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猫だろ

作者: 栖坂月

 この季節、出掛けるにも休むにも億劫な土曜日の昼食といえば、ソーメンが定番だ。父親以外の家族――祖父と母親、そして中学生の息子が今日も黙々とソーメンを啜っている。

 そんな、日本の日常としてはあまりにもありきたりな場面にふと、外からの『声』が入り込んできた。

『杉宮警察署からご連絡いたします』

 ひび割れたスピーカーの音が、木霊を繰り返しながら響く。防災行政無線、この時期には光化学スモッグや熱中症への注意喚起が毎日のように聞かれるので、気に留めるほど珍しいものではない。

 ただ、それらは基本的に『保健センター』の管轄となるので、警察からというのは少し珍しかった。ただ、最近は振り込め詐欺に対する注意喚起が放送されることもあったので、またそんな話だろうと思いながら三人はもぐもぐと口を動かしている。

『今朝、午前4時頃、山崎地区にて不審な生物が目撃されたとの報告がありました』

 あまり聞いたことのない放送に三人の動きが止まる。

『特徴は色が黒くて四足――』

 野良犬とか狸は近所に住んでいる。さすがに熊が出たことはない。

『短い尻尾に尖った耳――』

 まぁ動物だ。

『藪に身を潜めて二つの目が爛々と輝いていたそうです』

「野犬かな?」

「きっとそうね」

「熊は出ないじゃろうしなぁ」

『また、何の罪もない大木を爪で何度も引っかいたり――』

 猫かな?

『高くて狭い場所に上ったり――』

 塀の上とか好きだよね。

『暗くて狭い場所に好んで入り込んだり――』

 自分の大きさとかわかってないよね、あいつら。

『素早く動く物体に反応するなど、注意が必要です』

 もう猫でいいだろ。

『そして時折ニャーと鳴きます』

「猫じゃん!」

「猫よねぇ」

「猫じゃなぁ」

 総ツッコミである。

『見かけた方は刺激せず、退避した上で杉宮警察署にご連絡ください』

 いや、そんなんで警察に電話するな。せめて保健所にしろ。

 ともかく、退屈なお昼を潤わせる小粋な役場ジョークは、こうして小さなもやもやを残しつつ終了――したかに思えた。

『杉宮警察署からご連絡いたします』

 5分後、そろそろソーメンを食べ終わろうかというタイミングに、まさかの続報が飛び込んだ。

『先程放送いたしました不審生物は、無事保護されました』

 まぁ猫だし、とりあえず見つかって良かった。不審生物じゃないけど。

『不審生物改め折川源三おりかわげんぞうさんは少々の衰弱は見られるものの命に別状は見られないとのことです。皆様、ご協力ありがとうございました』

「誰だよっ」

「何だか聞いたことあるような……」

「源三さんかよ!」

 知り合いかよっ。


 後日、源三さんは神社でお祓いをしてもらったそうです。


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― 新着の感想 ―
[一言] コメディだけどよくよく考えたらホラーだよね (ι´Д`) やぶに身をひそめニャーって鳴くおっさんとかチョー不気味 ww
[一言] 最後に吹いてしまいました。 最近生活が落ち着き、どうしようかと考えていた所、とても楽しく読めました。技術ではなく表現したいものが伝わってきました。 出だしの客観性と共感性のある視点から、三…
[一言] 拝読しました。 すっかり出オチかと思っておりましたわたくしが悪うございました。 それにしても、源三さん、一体何があったのかは、後日談で語られることになるのでしょうか?
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