#04 memories of blue
Scandalの一件が終わり、しばらくの間は日本での活動がメインとなるためにUCは一度ニューヨークに戻る事となり、一つだけ気掛かりとなっているkumiの妹であるMieの事だけは再び日本に帰る前に片付けておきたいと思っていた。ニューヨークに向かう飛行機の中で久しぶりにアルコールで喉を潤すとなんだか眠気に襲われグラスが空っぽになるのと同時にゆっくり瞼を閉じると、あの日の光景が瞼の裏に広がっていく。珍しくニューヨークに激しい夕立ちが降ったあの日,kumiは突然UCの前に現れ、あの頃の過ちにすら触れもせず自分の要求だけをただUCに押し付けた。まだあの頃だったらそんなワガママすらも全て受け入れたのかも知れないが今となってはkumiとは他人であり、たまにthe edgeという過去の名声を頼りに曲の依頼をしてくるクライアントと存在的には、あまり変わらない。だいたい関わるつもりが微塵もないから
エアメールすら開けずにいたのに、突然家まで来るなんて、脅迫となんら変わりない。おまけに急に来たからホテルすら取ってないから泊めて欲しいなんて図々しいにも程があるし、2日も機材に囲まれた狭い1Fのスタジオで寝るなんて事は想像すらしてなかった。玄関口で話すのもどうにも不自然であまり気は進まなかったが、とりあえず二人を部屋に上がるように促し2Fのリビングへと案内した。UCがキッチンで 三人分のコーヒーを支度していると
「ねぇ…UC…どういうわけ?私からの手紙、このテーブルの上で封さえ開けてもらってなくてそのままなんだけど?」というkumiの声が聞こえてきた。トレーにカップを乗せリビングに向かいながらUCは「どうもこうもないだろ?それが答えだ‥お前からの手紙なんて読む気すら起きない…。ゴミ箱行きにならなかった事がせめての優しさだと思ってくれ…まぁ何かとオレも忙しいからな
つまんない事に時間を費やしてる暇もないんだ」と悪びれる様子なく告げた。二人の前にカップを置いて自分もその正面に座り、煎れたばかりのエスプレッソの味を確かめると思ったとおりの納得の出来に思わず" oK "と声を出してしまった。
「何それ…それが久しぶりに会った私に対する態度なの?私だってUCには頼むのは間違えてるってわかっているけど、他に方法がないのよ。助けて欲しいの、お願い…Mieに一曲だけでいいから…」
少し興奮気味なkumiの言葉をUCは途中で遮って
「悪いけど、そういう話なら、なおさら他を当たってくれ。大体そんな話、旦那にでも頼めよ!Mieちゃんだって今じゃお前と同じレーベルなんだから、オレんトコに話が来る事自体が間違いだろ?」とストレートな意見を出した。あまりにも当たり前で的確なその言葉はkumiにその後の言葉がうまく切り出せず、ついつい
「だって言ったトコでやってくれないし……それに…今、一緒に
暮らしてないから話す機会ないし。」
と再びUCの神経を刺激するようなセリフを吐いてしまう。
「あのな…どういう過程でオレのトコに頼み来たかなんてまったく興味ないし、もっと言えばお前の近況にすら関心がないよ。もしお前が逆の立場でわかったなんて軽々しく言えるのか?何年も前に振られて、突然目の前からいなくなった相手からの頼みに快く期待通りの返事がもらえると思ってるのか?それにオレはヒットメーカーじゃない……ただ自分の好きな音楽を歌う事しか出来ない男さ…これ以上その話が続くなら、はるばる遠いトコから来てもらってなんだが帰ってくれないか?」とUCはソファーから立ち上がり下のスタジオへと降りて行ってしまった。