遊びの代償
その日の仕事を終えて帰り支度を整えていた執務室内。突然の侵入者に、シミオン以外の三人が捕まった。
「お、王妃様、王太后様、何を?」
ライの背中に張り付いているのはヴィー。イライアスにはルミナリエ。そしてノインは影に捕まっている。一人自由の身のシミオンが狼狽えていると、ヴィーがにっこりと微笑んだ。
「少し遊んで貰おうと思ってな。面白い物が見られるぞ。シミオンも共に来ると良い。」
ライは始めから抵抗を諦めていた為に拘束を解かれ、イライアスは暴れ続ける為にルミナリエによって簀巻きにされた。ノインは、小柄な為にオンブルの肩に担がれてしまっている。そうして四人が連れて行かれたのは城内の一室で、数人の侍女達が顔を輝かせて待っていた。
「ヴィー、私は嫌です。」
「頼む!どうしても見たいんだ!その為に生贄も確保した。イライアス殿も中々美しいから似合うだろう?」
「では生贄だけで我慢して下さい。」
「メインはお前なのに?」
「嫌です。」
「ケチくさいな。」
「ケチで結構です。………ですが、貴女がなんでも私の願いを聞くとお約束下さるのであれば、やぶさかではありません。」
「いいよ。なんだ?」
言質を取ったぞという風にライはにこりと微笑み、ヴィーの耳へと唇を寄せた。
「後で申し上げます。」
「わかった。では約束だ。着替えてくれるか?」
「はい。喜んでお受けしましょう。」
一転して機嫌良く笑ったライは自ら進み出て、侍女達に囲まれた。
「ライオネル、これはなんだい?」
「大人しくしていればすぐに終わります。屈辱もその分早く終わりますよ。」
「ら、ライオネル様、どうして僕まで?」
「可愛らしいからでしょうね。」
「僕、男です!」
「ノインも、諦めた方が身の為です。母上まで味方ではどうしようもありません。」
「オンブルまで出すとは、遊びに本気過ぎるだろう。」
溜息を吐いたイライアスも、逃げられないと悟ってされるに任せる事にしたようだ。諦め悪くしくしく泣いているのはノインで、背が低いからってとか、どうせ女顔ですよと言って拗ねている。
「ノイン、すまない。きっと可愛らしいだろうと思ってしまったんだ。泣く程嫌ならば、諦める。」
あまりにもノインが泣く為に、ヴィーの良心が痛んだ。だけれど王妃に心配されて、ノインの心は決まったようだ。
「いえ。王妃様のお望みとあらば、男として叶えない訳には参りません。」
「……私が泣いたら、解放してくれるかな?」
「イライアス殿は駄目だ。」
「何故です?」
「毒で悪戯するからだよ。」
イライアスは、そこまで酷い害にならない毒を紅茶に混ぜて、度々ヴィーに出していた。だけれどヴィーは勘付いて、今の所は被害に遭ってはいない。危機管理能力を鍛える為だとイライアスは言うが、ヴィーとしてはその報復も兼ねている。ルミナリエとオンブルはただの野次馬だ。
そうして完成した男達は、美しい淑女となった。
ノインは淡い黄色のふわりとしたドレスで、喉仏も肩幅も飾りや布で隠され、化粧を施された顔は愛らしい少女に化けた。短い髪は撫でつけられ、活発な女の子という感じだ。
イライアスは長い髪を複雑に結われ、濃い紫のドレスを纏った眼差しの鋭い美女に。
そしてライもまた、青いドレスを纏い、背の高い美しい女へと変身した。金茶色の髪も短さをカバーして上手い具合に結われている。
「おー!化けたな!こうなるとヴァンにもドレスを着せてみたくなってしまう。」
「やけにデカい女だが、流石妾の息子殿。美しいな!イライアスも中々。ノインも愛らしいのぅ。」
ほほほとルミナリエが笑い、ヴィーは嬉しそうに三人を眺め回っている。それを離れた所で見ていたシミオンは、標的にされなくて良かったとほっと息を吐き出していたのだった。
「ヴィー、ご満足頂けましたか?」
「あぁ、遊びに付き合ってくれてありがとう!」
満面の笑みのヴィーににこりと笑い返して、許可を得た三人は化粧を落として元の服へと着替える。そして、ライはヴィーを捕まえた。
「夕食は片手間で食べられる物を後で運んで下さい。朝食も部屋にお願いします。明日の執務は少し遅れて始めますから、そのつもりでいて下さい。」
「畏まりました。王妃様、なんでもライオネル陛下の願いを叶えるというお約束、お忘れなきよう。」
イライアスの三日月の笑みに見送られ、ヴィーはライに横抱きで運ばれながら自分の失敗を悟った。
「ら、ライ?なんでも…とは何を?」
「これからたっぷり、教えて差し上げます。」
「約束を反故には…?」
「もう着替えてお見せしたでしょう?無効にはなりません。」
楽しい気分から一転、青褪めたヴィーは自分の所為もある為に暴れる事も出来ず、上機嫌のライに寝室へと連れ攫われ、翌日はお願いの所為でベッドから出られないという目に合ってしまうのだった。




