#08 THE OVER
Scandalのデビューシングル収録は思いの外、時間を要していた。とはいえ、それは彼女らのミスではなくて、加速するかのように進化する4人に対してUCとYoshiが何度もアレンジを変えていたからだった。
「まさか、ここまでレベルアップするとはな..曲の変調だって当初から比べたらまったく別物だし、大袈裟にいえば全然違う曲だろ?」
驚きとアレンジに追われるYoshiが隣のUCにそう告げると
「確かにそうだな..ボーカルのharunaのあの声はボーカリストとしての資質を持って生まれたようなもんだし、リズム隊のtomomiとrinaのコンビは息が合ってるだけじゃなくポイントでは競い合ってるからメリハリが半端ない...加えてmamiのメロディのセンス、あれはYoshiを越えるぜ?」
とUCがパソコンの画面をにらみながら笑う。
「それでこれからどうして行くんだ?もうちょっとクセの強いアレンジに仕上げるのか?」
「いや...とりあえずデビューシングルはここまでで止めておこう...これ以上に仕上げることも可能だが、それだと次が詰まってしまうからな..何事も腹八分目っていうだろ?」
こんな会話をしながらUCは久しぶりの音楽活動に充実感を味わっていた。the edgeを解散してからまるで抜け殻のような自分がまたこんな風にかつての仲間と音楽に携わるとは思ってなかったし、こんなにも笑える日々が訪れる事も予想すらしてなかった。
「ところでUC..この前空港でtomomiが言ってたんだけど、お前とmamiってなんかあったのか?二人で曲作りしてからmamiの様子がおかしいらしいんだけど…」
とそこまで言ったYoshiに慌てる様子のUCが
「バカいうなょ...いくらオレだってそのあたりの分別くらい出来るし、仮に美咲さんの教え子に手なんかだしたら、お前それこそ..」
と言うが、Yoshiは更に面白がって
「そんなにムキになるなょ!余計に怪しいぜ?でもオレ的には結構似合うと思うけどな...お前とmami」
と付けくわえた時に、ふとUCが何かの気配を感じてスタジオの扉を見ると少し開いていること気付いた。
「盗み聞きってヤツはよくないと思うぜ?mamiか?」
ごめんなさい…
そう言いながら扉が開くとそこにはmamiの姿があった。
慌てるYoshiとは対象的に落ち着いた様子のUCは
「まぁ…こんな時間にここに来るのはmamiくらいだからな...
どうした?眠れないのか?気持ちは分かるけど…今お前たちがやることは明日に備えて体を休めることだ。結構バンドやるってのは体力使うんだぜ?」
と優しく言って、mamiに近づき軽く頭をポンポンと撫でた。
“これだもんな...完全に愛情表現としか思えないだろ..”
Yoshiは心の中でそう呟きながら二人を見ているとまるで、
数年前のUCとkumiの姿を見てるかのような錯覚を覚えた。
「UCさんに聞きたいことがあって...今度にしようって思ったけど、なんか気になって気になってしょうがなくなっちゃったし、こんなんで明日からのリハに影響したらharunaたちに申し訳ないし...」
すっかり落ち込んだその様子は昼間見たアグレッシブなギターの旋律を放つmamiとは同じ人と思えないほど、違って見えた。
「それで?何を聞きたいんだ?」
パソコンを閉じながら、少し厳しめの表情でUCは告げる。
尋ねられたこと