#06 Stella
一晩中なき明かしたのか、とても人前に出れるような瞼じゃないkumiと何がなんだかもわからずkumiの行動をなぞるMieは二人して無言のまま、日本に戻る支度を始めた。何度もkumiに何かを尋ねようとMieは声を掛けようとするが、何故か途中で言葉がつまってしまう。帰るにしても飛行機のチケットすら取っていない事も知っているMieだが自分の為にここまでしてくれたkumiには何も言えず、ただただ言われるがままの自分に少しだけ腹がたった。
" コン、コン"
二人のその沈黙を破るかのようなノックする音と扉が開く音が重なると、その扉の向こうにはUCの姿があり、支度する二人の姿を見ながら、
「…昨日は悪かったな…ついつい忙しくてな…邪険な態度だったのを反省してるょ…せっかくここまで来たんだから、もう一泊くらいしていかないか? 実は今日の午後、美咲さんから頼まれたscandalがレコーディングをかねて、ここに来るんだ。Mieちゃんに納得するような曲を作ってやれないかわりに彼女らの演奏聴いて欲しくてな…」 と言った。
荷物を詰める手が止まって、少し考えた様子のkumiが
「ちょっと待ってょ、確かに突然押し掛けた私たちも非常識かも知れない…でも、だからといって手助けしてもらえない私たちが,UCのプロデュースしている女の子たちの演奏聴かされるのは酷じゃない?」と興奮しながらいつもより高いトーンで叫んだ。
それでもUCは落ち着いた様子でポケットから封筒を差し出して
「まぁ…そう熱くなるなよ?これは明後日の日本行き二人分…こいつはオレの詫びとして受け取ってくれ…それからscandalの件だがお前が思うようなイヤミな感じじゃなく、オレ的にはMieちゃんの答えがそこにあるような気がしたからさ…別に嫌なら聴く必要もないし、そのまま帰るのもいいんじゃないかな? まっ、とにかく夕方あたりからリハーサルやる予定だから、それだけ伝えておくよ!」と告げると扉を静かに閉めた。
緊張感から開放されたかのようなMieの口から
「どうするの?お姉…UCさんの言う通りに…」といい掛けられると、kumiのテンションはさっきよりもまして、
「何よ!本当にUCって勝手な人…昨日あんなに冷たかったクセに急にこんな優しくしちゃって…もう…」と叫んだかと思うと両手で顔を覆いながら、俯いてしまった。
"少しの間そっとしておいたほうがいいのかもしれない"
そんな事を考えながらMieは部屋を出るとUCを探し始め、キッチンのほうに向かうと慣れた様子でコーヒーをドリップしているUCの姿を見つける事が出来た。
「UCさん、あの…すみません、お姉もあんな態度とるつもりはないと思うんですけど…」
そう告げる声にUCは振り返りながら
「わかっているょ…アイツも結構オレに似て不器用なとこあるからな…気にはしてないさ。それよりどうだ?コーヒーでも…結構自信持っているんだぜ?コーヒーの味には」
とカップをMieに差し出し、テーブルの椅子を引き出すと、そこに座るよう促し、自らもその反対側に腰を下ろした。
「美味しい…」 と一言、漏れたような声で呟いた後でMieは
「ありがとうございます。UCさん、口ではいろいろ言いながらも
作ってくれたんですね?」
と、言いながらポケットからCDを取り出した。
「さりげなく見つからないようにチケットの下に隠して置いたんだけどな…kumiは知っているのかな?」
と小さな声でMieに尋ねるUCに
「たぶん、まだ気付いていないと思います。」とMieが答えて、言葉を失い始めた二人の間にしばらくの間、沈黙が続いた。
「誤解されるといけないからMieちゃんには説明するけど、kumiには内緒にしといてくれないか?アイツは思い込みが激しいしオレに対して恩を感じられても困るんでな…」
そのUCの言葉にMieは黙って頷くしか選択肢はなかった。
「まず、オレがキミの曲作りに手を貸さなかった理由は、オレ自身がキミの歌を聞いた事がないし、どう手を貸してやればいいのか、わからなかったからさ…。そしてそのCDに入っている曲もキミの為に作ったものじゃなく、オレの未発表の音源をなんたなくのイメージでアレンジしただけだょ…だから特に気にすることもないし、仮にあの音源使うのならオレの名前なんか出す必要もない…」と、そこまでを一気に言うと静かにUCは立ち上がり二杯目のコーヒーをカップに注いだ。
「えっ?…そんな訳にはいかないです…」
慌ててMieが言い掛けるがUCはさらにそれを遮るように
「昨晩、キミの歌を何曲か聞かせてもらったけど、kumiよりも完成度は高いと思うぜ?なのにあれ以上何を求めて、どこを目指してるんだ?その疑問符が生まれた瞬間にオレの中ではScandalが浮かんだ。そこに答えがあるんじゃないかな?って…」と告げた。
心のどこかでkumiとおんなじようにscandalの演奏なんか聴くつもりもなかったMieだが、UCの言葉で心が揺らぎ始めていた。