安心です
「おえっ」重い剣を振り回しながら俺はうめく。もう喉の前まで胃液が上がってきて…
「シゲマル殿、大丈夫ですか!」
「おえええぇえぇぇえ」
巨大ヒトイムにゲロを思いっきりひっかけた。
「うわあ汚ったね」ヒトイムが日本語を喋っている。敵もしゃべれる設定なのか、ややこしいわ。
「助けてえ王様」
予想外のドヤ顔で、王様が懐から短剣を取り出した。
「わしだって昔はキラータウン最強の剣士だったのじゃ、こんなのは簡単に倒せるぞ」
王様、かっこいい…のか?いい年したおっさんなのに無理すんなよ…
「ホォーーーーイ!」
意味不明な奇声を上げて王様の攻撃が始まった。凄まじいスピードで回り込んで、後ろから短剣を投げた。
…え、投げちゃったの?
「あぁ、わしの短剣が…」
アホかあんたは!何を投げとんねん!
「くっそ、俺が行くしかないのか!」
ピンチというところで、救世主が現れた。
「私が助けて差し上げましょう」
大地が蠢き、風が強くなった。透き通るような「その声」は、誰かに似ていた。
「この悪しきものに、天罰を」
ただの厨二病…じゃないよな?魔法使いか?
「うわああああ!」
ヒトイムは叫びながら天に飛んで行った。神様に罰が下されるようです、ご愁傷様。
「貴方は誰だ?」
突然空から現れた魔法使いに、疑問を抱く。
このRPG、どこまでストーリーぐっちゃぐちゃにすれば気がすむのだろう。新しいヒロインの登場だ。
「私はクレア、キラー家長女でございます」
「姉さん、おかえり!」
再会イベントだな、一種の。特殊すぎるが。
「姉さんがいたなら早く言ってくれよミレア」
「すいませんでしたシゲマル様」
遠目から見たら服従しているようにしか見えないこの関係を、クレアはあまり良く捉えなかった。
「貴方たち…イケナイコトはやめなさいね」
俺たち、何すると思われてんだろ。ふっとミレアの方を向くと、顔を赤らめていた。そちらもそちらで何をする気なのでしょう。
「あ、あと私は呼び捨てでいいですよ、逆にさんとか付けられると非常に迷惑ですので」
何がそこまで嫌なの、この人は。ちょっと狂ってそうだな。
「ところでそちらの方の名前は…」
「シゲマルです」
「勇者様ですね」
「シゲマルだ」
「勇者様」
「シゲマル」
「勇者」
「このままだときりがないので話を変えますね、この世界にはあと2人の勇者がいます。その2人を見つけ出し、3人で協力して魔王を倒してください」
いきなり言われましてもねえ…時と場合ってもんが。
「勇者は神出鬼没、見つけたらとりあえず話しかけましょう」
そしてクレアは消えた。何の魔法を使ったのかはわからないが、あれは本物の魔法使いだった。やはり混乱する。
「シゲマル様、姉さんに惚れないでくださいよ」
「まさか、流石にそんなことはないさ」
言い張ってるが本当にそういくのか。浮気症ではないかと心配になる。
「惚れたら私の立場が…」
ゴニョゴニョして俺には聞こえなかった。
「え?なんか言った?」
「何でもないです」
頬をぷくーっと膨らませて、ミレアがちょっと怒る。イライラしたら止まらないのがミレアだ。めんどくせえ…
「大丈夫、俺が好きなのはミレアだけさ」
…はっ!?と思った。いきなり素直に言ってしまった自分に呆れた。あーあ…
「それなら、安心です」
彼女は微笑んだ。今更ながらさっきの台詞が恥ずかしく思えた。
俺の結婚相手はミレアなんだ、ミレアだけを好きでいよう。