ヒトイムです
「あぁ寝付けねえ」
昨日は最悪だった…風呂から出た瞬間にコーラ一気飲み、炭酸が苦手というか飲めないレベルだったはずなのに、飲まされまくったのだ。口の中がしゅわしゅわしてる…
「深夜一時か、何にもすることないなあ」
前の僕だったら深夜アニメを見ていた頃なのだろうが、いつかその僕はどこかにおき忘れてきてしまったらしい。アニメに興味がなくなって、ゲームに興味を持った。
現実世界がRPGになるなんてその頃は考えもしなかったな。今思うと別に変にも思えない自分がいるけど。
「トイレ行こっと」
2階突き当たりのトイレへ眠い目をこすりながらゆっくり歩いていく。
「あれぇ〜シゲマル様ぁ?なにをしておらっしゃるのでちゅかぁ?」
厄介なのに見つかった…ていうか寝てくれ。
「ちょっとトイレに」
「わたちもいきまちゅわ」
寝ぼけてるミレアはとてつもなく面倒くさい…なにをしだすかわからない。無理に起こすというのはかわいそうだしベッドに運んでいくのも気がひける。
そうなると頑張ってやり過ごすしか…
「トイレに入ってくんな!変態か!」
一つの便器に二人で座ってどうする。しかもミレアは服着てるし。普通ならば羨ましいシチュエーションかもしれないが僕にとってこの状況はあまり嬉しくない。
「ミレア、近いよ!あそことかあれとか当たってるから!」
詳しく言うとバストと股間が当たっている。あかん、いろんな意味で逝きそう。
「出て行きなさい」
怒り心頭。ミレアを引っ張り出して僕は大の方をしよう。
「あぁすっきりした」
トイレから出ると横たわる死体みたいなのを見つけた。ミレアだ。本当に、面倒くせえ。
「運んでやるか…」
お姫様抱っこをして僕はミレアの部屋に行った。ミレアの髪の毛の香水の匂いが、また男の獣ゴコロを誘う。襲いたい…いや、ダメだな。
「おやすみ、ミレア」
ぐがーという寝息しか聞こえない。寝息だけならおっさんにしか思えない。
「顔はくそ可愛いのに…」はっ、と我にかえる。破廉恥なことを言ってしまった。勇者たるものがこんなことを言っていては…
「娘よ〜お父さんの性欲の処理を」
「は?」
「へ?」
しゃ、喋れない…言葉が出てこない。
「まさか王様…?」
「ち、違うぞ!おやすみなさいシゲマル殿」
平静を装ってるのはわかるがそこまでしなくてももうバレてるからね、王様。
処女じゃなかったり…?いやいや、それはあかん。
「僕も寝なければ」
自分のベッドにボスッと飛び乗り布団もかけずに寝る。冷房つけっぱなしだけどいいか、今は暑いし。
「ん…?」
朝だ。起きて朝ごはんを…
「いってぇ」
頭がガンガンする。何故だか体が熱く…
「体温計どこだっけな」
どこにしまったか忘れた。誰か呼ぶか。
…ガチャッ。
「どうしましたかシゲマル殿!まだここで死ぬ運命ではありませぬぞ!」
「死にませんから…今日そういうテンションじゃないので」
王様が真面目な顔つきに戻る。真剣に聞いてくれるようだ。
「体温計を取ってくれ」
これしか言わないのも申し訳ないが緊急事態だ。お願いする。
「これですね」
「それは電○ですよ、なんでうちにあるのでしょうか」
「これですね!」
「それです」
体温計を脇に当て、20秒ほど待つ。電子音が鳴って計測完了。便利な時代になったものですなあ。
「37.6度、完全に風邪ひいたな…」
「おや、シゲマル殿の世界ではこの体温で風邪と判断されるのですか?」
どうやら現実とゲームの中で違うらしい。じゃあ今王様は風邪ひいてるのかも。
「王様の世界ではみんな体温が高い感じですか?」
「その逆ですよ、みんな低すぎて平熱で32度とか」
低すぎだろあまりにも。僕だったらとっくにお陀仏な体温だ。
「ということなので今日は勇者はお休みです」勇者の自覚がついてきた証拠だ。もう完全になりきっている。
「そうですか、じゃあゆっくり休んでくだせぇ」
最後の最後で「くだせぇ」だってよ。王様の脳内はタイムスリップしてるな。
「暇だな」
よく考えると、連日でクエストを受注していた。そのせいか、体がRPG向けになっているというかなんというか…
「大変ですシゲマル様、魔物が…ってどうしたんですか一体!」ミレアは状況を把握できていないらしい。そりゃ王女だもんな、風邪とは縁のない人生を送ってきたことだろう。
「それは後で説明するから、魔物がどうしたって?」
「ああえっと、前回私たちが倒したスライムは子供だったらしく、その親玉がキラータウンに近づいてきているらしいです、子供を倒したのは私たちだと気付いているかもしれません」
スライムだよな、俺らが倒したのってヒトイムだったはずだったよな。
「あ、間違えましたヒトイムの親玉です」
ミレアさん二度目の間違いですよ。スライムとか出てきたらド○クエのパクりになってしまうような気がする。
「でもまぁ今は戦えない、ごめん」
そんな大事な時に勇者が風邪なんてみっともない。さっさと治さねば。
「大変ですシゲマル殿!」
突然の王様参上。重要なお知らせがあるみたいだ。
「キラータウンに、巨大なスライムが…」
その瞬間だった。僕の家…じゃなくて今はキラー城か。キラー城の壁が崩壊した。
そして巨大な魔物が、姿を現した。
「王様、ヒトイムじゃないんですか?」
「間違えましたヒトイムです」
んなこと言ってる場合じゃないよ。
僕はキラーソードを構えて、戦闘態勢に入った。