第4節 「或る研究員」
◆海岸のベンチ
刃沼は珍しく外へ散歩し、海岸のそばに見つけたベンチに腰かけた。
刃沼(カモメがカァカァ)
ウミネコが飛んでいた。しばらくして初老の男性が隣に座る。
「隣、いいですかね?」
「もう座ってる癖に」
相手はどうも話したくて仕方ないと云った様子。
害骨「これも何かの縁ですなぁ。私は害骨といって――」
「何の縁があるの」
「ここで出会った縁ですが?」
「そう……」
「ゴホン。私は害骨と云いまして、まあ色々と研究している者です」
「研究者……」
「ええ、まあ」
*
害骨はポケットから何かを取り出そうとする。
刃沼(研究用の物品でも出すのかな……?)
刃沼は期待して、ポケットを注視するが、
害骨「そちらは将棋、知っております? 何ならオセロ、いや、リバーシ? それでもいいですし、 トランプもあるんですがね」
害骨が出したのは、ポケットタイプの将棋セットとリバーシゲームセットと、トランプだった。
刃沼「……」
刃沼が黙っていると、害骨は淡々と将棋の駒を並べ始めた。
*
害骨「最近、やっといじめが観察されましてねぇ……、あ、そこ二歩ですよ!」
害骨「とある方に、ちょっと細工をしてみたんです……、飛車もらいましたねこりゃ。王手飛車取りです」
刃沼「ぬうう」
害骨「いじめっ子を見ると、頭痛を起こすよう作ったんですが、短期間で回復してしまってねぇ……、おや、そちらの歩、全部もらいました。やった」
害骨「今度は何を試そうか、という段階ですね。しかしまあ……、あれ、今そちら、飛車が取れたのに、ドジしましたね」
害骨「しかしまあ化け物が出ましてね。ありゃ実験の失敗作ですよ。研究員の誰かが暴走してましてね。狂人化現象が研究員にまで及んでしまったようなんですが、他の研究部門についてはさっぱり相互に手出しできなくて……。滅びるまではこうやって将棋でも遊んで……、あれれ、角、取られちゃいましたね」
害骨「はい、王手と。もう逃げられませんね? では、ありがとうございます。楽しかったです。すいませんね、一方的に話し込んで、一方的に攻めてしまって。ではまたいずれ」
害骨は将棋盤を畳み込んで、海岸沿いに去って行った。
刃沼(強かった……。それにしても相手さん、終始独り言の多い人だった)
刃沼と云う人間は、人の話をあまり聞いていない。そういう者だ。




