。ロビーに隣接したカフェでくつろぐ男とヘレネーは喋っていた。

刃沼「へいべえ先生、って?」

デガラシ「聞いた名ですね。えっと、確か、そう、ヘレネーさんのクラスの担任じゃなかったでしょうか」


◆刃沼たちの部屋

 ロビーを抜けて、エスカレーターで3階に上がる。

「エレベーターがあるんですから、そちらを使いましょうよ」

「エレベーターは止まると怖い。エスカレーターは止まっても階段になるだけだもん」

 廊下の一番奥まで進んで、ようやく刃沼たちの泊まる909号室を見つけた。室内に入る。デガラシは「わぁ~」とか云いながら、色々興奮しているようだが、刃沼は、そっけなく「狭いな」と云って、座布団に座った。

刃沼「よっこいしょ」

デガラシ「年寄りみたいですよ。よっこいしょって」

「心はもう老けてる」

 刃沼はお茶を2つ入れた。そしてデガラシのいる方へ、置く。

デガラシ「わざわざ入れてくれたんですね。その気配りに感謝です」

刃沼「毒見、お願い」

デガラシ「……。刃沼はいつも一言多いんです」

 デガラシがお茶を飲む。しばらくして、「大丈夫みたいだ」と云って、刃沼もお茶を飲みはじめた。

デガラシ「……」


 部屋のドアが開く。

ヘレネー「間違ったらごめんなさいよ。刃沼、ここか? また違うな」

 ドアが閉まる。

刃沼「おおぃ――」

 刃沼は、大きな声を出そうする、が、上手く出ない。デガラシを見て合図した。

デガラシ「ヘレネーさん!」

 いったん閉められたドアが、また開いた。

ヘレネー「ありゃ、いたのか!?」

刃沼「いたのに、出て行くんだもん」

ヘレネー「いやぁ~、繰り返していくうち、流れ作業になっちゃってな。確認したつもりになってたみたいだ」

デガラシ「あのー、全室確認していくつもりだったんですか?」

ヘレネー「部屋数、そんなでもないだろなと思ったんだけど、実際やってみたら多くてねぇー。参った。足疲れた。どっこいしょっと」

デガラシ(どっこいしょ……)

刃沼「民宿は、どうだった。それと妹さんの部屋は、どうだった」

ヘレネー「いっぺんに2つも聞かないで欲しいな。オレ聖徳太子じゃねえんだから。え~と……、民宿はだな。いくらノックしても反応がなかったんだ。で、仕方なくさっきこのホテルに来たってわけ。そしたら部屋割りができてねぇときたもんだ。案の定ヘルはオロオロしっぱなしでよ。他に一人でオロオロしている奴と無理やり手ぇつなげて一緒にさせたよ。それから、ホテルを出て、再びあの民宿へ。今度はおばちゃんが出てきて、泊まりたいって云ったら、あと一人泊まれるよ、てなわけさ」

刃沼「へぇ~」

デガラシ「そういえば、平兵衛先生も来ているんですね。何か話し込んでいたようですが」

 話に興味の失った刃沼は窓際まで移動して、肘かけと背もたれ付のイスに寝そべり、外を眺め始めた。しばらくヘレネーはデガラシと話し込んだあと、部屋を出て行った。ヘレネーと平兵衛先生は「話の分かる仲」らしい。ヘレネーがよくサボっていることについても、平兵衛先生は「行きたくなきゃ、行かねえでいい」と、理解を示した、とかなんとか。そういう話をしていた。刃沼は、イスの肘掛部分に、膝と頭を乗せて、行儀悪く寝そべっていた。

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