#07 START
久しぶりのニューヨークの空気を吸い込んだYoshiは大きく背伸びをしながら "…やっぱり日本の空気のほうがいいな…"と呟いた。
「Yoshiさん!待ってくださいょ~、ウチら楽器持ってるんだからそんなにスタスタ先に行かれちゃ、迷子になっちゃいますょ。」
後ろから叫んだharunaの声に振り返り、
「そうは言ってもmamiのおかげで、かなり時間過ぎてしまったしな…オレはかまわないけどアイツはあれで結構せっかちなほうだから、きっと嫌みの二つ三つは言うと思うぜ?オレだけに…」
とYoshiは笑顔で答えた。
「あっ!でも迷子になることもないょ!?だってmamiが来た事あるじゃん!UCさんのスタジオに!。」
思い出したように言ったtomomiの言葉に小さな声でmamiは
「えっ?…なんとなくも覚えてないょ…道なんて…あの時はUCさん迎えに来てくれたし、緊張したまま隣に座っていたから外なんて見てる余裕なかったし…。」
と少し照れ隠しのような赤ら顔で答える。
「なんかあったん?UCさんと‥?なんか最近のmami変なんだよね…それもニューヨークに行ってから… 」
ズバリ確信を得たような口振りのrinaにmamiは慌てて
「な…何、言ってるの?! あるわけないじゃん!なんにも!」
と答えていた。
そんな様子を見ながらYoshiはため息をついて
"やれやれ…mamiもアイツの変な魅力にひかれちまったのか…kumiちゃんみたいな事にならなきゃいいけど…"
と呟く。そんなYoshi達の後ろから突然のクラクションが鳴り響き、驚いたharuna達が振り向くと、見慣れた男の姿が見えた。
「おいおい…いったいどのくらい待たせてくれるんだょ‥Yoshi…だいたいお前は昔っから待ち合わせに
ルーズ過ぎるんだ、まったくギター以外は中学生レベルなんだからょ」
イライラした様子のUCが次の言葉を発する前に、
「違うんだUC…mamiがなかなか入国手続き取れなくてな…なんせパスポートの写真と髪型から色まで別モノだし、楽器持って来てるのにロックバンドって信じてもらえなくて、結構大変だったんぜ?お前に頼まれてscandalをここまで連れて来るのも‥」
と先手を打ったYoshi の言葉にUCは、なんにも言えなくなってしまうが、ふと目に止まったmami達の楽器を見て
「Yoshi…オレは言ったはずだけどな…今回のレコーディングに楽器はいらないって…全てこっちで手配するってあれほど言ったのに…」
とため息まじりに告げると
「とにかく時間もあまりないんだ、スタジオで待ってる奴もいるし、早く乗り込んでくれって言うのがオレの素直な気持ちさっ!」
と付けくわえた。
数十分後にUCのスタジオに着くなり、YoshiとscandalのメンバーはそこにいたkumiとMieの姿に驚き
「どうして二人がここに?」
とYoshiが声を上げると
「まぁ…成り行きってヤツかな?いつものオレの気まぐれも半分以上あるから、気にすんなょ!」
とUCは答えてスタジオの照明の灯りを灯した。
すると、そこには新品のドラムセットをはじめギターが2セット、ベースが1つセットされていて、得意気そうな顔でUCが
「一応、セットアップも終わってる...セッティングについては今回の新曲をベースにしながらも出来るだけ、現在のscandalに近いモノにしてみた..」
と説明するとharunaたち4人はまるで悲鳴のような歓声を上げて
それぞれの楽器の前に立った。
「でもUC...これって全部上級者向けのモデルばっかだろ?
リリースまで3ヶ月をきったこの時点で楽器を変えるなんて、少し無茶苦茶過ぎると思うけどな」
Yoshiが不安そうな顔でそう告げるとUCは軽く微笑んで
「これくらいハードル上げたところで転んでしまうようなバンドじゃないはずだろ?scandalはこれから先the edgeを越える
Queen of Rock'n Rollになってもらわないとな...中途半端なオレたちのようなバンドになって欲しくはないんだ。出来るだろ?haruna.mami.tomomi.rina?」
とscandalの4人に尋ねた。
「やります!たとえ出来なくてもやります!」
Yoshiの心配などまるで必要なかったかのように笑顔で答えた4人にUCも勝ち誇った様子で
「まったく本当にお前の心配性は昔から変わんないよ、こいつらがそのくらいの事で挫けるわけないだろ?もしも本当にそんな壁にぶつかって立ち止まってしまったらオレがきっちりサポートしてリリースに間に合わないなんて事はさせないから、安心しろょ!....それからkumi..オレがお前たち2人に伝えようとしたことが、これなんだ。例え何かにぶつかってしまったとしても、夢とか、叶えたい想いってヤツは伸ばした自分の手のちょっと先にあるんだ。残念なことにその少しの距離を詰めて行けるのは他の誰かじゃなくて自分自身の力だけなんだよ...」 と告げてから一呼吸置いて、
「そのあたりを踏まえて、今からこの4人の演奏を聴いて欲しいんだ。そこから何かを得てなおかつそれでもどうにも出来なかったら、改めてオレに頼めばいいさっ!その時はオレも精一杯の力を貸すから...」
とkumiに優しく伝えた。
「ありがとう…」それだけ言うのが精一杯のkumiは大粒の涙を流す。それからはじめられたscandalの演奏がkumiたちにどんな風に伝わったのかはわからないがUCの気持ちは少なからずともkumiの奥底に激しいくらい伝わっていた。